82 山へと向かうミナトたち
その日、ミナトたちは神殿に泊まることになった。
聖女であるアニエスや、剣聖伯爵の嫡孫であるジルベルトは領主の訪問を受けて忙しい。
だが、それ以外の者達は、のんびり過した。
「こねこねこね」「わふわふわふ」
ミナトとタロは神殿の庭で神像を作る。
「あの、それは?」
神像から発せられる神聖力に気づいた神官がミナトに尋ねる。
「サラキア様の像だよ! そしてこっちが至高神様の像!」
「わふ~」
ミナトの技量の上昇は凄まじく、サラキアの像は可愛らしい。
タロの作った至高神像も、少し進歩していた。
だが、まだ直立した犬のうんこに似ていた。
「あ、あのその神像、どうか売っていただけませんか?」
神官は思わずそう言っていた。
ミナトの作ったサラキア像は可愛らしい出来の良い像だし強い神聖力を感じる。
タロの作った至高神像は不格好で、まるでうんこだが、強い神聖力を感じた。
神聖力を感じられる上級の神官だったので、神像の価値を理解したのだ。
「いいよ! 泊めてもらうし、ご飯もごちそうになるから、あげる!」「わふわふ~」
「そ、そんなわけには……」
「じゃあ、かわりにコボルトさんたちのことお願いね」「わふ!」
そういったミナトとタロの表情は真剣だった。
「わかりました。非力ですが、頑張ります」
「ありがと! あ、これもあげる!」「わふわふ~」
ミナトとタロはこれまでに作った神像を五体ずつを手渡した。
「ちょっとした瘴気と弱い呪者も避けられるから、便利に使ってね!」
「あ、ありがとうございます。……あなたは?」
こんなすごい像を造れるとは、ただの五歳児とでっかい犬ではないはずだ。
「まだ、ないしょ!」「わふわふ!」
笑顔でそういうと、ミナトとタロは走って部屋に戻っていった。
次の日。まだ太陽が昇っていない時間にミナトたちは神殿を出た。
神殿まで迎えに来た案内人を務めるレックスと共に、ノースエンドの街中を歩いて行く。
「この時間だと冷えますな」
ヘクトルがそういうと、
「防寒具を買っておいて良かっただろう? 山に入ればもっと冷えるぞ」
レックスはにやりと笑った。そして、昨日と同じ格好のミナトを見る。
「ミナト、寒くないのか?」
「寒くないよ? このコート暖かいんだ」
「へー」
そんな会話を交わしながら、ノースエンドを出て、山へと歩く。
まだ地面が雪で覆われていないので、昨日買ったそりはサラキアの鞄に入れたままだ。
街道をしばらく進んでから、脇の小道にそれて山へと向かう。
どんどん道は細く荒れていく。
山に近づくにつれて気温がみるみるうちに下がっていく。
「異常に寒いですな。至高神様の祝福がなければ、関節がつらかったところですぞ」
ヘクトルが呟くと、サーニャが息で手を温めながら言う。
「やっぱり、寒いと関節って痛むの?」
「痛みますな」
「じいさんでなくとも、この寒さはきついな。手が冷えるといざというときに困るからな」
ジルベルトは手袋をはめる。
「なるべく手袋はしたくないんだが……」
「感覚が鈍るからです?」
最近ジルベルトに弟子みたい剣術を教わっているコリンが尋ねる。
「そうだ。だが、かじかんでいるよりはずっとましだ」
「なるほどです。僕も手袋をしておくです」
そんな剣士二人を見ながら、マルセルも手袋をはめる。
「まだ標高も街と大差ないし、そんなに寒くなるわけないっていいたいが……」
「本当に寒いですよね」
アニエスがもこもこの帽子をコリンに被せながら言う。
「まるで三か月ぐらい時が進んだみたいですな」
ヘクトルが言うとおりだった。
ノースエンドにいた頃は、ミナトの前世基準で九月下旬ぐらいの気温だった。
それが今は十二月末ぐらいの寒さ、つまり真冬に近い。
「わははははは!」
「ばうばうばうばう!」
だが、ミナトとタロは荒れた道など平気で駆け回る。
「はしゃぐな。バテるぞ! 手袋ぐらいしろ!」
「だいじょうぶ!」「わふ~」
「本当に、大丈夫か?」
レックスが心配するなか、ミナトとタロは元気に走り回った。
コリンはずっと緊張しながらついていく。
ノースエンドを出て二時間たち、ミナトたちはうっそうとした森の中にいた。





