95 氷竜王との契約
氷竜王を助けてから十日後のこと。まだ、外は吹雪いていた。
「ミナトよ。そろそろ吹雪が収まるぞ」
「そうなの? 外すごいけど」「わふわふ~」
ミナトは、客室の窓から外を見るが、相変わらず何も見えないし薄暗かった。
「ああ、明日か明後日には晴れる。……ミナトよ。ずっといてもいいのだぞ?」
グラキアスは、ミナトが抱っこするルクスを撫でながら、残念そうに言う。
晴れたらミナト達は山から下りる予定になっていた。
「ありがと。でも、みんな心配しているだろうし」
コボルト達は、コリンの帰還を待ちわびているはずだ。
それに、コトラの姉も心配しているに違いない。
神殿の者達はアニエス達の無事を祈っているだろう。
「むむう。一度無事だと連絡した後、戻ってきてもいいではないか?」
「ここは快適だけど……聖獣とか精霊をたすけないとだからね!」
「サラキア様の使命か……ならば、仕方ないな」
仕方ないと言いつつ、グラキアスは未練を顔に滲ませる。
「ミナトよ。我と契約せぬか?」
「あ、グラキアスは聖獣だもんね!」「わふ~」
「王となるものは、聖獣であることが多いが、我もその例に漏れぬ」
以前レックスが言っていたように、聖獣である竜の数は非常に少ない。
そして、聖獣は同種の魔物より強く知能が高いため、リーダーになることが多い。
「ミナトと契約することで、我も強くなるゆえ、呪神の使徒にも抵抗できるようになるであろうし」
「そっか、それは大事だね!」「ばう~」
今のままでも呪者や導師程度なら、グラキアスの方が強い。
だが、呪神の使徒となると話は変わる。
「自分で言うのも何だが、我は竜王を名乗る程には強いゆえ、ミナトの役に立てるはずである!」
「じゃあ、契約しよう!」
ミナトはグラキアスに触れると、
「じゃあ、いくよ! 君はグラキアス! 氷竜王グラキアス! よろしくね!」
「我の方こそ、よろしく頼む」
それだけで、ミナトと氷竜王グラキアスとの間に契約がなされた。
「おお、新たな力がわいてくるようだ、これがサラキア神の使徒との契約……」
グラキアスが自分の変化に驚いているのと同様に、ミナトも驚いていた。
「おお? ぼくもなんか強くなった気がする」
「わふばう」
「あ、そうだね! 調べてみよう!」
ミナトはサラキアの鞄からサラキアの書を取り出して開いた。
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ミナト(男/5才)
HP:558/508→758 MP:847/785→1027
体力:467→720 魔力:647→931 筋力:493→733 敏捷:502→702
スキル
「使徒たる者」
・全属性魔法スキルLv15→35 ・神聖魔法Lv40→52 ・解呪、瘴気払いLv112→120
・聖獣、精霊と契約し力を借りることができる ・言語理解・成長限界なし ・成長速度+
「聖獣・精霊たちと契約せし者」
・悪しき者特効Lv363→375
・火炎無効(不死鳥) ・火魔法(不死鳥)Lv136
・隠れる者(鼠)Lv72→73 ・索敵(雀)Lv44→45 ・帰巣本能(鳩)Lv28→29 ・鷹の目(鷹)Lv75→76
・追跡者(狐)Lv84→85 ・走り続ける者(狼)Lv56→58 ・突進(猪)Lv30→32
・登攀者(山羊)Lv25→27 ・剛力(熊)Lv139→142
・回避する者Lv60→63
・細工者Lv30 ・製薬スキルLv15 ・切り裂く者(虎)Lv56→61
・水魔法(大精霊:水)Lv+139 ・水攻撃無効(大精霊:水)
・氷魔法(大精霊:氷)Lv130 ・氷結無効(大精霊:氷)
・毒無効 ・状態異常無効
NEW
・古代竜の威(古代竜)Lv5 ・氷ブレスLv8(氷竜) ・竜の咆哮Lv5(氷竜)
契約者
聖獣239体+30人
・不死鳥2羽 ・ネズミ70匹 ・雀42羽 ・鳩25羽 ・鷹10羽 ・狐12匹
・狼5頭 ・猪3頭 ・ヤギ2頭 ・熊9頭 ・虎8頭 ・スライム20匹 ・コボルト30人
NEW
・古代竜一頭 ・氷竜一頭
