144 もめている村
ミナト達がお昼ご飯を食べたとき、道のりの丁度半分ぐらいまで来たところだった。
ミナトは地面に座ると、膝の上にルクスを乗せた。
「なんか、このあたりはもふもふ氷竜村よりあったかいね」「ばうばう」
「暑いです!」
もふもふ氷竜村から南におよそ三千キロも移動したので当然、気温も高くなる。
これまでは昼間は上空を高速でとんでいたので、暖かくなっていることに気づきにくかったのだ。
「海竜の領域は、常夏と言われていて冬らしい冬がないんです」
「へー」「すごいです」「わふ~」
マルセルに気候について教えてもらいながら、ミナト達は昼ご飯を食べる。
「洞窟火トカゲのサンドイッチ、おいしいね!」「ばうばう」
「りゃむ!」
「ぴぃ~」「ぴぎっ」
ピッピとフルフルは張り切って、ルクスにご飯を食べさせている。
ピッピとフルフルは、グラキアスやレックスに遠慮して、ご飯をあげるのを我慢していた。
なぜなら、ミナトが旅に出たら、グラキアス達はルクスにご飯をあげられないからである。
「ルクス、おいしい?」
「……りゃむ」
「ぴぃ?」「ぴぎ?」
「あ、ルクスは眠いのかな? 赤ちゃんだし、いっぱい動いたもんね。寝てていいよ?」
うとうとするルクスをミナトはぎゅっと抱きしめて、タロは優しく舐めた。
ルクスが眠りに落ちる頃、
「…………んにゃ」
コトラもご飯を食べながら寝落ちした。
「うわ。お皿に顔を突っ込んじゃったです。綺麗にふいてあげるですよ~」
「……にゃ」
眠ってしまったコトラの顔を、コリンが拭いてあげる。
「……可愛い」「……ばう」
「可愛いです」「ぴぃ」「ぴぎ」
そんなルクスとコトラを、ミナトとタロ、コリンは優しく撫でた。
ピッピやフルフル、アニエス達も優しい目でルクスとコトラを見つめていた。
午後の道のりは、ミナトはルクスを、コリンはコトラを抱っこして歩いて行く。
「ミナト、コリン。重たくないか? 変わるぞ?」
「大丈夫! ルクスは軽いからね!」「いい訓練になるです!」
ミナトとコリンは元気に歩く。
ルクスとコリンが起きたのは、おやつの時間になってからだった。
その後はルクスとコリンも自分で歩いたり飛んだりして、進んでいった。
海竜たちの領域にある村が見えてきたとき、まだ明るかった。
「なんか太陽が沈むのも遅いね」
「南の方が、日が出ている時間も長いんですよ」
「そっかー。マルセルは何でも知ってるね」「わふわふ~」
「そんなことはありませんよ」
マルセルと話していたミナトが、「あっ」と大きな声を出した。
「どうした? ミナト」
「えっとね、ジルベルト。村から変な気配がする」
ミナトがそういったとき、海竜の村までは、まだ二キロ以上離れていた。
「変なですか? 嫌な気配ではなく?」
アニエスが尋ね返す。
呪神の使徒の気配などを感じたとき、ミナトはいつも嫌な気配がすると言っていたのだ。
「うん。変な気配。呪神の気配に似てるけど、いつもとは違う感じ」
「使徒ではなく導師が何かしているとかか?」
「使徒はミナトとタロ様、グラキアスにやられて、しばらく動けないはずですな」
「そうよね、もし動いているなら、導師だとはおもうけど……。マルセルはどう思う?」
「そうですね。ミナトはファラルド王国で導師と遭遇してますよね。それと比べてどうですか?」
ミナトは「うーん」と言って少し考える。
「似てるかも? でも違うかも?」
「そうですか。導師もそれぞれに個性があるでしょうし、その差かもしれませんね」
マルセルがそう言って、アニエスを見る。
「はい。私達は風の大精霊様が暴れているという情報を受けてやってきたのです。常に警戒を」
アニエスの言葉に皆が頷いた。
