137 おいしいシチュー
コボルト達は手際がよい。あっという間に下処理を終えて、調理に入る。
「タロ、神像をつくろう! 鉱山におきたいし、村の周りにももっとおきたいからね!」
「わふわふ!」
大人達が料理してくれている間、ミナトとタロは一生懸命に神像を作る。
「僕は、モグモグ様にあげる為のレトル薬を作るです!」
「んにゃ~、んにゃ!」
コリンも一生懸命、レトル薬を作る。
そして、コトラはそんなコリンを一生懸命、応援していた。
神像を作りながら、ミナトが言う。
「……鉱山も大丈夫だし、村も大丈夫だね!」
「わふ~」
「そだねー。他にも困っている精霊さんと聖獣さんがいるもんね」
村は居心地がいいが、ミナトとタロは旅を続けなければならない。
「ああ、そのことだがな。氷竜が聖獣と精霊の噂を集めておるからな」
近くでミナトとタロの神像作りと、コリンのレトル薬作りを見守っていたグラキアスが言う。
「ありがと! 何か情報はあった?」「わふ?」
「うむ。ここから徒歩で三日ほどの距離の場所に聖獣の噂があることはある」
「ほうほう?」「わぅわぅ」
「まあ、あくまでも噂だ。はっきりしたことは、まだわからぬ」
「そっかー。とりあえず、行ってみようかな?」
「わふわふ」
タロもとりあえず行ってみようという。行ってみて、何もなければそれでいいのだ。
「でも、まだやることあるですよ! 鉱山の祠を作ったりとか」
「そだねー。レトル薬も作りたいし、神像ももっと欲しいし」
「ばうばう」
「そうそう! この村と鉱山近くに住む聖獣さんたちにも挨拶しないと!」
「……りゃむ?」
「そだね、やることいっぱいだね!」
すると、ルクスがミナトのお腹に顔を押しつけながら、「りゃありゃあ」鳴き始めた。
「ん? ルクスはお話が聞きたいの?」
「りゃむ」
どうやら、ルクスがお留守番している間、ミナトとタロが何をしていたか知りたいらしい。
もちろん、先ほどグラキアスに事情説明していた際、ルクスも聞いていた。
だが、ルクスが知りたいのは、そういうことではない。
「そだな。えっとね、鉱山の近くでクリームパンを食べたの」
「りゃむ?」
「おいしかったよー! あとでルクスも食べようね」
「りゃあ~」
ミナトは神像を作りながら、ルクスとお話した。
日が沈んで、神像が数十体できた頃、
「おーい、夜ご飯ができたぞ! こっちにこい」
ジルベルトが大きな声でミナト達を呼んでくれた。
「はーい、すぐいくー」「うゎふわぅ」「ぴい」「ぴぎ」
「お腹減ったです!」「んにゃ~」
ミナト達は大喜びで、かまどのある場所へと走って行く。
「いい匂いだ!」「わふ!」
「今日はビーフシチュー、いや、洞窟火トカゲのシチューだな」
「おおー。おいしそう!」「わふわふ」
メニューは洞窟火トカゲを沢山使った茶色いシチューと固めに焼いた白いパンだ。
「虎3号とコトラには吸血バットのレアステーキだ!」
どや顔のレックスが、大きなステーキが乗った皿を、虎達が食べやすいように地面に置いた。
「がうがう!」「にゃ!」
虎3号とコトラは大喜びだ。
「魔猪達にはこれだ!」
「焦らなくても全員分あるわ!」
「口に合うといいのですが」
ジルベルトとサーニャ、ヘクトルが魔猪達の前にお皿を並べていく。
「ぶぼぼぼ~」「きゅきゅ」「ちゅ~」「
雑食組の魔猪、魔狸、魔鼠にはシンプルに焼いた肉が用意されている。
肉の種類と焼き方は、それぞれ好みを聞いて、最適な物をが準備されていた。
「魔梟さん達にはこれです」
アニエスとマルセルが、魔梟の前に皿を並べる。
「ほほう!」
肉食の魔梟には生肉である。
「魔山羊さん達はお肉を食べませんからね」
