96 コトラの帰還
誤って転生幼女は前世で助けた精霊達に懐かれるの最新話をこちらに投稿していた模様です。申し訳ありません。
グラキアスが送り届けてくれた場所から、氷の大精霊モナカの住処までは少し離れている。
「グラキアスもモナカに挨拶していけばいいのにね?」
「わふ」
ミナトがグラキアスを見送りながらそういうと、タロは同意して尻尾を振った。
「……まあ、挨拶はいつでもできるだろうしな」
レックスは、そう言いながら飛んでいくグラキアスに向かって深く頭を下げている。
「レックスは王と一緒に戻らなくてよかったのか? 執事長って忙しいんじゃないのか?」
ジルベルトが尋ねると、レックスはゆっくりと頭を上げる。
「俺は人里で得た情報を、王に報告する任についているからな」
「左遷ってやつ? 大丈夫? グラキアスに許してくれるようお願いしようか?」
「ああ、仮にも王を守れなかったからですな? 致し方のないことだったと思いますが……」
サーニャが心配そうにそういうと、ヘクトルも同情の目でレックスを見る。
「仕方ないとは言え、けじめというのがありますし……元気を出してください」
「王宮というのは竜も大変なんだなぁ。長い竜生こんなこともあるさ」
「なに、すぐに復帰を許されますよ、きっと。後になれば笑い話になりますよ」
アニエス、ジルベルト、マルセルも、レックスを元気づける。
「そっかー、レックスも大変なんだねぇ。知ってたらグラキアスにお願いしたのに……」
「大変です」
ミナトとコリンまで心配そうにレックスを見る。
「ばう~」「りゃむ~」
タロとルクスが、元気づけるためにレックスの顔をベロベロと舐めた。
ルクスの舌は小さいが、タロの舌は大きい。レックスの顔があっという間にベトベトになる。
「タ、タロ様、待て待て。ルクスもありがとう。だが、へこんでないから舐めなくていい」
「わふ?」「りゃ?」
レックスはベトベトな顔を拭きながら言う。
「そもそも左遷じゃない。俺は今も執事長だからな? 元々氷竜王の執事長は、何でも屋なんだ」
レックスが言うには、氷竜王の執事長は、人間の王の執事長とは違うらしい。
王の身の回りの世話や、王の賓客の相手のような、執事っぽい仕事はしないのだ。
「じゃあ、レックスは何してるの?」
ミナトが尋ねると、レックスは頷く。
「いい質問だ。話題の新製品や珍しい品を手に入れたりするのが主な仕事だ」
「へー。じゃあ、普段から人里に降りてたの?」
「ああ。だからこそ、王の危機の際に人里に送られたという経緯がある」
「わふわふ~」「りゃむ~」
タロとルクスが「なるほど~」と言って尻尾を振った。
レックスは、数日か数週間に一回、王宮に戻って報告する予定らしい。
レックスのお仕事について話をしていると、周囲の匂いを嗅いでいたコトラが鳴いた。
「んな~」
「あ、そうだね。早くいこう。お姉ちゃんが待ってるものね」
「にゃ」
先頭に立って歩き出したコトラの後ろを、みんなでついて行く。
「コトラ、道はわかる?」
「にゃ!」
自信満々に尻尾を立てて、コトラは進む。
五分ほど歩いて、氷の大精霊モナカの住処の近くまでやってきた。
『ミナト様、タロ様、皆様も! よくぞご無事で! 我が友を救ってくれたこと感謝いたします』
どこからともなくモナカが現れて、ミナトに抱きついた。
モナカは、グラキアスに似た雰囲気の、華奢な少女の姿をしていて、ひんやりしているのだ。
「モナカ。連絡がおそくなってごめんね?」「わふわふ」
『いえ! いえいえ! グラキアスが助けられたことはわかっていましたから』
「おおー、そなの?」
『はい。いやな気配も晴れましたし……』
ミナトとタロ、コリンが力を合わせて、呪神の使徒が仕掛けた呪いの結界の核を壊した。
