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【2025年1月16日4巻発売】ちっちゃい使徒とでっかい犬はのんびり異世界を旅します  作者: えぞぎんぎつね
三章

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94 氷竜王の宮殿と竜焼き

 氷竜王を助けてから一週間が経った。その間、ミナト達はずっと氷竜王の宮殿にいた。

 氷竜王の宮殿は標高八千メートルを超す高所にある。


「今日もふぶいているねー?」

「わふ」


 ミナトとタロは宮殿内の客室の窓から、外を眺めながらつぶやく。

 空は分厚い雲に覆われており、猛吹雪が吹き荒れている。昼だというのに薄暗い。


「真っ白で何もみえないね」

「わふ~」

「吹雪いている間は、外に出るべきではないのだ」


 人の姿をした氷竜王グラキアスがミナトの頭をポンポンして、タロの顎の下を撫でる。

 グラキアスは竜形態では巨大な姿だが、人形態では小柄で華奢な少女の姿だ。


「このような天気だというのに、外になど出たら、脆弱な人族は十分も持つまい」

「こわいねー」「わふ~」

「何も見えないであろう? このようなときはどこを歩いているかわからなくなる」

「でも、レックスに送ってもらったら、だいじょうぶじゃない?」

「わふわふ!」


 タロは「ミナトはなんて賢いんだ」と尻尾をぶんぶんと振った。


 レックスは氷竜王の執事長を務める強い竜である。

 竜形態のレックスの背中に乗れば、数十分で麓まで送ってもらえるだろう。


「それはそうだ。だがな。ミナトよ。なにが起こるかわからぬであろう?」

「なにがってなに?」「わふ~?」

「例えば、レックスの体調が急に悪くなったり」

「おおー、それは心配」

「それに敵の奇襲を受ける可能性もあるであろう?」

「……あるかも」「わふわふ」


 最近は呪神の使徒が暗躍しているのだ。グラキアスも呪神の使徒によってひどい目に遭っている。

 レックスは強いが、呪神の使徒から攻撃を受けたら、墜落してしまうかもしれない。


「そうなれば一寸先も見えない猛吹雪の中、取り残されることになる。命が危ないであろう?」

「危ないかも」「わふぅ」


 ミナトとタロは大丈夫だろう。だが、アニエス達は無事では済まない可能性が高い。


「それゆえ、天候が回復するまでは我が宮殿にとどまるとよい」


 グラキアスはそう言いながら、ミナトの足下にいるルクスを見る。

 ルクスは王都でミナトに助けられた古代竜の雛だ。

 ずっと眠っていたが、氷竜王の宮殿で、つい目覚めたばかりである。


「……か、かわいい」


 グラキアスはまるで孫を見るような目で、ルクスを見ていた。


「ね、かわいいよね。ルクスはかわいいね~」「わふ」

「りゃむりゃむ!」「ぴぎ」


 目覚めてからのルクスはずっとミナトのそばにいる。

 今は、ミナトの足にしがみついて、スライムのフルフルと遊んでいた。


 フルフルは自分の体を触手のような形に変形させて、ルクスの前に持って行く。

 それをルクスは咥えたり、手でつかんだり叩いたりしてじゃれて遊んでいた。


「ルクスも元気になったねぇ」

「わふわふ」


 タロがルクスのことをベロベロ舐める。


「ミナトと契約を済ませたゆえ、より強くなったのであろ。かわいいなぁ」


 グラキアスに勧められミナトはルクスを名付けた。その際に契約はなされている。


「よかったよかった。フルフルもありがとうね?」

「ぴぎ」


 フルフルはルクスに母性、もしくは父性本能を刺激されているようで、面倒を見たがるのだ。

 ミナトはルクスを抱き上げる。


「りゃむ~」