「めえ~」
マルセルが魔山羊の前に葉物野菜の入ったお皿を並べた。
全員に、ご飯が配られたあと、一斉に食べ始める。
虎3号や魔猪達も、みんなに配られるまで待っていたのだ。
ミナトはシチューに入った、大きな洞窟火トカゲの肉を口に入れる。
「お、おお!」
「おいしいですかな?」
コボルトの長老が笑顔で尋ねた。
「おいしい! 柔らかくておいしい!」「わふわふ」
びっくりするぐらいおいしかった。
「おいしいです。赤身はほろほろして脂身はしつこくなくて甘いです! うまみが濃いです!」
「おいしいね! 汁も芋もおいしい!」「ぁぅぁぅ」
「はいです! スープには肉汁が溶け込んでいて! いももほくほくしているし!」
「ほわ~。サラキア様がおいしいって書くだけあるね」
もう一口食べようとして、ミナトは止まる。
「あ、サラキア様と至高神様にもあげよう」「わうわう」
ミナトとタロが、自分の分のシチューを供えようとするのでジルベルトは止めた。
「まてまて。沢山あるから、神様用に新しくよそうぞ」
「ありがと!」「わう~」
ミナトとタロはジルベルトからシチューを三皿もらって、祠に供えた。
祠の中にはサラキア像と至高神像、そしてコボルト神像がある。
「コボルト神様にも供えるのか? タロ様のことだろ?」
ジルベルトの言うとおり、コボルト神とは至高神の神獣のこと、つまりタロのことなのだ。
「でも、神像が三つあるのに、一つだけ供えなかったらかわいそうじゃない?」
「わふ」
「そっか、それもそうだな」
ジルベルトは、供えた後で、タロが食べればいいだけかと考えた。
祠の神像の前にお皿を置くと、コリンもやってきた。
「サラキア様。至高神様。コボルト神様。いつもありがとうございます。おいしいシチューです」
「わふわう」「ありがとです」
ミナト、タロ、コリンが神様に感謝の言葉を唱えると、
すると、すぅっとシチューが消えて、皿だけが残された。
「これでよし! 僕たちも食べよ!」「わふ!」「よかったです!」
「待て待て。コボルト神様のシチューも消えたぞ!」
「そだね?」「わふ?」「消えたですけど?」
ジルベルトは慌てたが、ミナト達はそれがどうしたと言いたげに首をかしげた。
「あれ? コボルト神様はタロ様のことじゃないのか? アニエス、ヘクトル、マルセル!」
「タロ様とは別にコボルト神様がいるということかしら?」
「見てましたぞ、うーん。どう考えればいいのか」
そう言ってから、ヘクトルは神に祈りの言葉を唱えた。
神の存在について考え始めたのだろう。
「……先代のコボルト神が食べたのかもしれませんね」
「なるほど? 先代が神界にいる可能性もあるのか」
ジルベルト達が真面目に神学について話し合っている横で、ミナトは、
(サラキア様が二皿食べたんじゃないかなぁ?)と考えていた。
タロは(至高神様が二皿食べたんじゃないかな?)と考えていた。
だが、ミナトとタロは、三皿目のことなどすぐに忘れて、シチューを堪能する。
「……パンをつけてもおいしい!」「わふわふ」
「ぴぃ~」「ぴぎっ」
ピッピとフルフルもおいしそうに食べていた。
「りゃむ~りゃむ!」
「陛下、俺もルクスに食べさせたいんですが……」
「……仕方ないのう、順番だぞ」
グラキアスとレックスは、交互にルクスにシチューを食べさせている。
コボルト達もみんな笑顔だ。
魔猪達も、自分たちのご飯をおいしそうに食べている。
ミナトは、みんなでおいしい物を食べると、とても嬉しい気持ちになると思った。
「おいしいね! タロ」
「わふ!」
タロはゆっくりシチューを舐めるようにして味わいながら、元気に尻尾を振ったのだった。





