147 幼き海竜の長ユーリス
ミナト達は数分歩いて、海竜王の屋敷の前までやってきた。
屋敷の前には身なりのいい優しそうな老人を筆頭に、五人の村人が待機していた。
「お会いできて光栄です。至高神の聖女様。私が村長を務めさせていただいております――」
どうやら老人は村長らしい。
「歓迎感謝いたします。私が至高神の聖女アニエスです。こちらが――」
アニエスが村長達に、皆のことを紹介していく。
自己紹介が終わると、村長が、
「海竜王陛下の元へご案内いたします。どうぞこちらへ」
といって歩き出し、皆でついていく。
「中もおっきいねぇ」「わふ~」
「中に入ると、余計に立派に感じるです」「んにゃ~」
「海竜王陛下のお屋敷ですから」
村人の青年はどこか自慢げだった。
屋敷の中をしばらく歩き、立派な扉の前に来る。
「こちらに海竜王陛下がいらっしゃいます。どうぞ」
村長に続いて、アニエスを先頭に海竜王の部屋へと入る。
「陛下、聖女様がいらっしゃいましたぞ!」
「よくぞ、来てくれたのじゃ!」
部屋の奥には立派な椅子があり、そこに小さな女の子が座っていた。
綺麗な赤色のドレスを着ており、ドレスのすそから太い尻尾が見えている。
竜だから本当の年齢はわからないが、外見年齢は六、七歳ほど。ミナトより少し年上に見えた。
腰まである髪は、グラキアスよりも濃い青色だ。
手足や首、頭、至る所に身につけた魔道具がキラキラと輝いている。
「わらわが海竜王ユーリスなのじゃ!」
「ユーリス様。至高神の聖女アニエスにございます」
アニエスが優雅に頭を下げると、ジルベルト達もそれに倣う。
ミナトとコリンも一応真似しておいた。
「……わふ?」
タロは一応、伏せをしておいた。
その間に、村長は静かに移動し、黙ってユーリスの右側、やや後ろに立った。
アニエスは皆のことを紹介してから丁寧に切り出した。
「ユーリス様。私達はお願いがあってまいりました」
「むむ? なんじゃ?」
「風の大精霊様の島に渡りたいのです」
アニエスがそう言うと、ユーリスは「むぅ」と唸って、顔をしかめる。
「風の大精霊様が暴れているとお聞きしました。大精霊様が暴れるのはよほどのこと――」
アニエスは大精霊が危機に陥っている可能性が高いこと。
そして、それを救うのは聖女の役目だと力説した。
「聖女様のお話はわかったのじゃ。だが、難しい」
「ユーリス様。風の大精霊様の危機を救うことは、この村にとっても大切なことで――」
「わかっておる。わかっておるつもりなのじゃが……」
ユーリスは困った様子で、右に立つ村長を見る。
「聖女様。海竜王陛下は手を貸したいとお思いですが、事情があるのです」
「そうなのじゃ! 事情があるのじゃ! 村長、聖女様に事情を説明してさしあげるのじゃ!」
村長は、ユーリスに深く頭を下げるとアニエスを見る。
「聖女様も、村を襲うリザードマンをご覧になったでしょう?」
「はい。リザードマンのことも気になっておりました」
ミナトも気になっていたので、村長をじっと見つめた。
「あやつらのことにも関係あることなのですが――」
村長は深刻な表情で語り始める。
先代の海竜王が崩御した際、次の王として指名されたのがユーリスだった。
「ですが、先王の次に力を持つと言われた海竜オーガスが、陛下の即位を認めなかったのです」
先王に使命された正当なる海竜王たるユーリスと最も強い海竜のオーガス。
海竜達や領民達は、その二者のどちらを推戴するかで二分されているという。
「ねね。どうして、一番強いオーガスが指名されなかったの? 性格が悪いの?」
疑問に思ったミナトが尋ねると、村長は一瞬驚いた表情でミナトを見た。
きっと幼いミナトが口を開いて、問いを発するとは思わなかったのだろう。
だが、村長はすぐに笑顔でミナトを見ながら答えてくれる。
「もちろんオーガスは自己中心的な乱暴者で王の器ではありません」
「なるほど~」
「ですが、最大の理由は、陛下が聖獣の竜。つまり聖竜であることです」
「あ、氷竜王グラキアスと同じだ」
「その通りです。先王陛下も聖竜でした。聖竜が王になるべきなのです」
「そっかー」
グラキアスは、一般的に魔獣より聖獣の方が強く賢いため、王になりやすいと言っていた。
だが、王は聖獣でなければならないとは言っていなかった。
「オーガスはわらわが幼いゆえ、認められぬのであろう」
「ユーリス様は何歳なの? あ、僕は五歳」
「わう」
タロも「僕も五歳!」といって尻尾を揺らす。
「わらわは十七歳なのじゃ」
「そうなんだ!」「わふ~」
ミナトとタロは人間の十七歳より大分幼く見えるなぁと思った。
「私と同い年ですね。ユーリス様」
そう言うと、アニエスはユーリスに微笑んだ。
「うむ! だが、わらわは聖竜ゆえ、寿命が長く成長も緩やかなのじゃ!」
だから、外見年齢が幼くても仕方ないと、ユーリスは言っているのだ。
「そっか。そういうものなんだね」「わふ」
ミナトとタロが納得すると、ユーリスは満足げに頷いた。
そして、少しさみしそうにぼそっと小さな声で言う。
「わらわはまだ幼いゆえ、いくら聖竜とはいえ、オーガスには勝てぬのじゃ」
ユーリスは少し悲しそうな表情を浮かべている。
古代竜の聖竜のルクスは成長すれば、誰よりも強い竜になるはずだ。
だが、今の幼いルクスは、レックスよりも大分弱い。それと同じだろう。
「そんなことはありませぬぞ! 陛下は弱くなどありませぬ!」
「よい。わらわはオーガスより弱い」
「いえ!事実として陛下がこの村を守っておられるから、オーガスは手を出せぬのです!」
村長は、少なくともオーガスが容易に手を出せぬぐらいにユーリスは強いと考えているらしい。
だが、ユーリスの自己評価は、そうでもないようだ。
「りゃ!!」
そのとき、ミナトの頭の上に乗っているルクスが元気に鳴いた。
「あ、ルクスは……何歳だろ?」
「りゃぁ!」
「ルクスとやら。先ほどから気になっておったのじゃ。抱っこしても良いか?」
先ほど、アニエスは流れ作業のように、軽く全員を紹介した。
その際、ルクスも「こちらがルクスで、こちらは……」と言って軽く流した。
そのとき村長はともかく、ユーリスはルクスのことをじっと見つめていたのだ。
「ルクス、ユーリス様がルクスを撫でたいんだって。いい?」
「りゃむ!」
ルクスは元気に鳴くと、ユーリスの元へと飛んで行く。
「おお、なんと、かわいらしい子なのじゃ。いいこじゃなぁ」
「りゃむりゃむ~」
ユーリスは、ルクスのことを宝物のように大切に抱っこし、優しく撫でる。
その表情は、本当に嬉しそうで、慈愛に満ちていた。




