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【2025年1月16日4巻発売】ちっちゃい使徒とでっかい犬はのんびり異世界を旅します  作者: えぞぎんぎつね
四章

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152 死の風

「アニエス! 神のベールをお願い!」

「え? あっはい! ……いと高きところにおわす至高神。汝の奴隷たるアニエスの願いを――」


 アニエスが祈りを捧げると、半透明のドーム状の膜がアニエスを中心に広がっていく。

 だが、海竜王の屋敷全体を覆うまでは至らないし、風は全く弱まっていない。


「僕もいくよ! ちゃぁぁぁぁぁ!」


 ミナトは叫びながら、両手を前に出して神のベールを発動させた。

 気合いを込めたミナト全力の神のベールだ。


「ふぬうううう! アニエスに教えてもらったのが役に立ったね!」

「ばうばう~~」


 タロが「ミナトすごい!」と称える中、ミナトの神のベールは広がっていく。

 半球形のドーム状の神のベールはアニエスのそれと溶け合って拡大し、村全体を包み込んだ。


「ふう、これでよしと」

「ばう~」

「……ミナトだけで良かったんじゃないか?」


 額に汗して祈りを捧げ続けるアニエスを見てジルベルトがそう言うが、ミナトは首を振る。


「そんなことないよ。この死の風は強いからね。アニエスに手伝ってもらった方が安心」

「強い? どういう意味で強いんだ?」

「ふせぐのが、むずかしいかんじなの」


 普通に話ながら、ミナトは両手を前に出したまま、ベールを維持し続ける。


「ミナトでも、難しいって……死の風を放っているのは誰だ?」

「……わかんないけど、凄くつよいよ」

「ミナト! 風が弱まる気配がないですが! 大丈夫なのですか!」


 近くで杖を構えて、いつでも魔法を放てるように構えているマルセルが叫ぶ。


「神のベールには物理防御能力はありませんからな!」


 神官でもあるヘクトルが叫ぶように言う。


「つまり、風は防げないけど、殺す力を防いでいるってことね?」

「そうそう!」


 サーニャの問いに、ミナトはうんうんと頷きながら、返事をした。

 その間も、ミナトは神のベールを使い続ける。ミナトの額に汗が流れる。


「……つよいかも」

「わふ?」

「うん。大丈夫! アニエスも手伝ってくれているし」


 ミナトとアニエスが神のベールを使い始めてから、三分後。


「あ、終わった! アニエス、もう大丈夫ありがと!」

 まだ、強い暴風が吹き荒れている。


「……至高神よ、感謝いたします。……もう大丈夫ですか?」


 感謝の言葉で祈りを締めくくったアニエスが、疲れた表情でミナトを見て微笑んだ。


「うん、死の気配は消えたかも。僕も疲れた!」


 そういって、ミナトはふうっと大きく息を吐いた。


 その直後、暴風が弱まり始めた。

 一度弱まり始めると、三十秒ほどで風はやんだ。


「……終わったのじゃ」

「ユーリス様も、お疲れさま」「ばうばう~」


 ミナトとタロは、汗だくのユーリスをねぎらった。


「ルクスも、もう大丈夫。ありがとうね」

「りゃむ~」


 ルクスもミナトの頭の上でずっと風ブレスを放ち続けていたのだ。

 そんなルクスをねぎらうために、ミナトは胸の前で抱えて頭を撫でた。


「わぅわぅ」


 タロもルクスのことをベロベロなめて、ねぎらっている。


「ルクス疲れた?」

「りゃ~」

「そっか、ぜんぜんつかれてないのかー」


 口では強がってそういうが、ルクスも疲れているに違いなかった。


「疲れたです、何もしてないのに緊張したです」

「んにゃ~」


 暴風の中、ずっと気を抜かず構えていたコリンとコトラも疲れたようだった。


「風も強かったものねー」「ばうばう~」


 そんなことを言いながら、ミナトがルクスをねぎらっていると、ユーリスがミナトを睨む。


「…………ミナト。……おぬし」

「あ、ユーリス、びっちゃびちゃだね。まるで台風の日に外で出たみたい」


 今回は台風並みの暴風だったが、雨は全く降っていなかった。

 だが、ユーリスは汗でぐしょぐしょだった。


「僕も、だいぶ汗かいたかも」

「ばう~」


 タロは全く汗をかいていないのに「ぼくもかいた!」と言っている。


「私も、ぐっしょりです」


 アニエスがミナトに同意する。

 全身全霊を込めて祈りを捧げることは、とても疲れることなのだ。


「僕もです! なにもしてないのに!」

「にゃあ!」


 コトラも全く汗をかいていないのに「あせかいた!」と力強く言った。


 ミナトは(犬とか虎ってあせかくのかな?)と思った。


「ユーリス様。女同士、ご一緒にお風呂に入りませんか?」

「むむ? それはよい提案なのじゃ。だが、それよりも気になることがあるのじゃが――」

「それもご説明いたしますから」

「むむ。わかったのじゃ」


 ユーリスが同意すると、アニエスはミナトに言う。


「……ユーリス様に、ミナトとタロ様の事情をご説明してもいいかしら?」

「うん、お願い」「わふ~」


 そこにピッピが戻ってくる。


「ピッピ、お疲れ様。ありがとうね?」

「ぴぃ~」


 ピッピは「バッチリ偵察してきた!」と力強く言った。


「風ってどっちから――」

「おお、皆様ご無事でしたか!」


 ミナトはピッピに尋ねようとしたが、屋敷から村長が出てきた。


「聖女様に万一のことがあれば、どうしようかと思い気が気ではなかったですぞ!」


 村長は屋根の上を見あげて、大声で言う。


「民の被害状況はどうじゃ?」

「いま、調べているところです!」

「今回は被害はないでしょう。聖女様が死の風を防ぎましたからね」


 ジルベルトが、村長に笑顔で言う。


「なんと! 一体どうやって? あ、室内でご説明をうかがっても?」

「もちろんです」


 屋根の上にいた者達が、全員地面へと降りる。


「ミナトも風呂に入るがよいのじゃ。タロも一緒に入れる広い浴場もあるのじゃ」

「ありがと!」「わふわふ~」


 ミナトとタロ、ルクス、コリン、ピッピとフルフルは広い浴場に向かうことになった。

 そして、ユーリスとアニエスは人族サイズの狭い浴場へと向かう。


「じゃあ、村長達への説明は大人に任せておけ」

「お願いね、ジルベルト、ヘクトル、マルセル、サーニャ」

「任されましたぞ」「お任せを」


 ジルベルトが、ミナトと耳元でささやく。


「村長達には、全部アニエスの功績ってことにしておくからな。ルクスのことも隠しておく」

「ありがと」「わふわふ」


 そして、それぞれ別れたのだった。

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