131 呪神の使徒との戦いその2
「なにが? なにがここまでなの?」
大精霊を解呪しようと戦っているミナトが、呪神の使徒に尋ねる。
「お前達の命う――」
命運もここまでだ、と言おうとしたのだろうが、ミナトは最後まで言わせない。
「悪いことするのあきらめたってこと? そのほうがいいよ?」
「こけにしおって! ガキが――」
「ガッガウ!」
怒って、ミナトの方に手を向けた呪神の使徒に、タロの爪が襲いかかる。
あまりに速く、かつ強力で、呪神の使徒はかわせないし、受け止めきれない。
「ぐはっ」
呪神の使徒は致命傷だけを辛うじて防いで、壁まで吹き飛ばされた。
「ガウガウ!」
追撃しようとするタロに呪神の使徒はにやりと笑い、
「勝ったと思ったか? 獣がっ!」
呪神の使徒が、壁に手を触れた瞬間、
――GIGIGIGYGAAAAAA
壁全体が悲鳴をあげた。
そして、幅十メートルほどの範囲の壁が、ヘドロのような物へと変わる。
「GIYAAAAAAAA」
ヘドロは数十に別れて、瘴気をばらまき始めた。
「大精霊さん、いや、呪われた精霊さんだ!」
ミナトはヘドロを見てすぐに気づいた。
「その通り。精霊だよ。ずっとここにいたのに気づかなかったのか?」
呪神の使徒は、何らかの隠匿の魔法かスキルを使っている。
加えて呪われた大精霊が目立っていたので、気づきにくかった。
「精霊を支配して魔物を召喚しているって予想してたのに!」
アニエスが叫ぶ。
だが、呪われた大精霊しか見えなかった。
ならば、近くに精霊が隠されている可能性にもっと注意を払うべきだった。
アニエスは注意を払っても気づけなかっただろう。
だが、ミナトに教えれば、ミナトならば気づけたかもしれない。
「ここまで僕を手こずらせたこと、ほめてあげるよ! だけど、もう終わりだ!」
数十体の呪われた精霊が濃密な瘴気を一斉に放つ。
「くっ! 至高神よ、汝の奴隷たる――」
アニエスが、改めて祈りを捧げるも間に合わない。
瘴気に襲われれば、ミナトとタロはともかく、アニエス達は無事では済まないだろう。
「瘴気にまかれ、苦しみながら死ぬがいい!」
勝利を確信した呪神の使徒の叫びが響く中、
「ちゃあああああああ!」
ミナトがサラキアの聖印を持つ右手を掲げて、瘴気を浄化していく。
本来であれば、一瞬で全て浄化できただろうが、呪いの結界のせいでうまくいかない。
浄化できたのは半分ほどだ。
「浄化など、させるか!」
呪神の使徒が、自ら瘴気をばらまきはじめるが、
「があぁぁぅ!」
タロが風の魔法を操って、瘴気をアニエス達に流れないようにした。
「ミナト! 後方からも瘴気がきてるです!」
後方の異常に素早く気がついたコリンが、叫んでしらせる。
「もう大丈夫!」
ミナトが元気に返事をした直後、
「ぴぎいいいいいいい!」
ヘドロの様な呪われし精霊が隠されていた壁。
その壁にある小さな穴からフルフルが現われると、ミナトに向かって飛び跳ねる。
フルフルの形状は、なぜか正八面体になっていた。
「ありがと! 助かるよ!」
「貴様、まさか、それは!」
「そのまさかだよ! タロ!」
「ガウッ!」
正八面体のフルフルは、ミナトと大精霊の間に飛び込んで割れたように見えた。
割れたフルフルは球形に戻り、替わりにフルフルの中から正八面体の黒い宝石が現われる。
それは呪いの結界の核である。
「ちゃああああああああああ!」
核を、ミナトはサラキアの聖印を握った右手で殴りつける。
――バリン
というガラスが割れるような音がして、核を覆っていた透明な防護障壁が砕け散り、
「ガガアァァゥ!」
タロの爪が核を斬り裂いた。
その瞬間、周囲を覆っていた呪いの結界が消失する。
「ちゃああああああああああああああ!」
直後、ミナトが再び気合いの入った叫び声をあげた。
左手に持つサラキアの書のページが高速でめくれ、右手のサラキアの聖印がまぶしく光る。
暗い坑道内が昼間のように輝いた。
ミナトは風魔法に神聖力を乗せて、周囲を浄化していく。
瘴気は一瞬で浄化され、大精霊と精霊を覆っていたヘドロのような物も蒸発していった。
「タロ! 呪神の使徒が逃げるよ!」
「がぁぅ」
「そっか、おそかったかー。もういないかー」
もう、呪神の使徒は消えていた。
呪いの結界が壊れた時点で、何らかの隠蔽の魔法かスキルを使って、姿を消したらしい。
「わふわふ」
「そだね、まずはみんなを解呪しないと。タロは魔物をお願い」
「わふ~」
ミナトは大精霊と精霊の解呪に専念し、タロは魔物達を倒すことに専念した。