 ルクスは甘えて、ミナトのおなかに顔をくしくしと押しつけた。


「かわいいのう。ルクスはかわいいのう」


 グラキアスが撫でると、ルクスはグラキアスの指をペロッとなめた。


「ぴぴぃ~」


 そこに不死鳥のピッピがくちばしにブドウを咥えて飛んでくる。

「りゃむ!」


 すると、ルクスが口を大きく開け、ピッピはルクスの口の中にブドウを入れた。


「まるで、ひな鳥に餌を与える母鳥のようだな?」

「ぴぴぃ~」


 グラキアスの言葉に、ピッピはなぜか照れていた。

 ピッピも、フルフルと同様に、母性か父性本能が刺激されているらしい。


「我も……ルクスに何かあげたいのだ。何かないか?」


 グラキアスは、ごそごそと何か探していると、


「ミナト、タロ様!」「なぁ~~」


 コリンとコトラが走ってきた。


 最近、コリンはコトラと仲がよく、一緒にいることが多い。


 今日も「トレーニングをするです」と言って、コリンとコトラは王宮内を走りに行った。

 氷竜王の宮殿は、とても広いので一周走るだけで、十分にトレーニングになる。


「おかえりー」「わふわふ~」

「ただいまです! (どら)焼きの新作ができたから、食べに来て欲しいって言ってたです!」「な~」

「おおー、やったー!」「わうわふ」


 竜焼きとは、先日ミナトが作り方を教えた、どら焼きのことである。

 氷竜達はどら焼きという響きと味を気に入り、おいしい竜焼きを作るために試行錯誤していた。


「ふんふーん」

「わーふわふ~」「りゃむりゃむ~」


 ミナト達は、鼻歌を歌いながら、食堂まで歩いて行く。

 食堂には、レックスを含めて氷竜三頭とアニエス達がいた。


「ミナト待ってましたよ。おいしいですよ!」

「なかなかおいしくできたぞ」


 聖女アニエスと剣士ジルベルトが笑顔で言う。

 どうやらアニエス達は新作竜焼きの試食を済ませたらしい。


「ミナト。あんこのしっとりさに力を入れてみましたぞ。食べてくだされ」

「生地も気合いを入れてみたんだ。配合比率を微妙に変えたんだが、口に合うかどうか」


 老神殿騎士ヘクトルと魔導師マルセルも竜焼きの改良を手伝ったようだ。

 少し緊張した様子でミナト達を見る。


「おいしいから、食べて食べて」


 エルフの弓使いサーニャは、笑顔で竜焼きを頬張っている。


「うん!」「わふ~」

「ミナト、タロ様! これが新作の栗入り竜焼きだ! さあさあ、味見してくれ!」


 レックスが大皿に乗せた沢山の竜焼きをミナト達の前に置く。


「おおー、いただきます!」「わふわふ~」「おいしそうです」「にゃ~」「ぴぃ」「ぴぎ」


 ミナトとタロ、コリン、コトラが竜焼きを食べる。


「おいしい! 栗もいいね!」「わふわふ」

「優しい小豆の食感の中に、ほくほくした栗のしっかりとした食感がとても合うです!」

「そっか、よかったよかった」


 ミナト達が喜んで、レックス達も嬉しそうだ。


「うむ。うまいな。褒めてつかわす」

「ありがたき幸せ」


 グラキアスも竜焼きの出来に満足したようだ。


「ぴぃぴぃ」


 ピッピは、竜焼きをくちばしでちぎって、ルクスの口元に運んで食べさせる。


「りゃむ!」


 ルクスは竜焼きがおいしかったようで、尻尾をぶんぶんと振った。

 フルフルはルクスがこぼした食べかすを片付け、口の周りについたあんこを拭いてあげている。


「ピッピとフルフルも食べて。おいしいよ」


 ミナトはピッピとフルフルにも竜焼きを食べさせた。


「ぴぃ~」「ぴぎ~」


 ピッピとフルフルも、栗入りの竜焼きを気に入ったようだった。

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