141 壮行会
ミナト達が、近隣の皆への挨拶を済ませてもふもふ氷竜村に戻ってくると、賑やかだった。
ノースエンドに向かった聖女パーティの皆や、グラキアス、コボルト達に魔猪達も勢揃いだ。
村の中心にある広場には大きな机が並んでおり、その上にはおいしそうな料理が並んでいた。
「すごい! おいしそう!」「わふわふ!」
「お、やっと帰ってきたな。早くこっちに来て座れ」
机の側にいたジルベルトがそう言って、手招きした。
「うん! ジルベルトたちの用事は終わったの?」
「はい。引き継ぎと言っても大したことはありませんからね」
ミナトを自分の隣に座らせながら、アニエスが言う。
「ルクスは我の膝の上に乗るがよい!」
「りゃあ~」
笑顔のグラキアスがルクスを抱きあげると、ミナトの正面に座る。
「すごいご馳走だね」
「うむ。コボルトや魔獣達と話し合って、送別会、いや壮行会をすることにしたのだ」
胸を張るグラキアスの横には村長が座っていた。
村長の横にはコリンが座り、その隣にコトラが座り、その横には虎3号が座っている。
「ミナトとタロ様には是非、干し柿を食べてほしいと思いましてな」
「あ、干し柿できたですね! よかったです」「んにゃ」
ミナト達がもふもふ氷竜村に来た日、ミナトは、子供達と魔狸達で渋柿を採ったのだ。
それを、ミナト達はコボルト達と協力して干したのだ。
「よかった。干し柿はたべられないと思ってたよ」
「りゃあ~」「ばうばう!」
干し柿を作っているとき、完成まで一か月はかかると言われていたのだ。
「あれから、もう一か月経ったですね!」
「そっか。思ったより、もふもふ氷竜村にながくいたんだね~」
「わふ~」
すこし、ミナトとタロもしんみりした。
「……いつまでもいてもいいのですぞ」
村長は目に涙をいっぱいためていた。
「……ぶぼぼ」「ちゅちゅ」「きゅ」「ほほぅ」「……めぇ」
魔猪達もさみしそうだ。
「…………」
そして、コトラの姉、虎3号は別れを惜しむかのように、コトラのことを優しく舐めていた。
「だから、送別会ではないといっているであろう! あくまでも壮行会なのである!」
しんみりした空気を吹き飛ばそうと、グラキアスが大きな声で言う。
「これが今生の別れではないのだ。ルクスも……すぐに会いに来て……うぅ」
言葉ではそう言っているが、グラキアスも泣き出した。
「りゃあ?」
そんなグラキアスを、ルクスは優しく撫でる。
「そうですな! またすぐに会えますぞ! そうですな?」
村長が涙を拭って明るく言った。
「うん! みんなに会いに来るよ」「ばうばう」
「ささ、ミナト。皆さんも、是非是非、できたばかりの干し柿を食べてほしいのですぞ」
村長は涙を流しながら、笑顔でミナトに干し柿を勧める。
「うん! しわしわだね!」「ばうばう~」
「干してますからな。その分甘さが凝縮されているのですぞ!」
ミナトは干し柿をパクリと口にする。
「甘い! ぐにぐにして、おいしい! あんなに渋かったのに! すごいね」
「わふわふ!」
タロも甘くておいしいと言って尻尾を振った。
「そして、こっちは干し柿をあんこに混ぜたあんパンですぞ!」
「おお~。いただきます!」「ばうばう!」
ミナトは干し柿入りあんパンを口にする。
「あ、これもおいしい! すごい」
「甘さのなかに、フルーティーな味わいがあって、爽やかです!」
「わふわふ?」
「あ、そうだね! 至高神様とサラキア様とコボルト神様に供えていい?」
「もちろんですぞ」
「ありがと!」「ばうばう」
ミナトとタロ、コリンは至高神とサラキア、コボルト神の祠に向かう。
祠はテーブルのすぐ近くにあるのだ。
「至高神様、サラキア様、コボルト神様。干し柿と干し柿入りあんパンです。食べてください」
「わふわう」「食べてくださいです」
ミナトとタロ、コリンが供えると、干し柿と干し柿入りあんパンはすっと消えた。
初めて消えるところを見たときは驚いていたコボルト達も、今ではすっかり慣れたものだ。
「ミナト、タロ様。これからは私達が供えるので安心してくだされ」
「うん、お願いね」
「わふ~」
タロは「供えて、時間が経ったらちゃんと食べてね」と言う。
ミナトとタロは使徒と神獣だから、供えたら消えるが、普通は消えないのだ。
それから、干し柿とあんパン以外の料理も沢山食べた。
洞窟火トカゲのステーキやバットのシチューに普通のパン。
その他にも竜焼きや普通のあんパン、クリームパンもある。
「おいしいおいしい!」「わうばう~」
「どんどん食べるが良い。旅立つミナト達のために、沢山食べ物も用意してあるゆえな!」
「みんな、ありがと」「わふ~」
「ぶぼ~」「きゅきゅ」「ちゅ~」「ほほぅ」「めえ~」
別れを惜しんで、魔猪達はミナトとタロに鼻を押しつけたり、体を押しつけたりする。
「ぴぃ~」「ぴぎぴぎっ」
「ぶぼぼぼ」「きゅ」「ちゅちゅ」「ほう」「めえめぇ」
魔猪達は、ピッピとフルフルにも同様にする。
「みんなも元気でね? また来るけどね」「わふわふ」「ぴぃぴぃ」「ぴぎ」
「ぶぼ……」
魔猪達はミナト達こそ元気でねと言っていた。
そしてグラキアスは、涙目でルクスにご飯を食べさせている。
「ルクス。ミナトの言うことをちゃんと聞くのだぞ」
「りゃ~」
「寝るときはお腹を冷やさないようにするのだ。まあ竜ゆえめったなことはないのであるが……」
「りゃむ!」
ルクスはご飯を食べながら、涙声で鼻をグズグズさせるグラキアスの手を優しく撫でていた。
「がうがう」
虎3号はコトラに「みんなの言うことをよく聞いて頑張りなさい」と言っていた。
「んにゃ~」
コトラは「まかせて!」と尻尾をピンと立てている。
虎3号はさみしそうだが、コトラの方は全くそんな様子がない。
「コリン。そなたは立派なコボルトだ。自信を持つが良い」
「ああ、我らの誇りだ」
村長をはじめとしたコボルト達はコリンを優しい目で見つめていた。
「そ、そんなことないです。まだまだです」
「聖女様。どうかコリンをよろしくお願いいたします」
「はい。お任せください。コリン、頼りにしていますよ」
「は、はいです。微力をつくすです」
コリンは、少し照れながら、尻尾を振った。