精霊2体
・湖の大精霊メルデ ・氷の大精霊モナカ
称号:サラキアの使徒
持ち物:サラキアの書、サラキアの装備(ナイフ、衣服一式、首飾り、靴、鞄)
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これまでで最もステータスが伸びていた。
「おお、すごいねー。さすが氷竜王!」
「現在値の方が元の最大値より大きいではないか。しばらく更新していなかったのではないか?」
「あ、そっか、そうかも!」
最後にステータスを確認したのは、氷の大精霊モナカと契約した後だ。
これまでの最大値には、コトラとルクスと契約分は反映されていない。
その一方で現在値は、単純に今の値を表記するだけなので、今の数値が反映される。
「HPとかの今の数字と、最大値を見ても、凄く伸びてるよね、さすが氷竜王!」
「ばうばう」「りゃあ~」
「そ、そうであるかな? えへへ」
ミナトだけでなく、タロとルクスにも凄いと言われて、グラキアスは照れていた。
次の日、氷竜王の宮殿のある山頂は晴れた。
高所特有の青黒い空には雲一つないが、風は相変わらず強かった。
出立するミナト達を見送るために、グラキアスと氷竜達が勢揃いする。
「気をつけるのだぞ」
「うん! グラキアスも、みんなもありがと!」「わふわふ!」
「きゅーん」「くーん」
氷竜達は、別れを惜しんで、キュンキュン鳴いて、ミナトとタロに頭を押しつける。
コリンやアニエスたちにもだ。
皆が別れを惜しんでいると、グラキアスが大きな包みを持ってきた。
「ミナト、お土産をあげよう」
「これは?」
「あんパンとクリームパン、あと竜焼きだ」
「おお、ありがとう! 凄く嬉しい」「ばうばう~」
その包みの中には、あんパン、クリームパン、竜焼きがそれぞれ数百個入っていた。
「あと、氷竜王の腕輪も受け取って欲しい。ルクスにつけて欲しいのだ」
それは青みがかった銀色の腕輪だった。
「りゃ~~」
ルクスは気に入ったようで、ミナトに抱っこされたまま、両手を前に出してパタパタさせる。
「おお! かっこいいね! ルクスよかったね」「わうわふ~」
「りゃむ!」
「これを使えば会話したり、居場所がわかったりするのだ。ルクスが誘拐されたら困るゆえな」
「そだね! でも、この腕輪? ルクスの腕にはおおきいかも?」
「大丈夫である。腕にはめれば……」
グラキアスがルクスの腕に氷竜王の腕輪をはめると、小さくなってピタリとはまる。
「竜は人形態になったりするゆえな。身につける魔導具は可変が基本なのだ」
「すごい! べんりだねー」「わふわふ~」
「もし困っている聖獣や精霊の情報を仕入れたら、これを使って連絡しよう」
「うん、ありがと!」「わふ~」
氷竜達との別れの挨拶は一時間ぐらいかかった。
その後、アニエス達とコリンとコトラはグラキアスとレックスに送ってもらうことになった。
「……少し、気まずいのだ……」
グラキアスがぼそっとつぶやく。
今生の別れかのように、別れの挨拶をしたのに、別れはまだなのだ。
グラキアスとレックスはみんなを乗せると、大きな翼を広げ、ゆったりと飛んでいく。
「僕はタロに乗っていくね!」
「わふわふ~」
ミナトはタロの背中に乗って山を駆け下りていく。
ピッピは飛んで、フルフルとルクスはミナトと一緒にタロに乗った。
そして、タロは鋭い爪を突き立てて、凍り付いた斜面をガシガシと駆け下りていく。
「わはははははは」
「わふわふわふ~~」
タロはものすごい速さで走る。ぴょんぴょん跳ぶたび、ミナトたちは浮遊感に包まれる。
「たのしいね!」「ぴぎっ」「りゃっりゃ~」
それが楽しくて、ミナトたちははしゃぎまくった。
山頂から麓まで、高低差抜きに数十キロある道のりが一時間もかからなかった。
「気をつけるのだぞ! 困ったことがあればいつでもいうのだ!」
「うん、ありがと!」「ばうばう~」「りゃ~~」
麓に着いた後、しばらくグラキアスはルクスのことを優しく撫でていた。
そして、名残惜しそうにしながら、宮殿へと戻っていった。





