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【2025年1月16日4巻発売】ちっちゃい使徒とでっかい犬はのんびり異世界を旅します  作者: えぞぎんぎつね
三章

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128 ミナトの新スキル

 一度、精霊を助けると決まったら、アニエス達が動き出すのは速かった。

 ジルベルトを先頭にし、レックスを最後方にして、奥へと歩き始める。


「あのね、ジルベルト」

 灯火の魔法を維持したまま、ミナトはジルベルトの横に並ぶ。


「どうした?」

「えっとね、これから敵が強くなるんだ」

「気配察知でわかったのか。便利なもんだな」

「うん。多分だけど、洞窟トカゲとバットの上位種もいる。多分だけど」


 ミナトは上位種をみたことがないので断言は出来ないのだ。


「洞窟火トカゲと吸血バットだな? みんなも覚悟しておいてくれ」


 ジルベルトは振り返らず、後ろにいる仲間達に向かって言う。


「聞いていますよ。厄介なのはやはり怪音波かしら」

「そうね。バットであの威力なら、上位種の吸血バットならどれだけの威力になるか」

「そのときは俺が前面にでよう。竜だからな」

「お願いします。レックス」


 アニエス達は、そんな相談をしながらも、ゆっくりと進んでいく。


「あのね、ジルベルト。僕、いい方法を使える気がする」

「いい方法って?」

「えっとね。この前、手に入れたばかりのスキルなんだけど」

「ほうほう? 何のスキ――」

「あ、敵! めちゃくちゃ速い!」


 ジルベルトが話している途中で、ミナトの【気配察知】スキルが敵の接近を捉えた。

 ミナトの警告で、全員が一斉に構える。


「説明している暇ないからいくね! タロ、失敗したらお願い!」

「ばう!」


 次の瞬間、坑道の奥からバットが飛び出してきた。その数は十匹ほど。

 加えて、床と壁を十匹の洞窟トカゲが、高速で這ってくる。


「やはり、吸血バットと洞窟火トカゲです!」

 博識なマルセルが大声で警告する。


「――――――――」


 吸血バットは、人族の耳には聞こえない怪音波を出し始めた。

 怪音波は坑道の壁に反射して、アニエス達を襲う。


 途端にアニエス達が、顔をゆがめ、膝をつきそうになり、レックスが前へと駆けだした。


 そして、洞窟火トカゲは接近しながら、口に炎をためている。

 充分に近づけば、一斉に炎を吐くに違いない。


 そうなれば、狭い坑道は一瞬で炎に包まれる。よける場所など存在しない。

 坑道という戦場において、吸血バットと洞窟火トカゲは、極めて脅威だった。


 ミナトは「すぅぅっ」大きく息を吸うと、近づいてくる吸血バットと洞窟火トカゲに、

『とまれ!』と叫んだ。

 同時に、吸血バットと洞窟火トカゲは止まる。


 怪音波はやみ、洞窟火トカゲの口にたまっていた炎は消えた。


 ミナトの叫びは、魔力を含んだ叫び。

 氷竜王グラキアスにもらった【竜の咆哮】とルクスにもらった【古代竜の威】の合わせ技。


【竜の咆哮】も【古代竜の威】も精神支配系の技だ。

【竜の咆哮】は聞いた者を恐怖させ、恐慌状態に陥らせる技である。

 そして【古代竜の威】を受けた者は逆らいがたくなる。


【竜の咆哮】で恐慌状態になったところに、【古代竜の威】をぶつけたのだ。

 そして、精神系の技の威力を決めるのは魔力だが、ミナトの魔力は931もある。

 タロと比べたら少なく見えるが、異常なほど高い数値である。


 一般的な魔導師の魔力は20程度、一流魔導師でも100程度である。

 吸血バットと洞窟火トカゲ程度では抵抗できるはずもなく固まった。


 固まったのは一瞬だけだ。だが、ジルベルト達にとってはそれで充分。


「はぁぁぁぁぁあ!」

「食らうです!」「ふしゃああーー」


 吸血バットと洞窟トカゲは、ジルベルト達にあっという間に狩られていく。

 一秒後には吸血バットと洞窟トカゲは我に返り、抵抗を開始したが、もう遅かった。


「……ふう。一瞬やばいと思ったが……ミナト、その技は何だ?」

「えっとね、グラキアスとルクスにもらったスキルなんだけど……」

 ミナトは【竜の咆哮】と【古代竜の威】について皆に説明した。


「うまくいくか、心配だったんだ!」

「ばうばう」

 タロに褒められながら、ミナトは死骸をサラキアの鞄に入れていく。


「陛下のスキルとルクスのスキルか。ミナトが使いこなしていたと聞いたら陛下が喜ぶぞ」

 レックスも嬉しそうだ。


「あとで、グラキアスにお礼言わないとね!」

 死骸回収の手を止めないミナトにジルベルトが言う。


「死骸の処理は後回しでいいんじゃないのか?」

「そうかもしれないけど、嫌な予感がするからね」

「嫌な予感か? ミナトの予感は当たるからな……」

「そうですね、呪神の使徒ならば、アンデッドを作る可能性もありますし」


 アニエスが真剣な表情で言う。