それによって、周囲を覆っていたいやな気配が晴れたのだ。
だから、モナカには無事に解決したことはわかっていたようだ。
『それでも、ご無事なお姿を見るまでは、真の意味で安心は出来ませんでしたけど』
「そっかー、やっぱりごめんね?」「ばうばう」
『いえいえ。……あなたも無事だったのですね。よかったです』
「んにゃ~」
「コトラって名前になったんだよ」
『コトラ、いい名前ですね』
モナカはコトラの頭を撫でる。
「あと、ルクスも起きたんだよ。あ、この子はルクスって名前になったの」
『ルクス。改めてよろしくお願いします』
「りゃ~」
モナカとの再会を祝していると、
「がぁぁぅおおおおお」
「にゃあぁぁぁぁぁ!」
大きな咆哮が響いて、コトラが返事をする。
直後、矢のような速さで大きな虎の聖獣、コトラの姉が駆けてきた。
「がうがぁうがう」
「ごろろろろ」
コトラの姉はコトラを優しく舐めて、コトラは嬉しそうに喉を鳴らした。
コトラと姉との再開を、ミナト達は優しく見守る。
ちなみにコトラの姉の名前は「虎3号」である。
ミナトは名付けるときに希望を聞くのだが、種族名+号が、聖獣達には一番人気なのだ。
どうやら、聖獣たちは号の部分がたまらなくかっこよく感じるらしい。
「がううがう」
「ごろろろろ……」
虎3号と再会を喜ぶコトラを、コリンは少しさみしそうな表情で見つめていた。
「よかったです」
「そだね。本当によかった」「わふ」
「がぁぅ」
すると、虎3号がミナトの元にやってきて、お礼を言った。
「うん、コトラが無事で本当によかったよ」
「がう」
「わふわふ」
虎3号は、一人一人、順番にお礼を言っていく。
「がう」
「ありがとうだって」
「例には及びません。コトラが無事でよかったですね」
「ぴぎ~」
ミナトが通訳して、アニエスやフルフル達も返事をする。
虎3号が最後にお礼を言ったのは端っこにいたコリンだった。
「僕の方こそ、コトラには助けてもらったですよ。……さみしくなるです」
「がう?」「がう?」
虎3号とコトラは同時に首をかしげる。
「さみしくなるってなにが? だって」
「ん? どういうことです?」
コリンが尋ねると、虎3号とコトラが「にゃーにゃー」と相談を始めた。
「にゃ~? がぅ?」
「にゃう?」
そして、虎3号とコトラが少し不安げにミナトに「ついて行ったら迷惑?」と尋ねた。
「ん、全然迷惑じゃないよ? でも、コトラはお姉ちゃんと離れて、さみしくない?」
「なーうにゃーう?」
コトラは「さみしいけど、もうコトラも立派な虎だし、修行だから」と胸を張る。
「そっか、修行するのかー。もちろん歓迎だよ! よろしくね、コトラ」
だが、その話し合いの内容はジルベルト達には伝わっていない。
「ミナト、何の話だ?」
「えっとね、コトラが、ついてきてくれるんだって」
「それは嬉しいですね。よろしくお願いします。コトラ」
「にゃう!」
アニエスたちが歓迎し、コトラも嬉しそうに体を押しつけに行く。
「コトラ、よかったです!」
「ごろろろ~」
もちろん、一番喜んだのは、最近ずっとコトラと一緒にいたコリンだった。
コトラも嬉しそうにコリンの体を押しつけて、喉を鳴らした。
コトラと虎3号との再会が済んだと判断したのか、他の聖獣達が集まってくる。
聖獣達はコトラと虎3号の再会を邪魔しないよう、陰から静かに見守っていたのだ。
「がうがう」「がお」
「みんな元気だった? そっかー、よかったよー」「ばうばう」
「りゃ!」
「あ、この子はルクスという名前で~。あ、みんな! 竜焼きがあるよ!」
「がおがう」
ミナト達とモナカと聖獣たちは、竜焼きを一緒に食べて、再会を祝したのだった。