「呪神の手の者が近くにいるのが当然だと考えるべきでしょうな」
ヘクトルが真剣な表情でそういった。
それから、ミナト達は気を引き締めて、村へと歩いて行く。
しばらく歩き、村まであと一キロまで迫ったとき、
「みんな、いったん止まれ」
先頭を歩いていたジルベルトが皆を止める。
「どうしました?」
「アニエス、遠眼鏡で村を観察してくれ」
ジルベルトはじっと村の方を睨むように見つめていた。
アニエスは遠眼鏡を取り出した。
それは王都で、冒険者ギルドでの初任務に向かうミナトを観察するときに使った遠眼鏡だ。
「……む? もめ事でしょうか? 沢山の人が村の門に押寄せてますね」
「俺には戦が起きそうにみえるがな」
ジルベルトの表情は険しい。
「むむ? 戦いの気配?」「わふふ?」
ミナトは足を止めてルクスを抱き上げると、タロと一緒に村を観察した。
ミナトは【鷹の目】のスキルを持っているので、裸眼でも村の様子がよく見えるのだ。
村は海岸沿いにあった。
陸地側は半円状に高さ三メートルほどの壁に囲まれており、ちょっとした城塞都市のようだ。
見える範囲に門は二か所あり、その一つに人が沢山集まっている。
「そろそろ、夕方なのに、人がいっぱいいるんだね?」「ばう?」
「入村手続きが複雑で、時間がかかっているだけじゃないですかね?」
「その可能性もある。だが、村を壁で囲む理由がわからない」
「敵に攻められたときのためにじゃないです?」
コリンの言葉にジルベルトは首を振る。
「普通の村ならそうだ。だが海竜の村だぞ? 誰が攻めるんだ?」
「そっか、そうかも」「わふ~」
少なくとも、まともな人族の国や領主は攻めない。
「海竜がいるのよ? 魔獣だって避けて通るわよ」
そう言ったのは、優秀な狩人で魔獣の生態に詳しいサーニャだ。
「それに、ミナト、コリン、あの集まっている者達を見てみろ」
「みんな、槍を持っている!」「…………みんなトカゲっぽいです! ふわ、初めて見たです!」
「そうだ。武装したリザードマンだな」
門に集まっているリザードマンは二十人ほどいて、皆、身長が二メートル近かった。
そして、全員が身長より長い槍を持ち、金属の鎧を身につけている。
「どうみても、旅装ではないですね」
マルセルが険しい顔で言う。
旅装の場合、武器や防具は軽い物を選ぶのが普通だ。
「旅装ではないということは、入村手続きが複雑で時間がかかっているわけではないですな」
つまり、村とリザードマンは、何かが原因でもめているのだろう。
「どうする? アニエス。戦闘は始まってないが、いつ始まってもおかしくないぞ?」
「……もし戦闘に巻き込まれそうになっても、私たちなら逃げられますね?」
「逃げるだけならな」
「タロ様。いざというときはミナトとコリンをつれて逃げてくださいね」
「ばう」
タロはまかせてと堂々と胸を張り、アニエスは力強く頷き返す。
「では、戦闘にならないように、仲介しに行きましょう」
「そうだな、それがいい」
「それもまた、聖女の仕事かもしれませんな」
アニエスの言葉を受けて、ジルベルトとヘクトルが最前列に出た。
「仕方ないわね。ミナト、タロ様、最後方でいつでも逃げられる準備はしておくのよ?」
「わかった!」「ばうばう」
後ろに下がったミナトとタロの隣をサーニャが固めた
「コリンとコトラは私の防御をお願いします」
「任せるです!」「んにゃ!」
マルセルとコリンとコトラは中列だ。
その隊列で、村に向かって、時速十キロ程度で、軽く走りながら進んでいく。
「リザードマンって、どんな種族か調べないとね!」
「ばうばう!」「りゃ~」
ミナトは歩きながら、抱いていたルクスを頭に乗せると、サラキアの書を取り出した。