「あ、そうか! アンデッドには精神支配が効かないからな」

「なんで効かないの?」「効かないです?」「ばうばう?」

「精神とは心です。そして、アンデッドには心、つまり精神がないんです」


 マルセルが死骸集めを手伝いながら教えてくれる。

 アンデッドは術者の命令を聞く機械に近い。だから、アンデッドには精神支配は効果が無い。


「もっとも、意思を持ったままアンデッドになる不死者の王の様な種族もいるのですが」

「不死者の王にも効かない?」

「効きませんね。意思と精神は違うということなのでしょうね」

「どう違うの?」

「研究者の間でも諸説があります。わからないことが多いのですよ」

「へー」「勉強になるです」「ばうばう」


 呪神の使徒と対峙した際、後方からアンデッドと化した魔物の大群に襲われたら厄介だ。


「あ、呪者には心はあるの?」

「ないと言われていますね。ですが、研究はあまり進んでいません」


 つまり、呪者には精神支配系の技や魔法は通じないのだろう。


「そっか。大精霊さんが呪者になるまでに助けないとね」

「ばうばう」


 精霊や聖獣にかけられた呪いが最後まで進行すると、呪者になってしまう。

 そうなってしまえば、もうミナトでも助けられない。


 それは呪者になった時点で、精神が消え死んでしまうからかもしれなかった。


「これでよしと! みんなしまったから安心だね」「ばうばう!」

 ミナト達が協力して死骸をサラキアの鞄にしまい終えると、

「じゃあ、行くぞ」

 ジルベルトが走り始めようとする。


「ちょっとまって。ジルベルト」

「どした?」

「えっとね、まだ敵がいっぱいいるんだ」

「だろうな」

 改めて言われなくてもわかりきっている。急にどうしたんだとジルベルトは首をかしげた。


「ちょっと、いいことを思いついて……。タロ、こっちきて」

「ばう?」

「タロ。えっとね。手伝って。あとみんなを守ってね」

「わふ!」

「ありがと。すぅぅぅぅ」


 ミナトは大きく息を吸う。


『がおっ! おおおおおおぉぉっ!』


 そして叫びながら【氷ブレス】を、坑道の奥をめがけて吐き続けた。

 それは、氷竜王グラキアスからもらったスキルである。


 強力な冷気がアニエス達の方へと流れ込もうとするが、

「ばう~」

 タロが風魔法で空気を操り、冷気を坑道の奥へと押し込める。


 おかげで、アニエス達は少しひんやりする程度で済んでいた。


「だいたい、みんな凍った! いこう、ジルベルト!」

「お、おう? それにしても凄いな。なんだその技」

 走りながら、ジルベルトが尋ねる。


「グラキアスからもらった【氷ブレス】だよ! レックスも使えるよね」

「ああ、使える。だが、ミナトの【氷ブレス】より威力は落ちるがな! 見事なものだ」

 レックスは誇らしそうだ。


「えへへ~。あ、地面が凍ってる! すべるよ!」

「ぴぃ~」

 ピッピが体に炎をまとい、先導し始める。


「おお、地面の氷がとけてる! ありがと! ピッピ!」

「ぴぴぴ~」

 ピッピが先導してくれるおかげで、前方が明るくなった。

 もちろんミナトは灯火の魔法を使い続けてはいるが、他に灯りのない坑道は全体的に暗いのだ。


「あ、凍り付いた死骸だ! 回収しないと!」

「手伝うです!」


 走りながら、死骸を見つけては回収していく。

 たまに生きている魔物もいたが、氷ブレスで弱っているので簡単に倒すことができた。


 走りながら、ジルベルトが言う。


「ミナトは凄いな。一応、死も覚悟していたんだがな……余裕じゃないか」

「ええ。危険すぎる二択で、少しだけ、ましな選択肢を選んだだけですからね」


 当初、撤退すべきだと主張していたアニエスが、少し微笑みながら言う。

 グラキアスのときよりも強力になった呪いの結界。坑道内では対処しにくい強力な魔物達。

 どう考えても危険すぎた。


 それでも、大精霊が呪者になってしまうよりはましだと考えて、奥に進むことを決めた。

 危険すぎることは間違いなかったのだ。


「ミナトのスキルのおかげで圧倒できていますね。ミナト、タロ様、結界の影響はどうですか?」

「ミナト。タロ様。呪いの結界はどう? やっぱり、動きにくい?」


 マルセルとサーニャが、ほとんど同時にミナトとタロに声をかける。


「んー。やっぱり動きにくい。魔法もつかいにくいし、解呪とかもしにくい気がする」

「ばうばう」

「タロも、やっぱり動きにくいし、魔法もつかいにくいって」

「……それであの威力ですか」


 先ほど、タロの風魔法を見たばかりのマルセルが、息をのむ。


「動きにくくてそれなら、充分充分!」

「はい、ミナトもタロ様も、すごいです!」「んにゃ~」


 レックスとコリンとコトラもミナトとタロを褒める。


「ですが、相手も使徒の可能性が高いのですぞ。油断は禁物です」

 ヘクトルがそう言って、空気を引き締めた。

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