127 襲われるコボルトの村
◇◇◇◇
坑道が崩落し、ミナト達が閉じ込められたのと同じ頃。
氷竜王グラキアスは、コボルト達の建築作業を手伝っていた。
「グラキアスさん、助かります」
「よいよい。我にとってはたいしたことではない」
コボルト達が十人がかりで運ぶ材木を、グラキアスは一人で軽々と運んでいた。
材木を運び終え、次の材木を運びに行こうとしたグラキアスの頭上でルクスが鳴いた。
「リャ! リャッ!」
それは警戒を促すような鋭い声だった。
「うむ。気づいておるぞ。虎3号。おるか!」
「がう!」
「敵だ。しかも呪者である。迎え撃つ。手伝うが良い」
「ガガゥ」
「村長、それに皆も安心するが良い。敵は我と虎3号が倒すゆえ」
「ありがとうございます!」
偉大なグラキアスが倒すと言ってくれたので、コボルト達は全く怯えなかった。
「敵は東だ。虎3号は控えて、我が漏らした敵を撃て」
「ががお」
「ぶぶい!」
魔猪が自分も戦うと主張した。
「魔猪は強いが……魔獣であろう? 戦闘は我ら聖獣に任せるが良い。だが協力感謝」
呪者を倒すのは聖獣の役目なのだ。
「魔梟は上空で索敵と伝達、魔猪、魔鼠、魔狸、魔山羊は村外周を索敵してほしい」
「ほほほう」「ぶぶい」「ちゅちゅ」「きゅ」「めえ~」
「うむ。地上の魔獣達は敵を見つけたら、鳴いて魔梟に報せよ。魔梟は我らに報せよ」
「ほう!」
「では行け!」
そして、グラキアスは頭上にルクスを乗せて、虎3号と一緒に東に向かって走る。
「りゃあ~」
「うむ。ルクスは何も心配せずともよい。我は強いゆえな」
「りゃむ~」
「そうだ。敵は呪者と人族。……呪者に同行するなど呪神の導師以外に考えられぬな」
「りゃ~」
「我を心配してくれるのか? ふふ、ルクスは優しいのう。安心するがよい」
頭上のルクスを撫でてから、
「虎3号! 我が飛び出したら、柵の内側で控えてくれ」
「がう!」
「魔梟から報せが来たら、対応を頼む」
「ががう!」
「うむ。任せた!」
グラキアスは村を囲む柵を跳び越え、外に出る。
「タロ様にはかなわぬが、我は氷竜王グラキアスぞ? 大概の敵は相手にならぬわ」
村の東側には二十体ほどの大きい呪者がうごめいていた。
おぞましいほどの悪臭が漂っている。
その後方にはローブを身につけ、フードを深くかぶった人族がいる。
「お前、呪神の導師だろう?」
「…………」
「目的は何だ?」
「………………」
「答えぬか。まあよい。聞くまでもないことゆえな」
グラキアスは美しい青い髪を風になびかせながら、ゆっくりと歩いて近づいていく。
「まともに戦えば、ミナトとタロ様には勝てぬゆえ人質を手に入れようとしておるのだろう?」
「なっ」
「人質はルクスか? それともコボルト達か? いやその両方か」
ミナト達が魔物が発生した鉱山に向かったタイミングで、呪者が襲ってきた。
ならば、鉱山の魔物騒ぎも呪神の使徒の企みと考えるのが自然だ。
そうなると、ミナト達が不在の村を襲う理由など一つしかない。
呪神の使徒が、ミナト達と戦いを有利にすすめるために襲ってきたのだ。
村を襲って、有利になるとすれば、人質を取るぐらいしかない。
「まあ、我がいるから、その作戦は失敗が決まっておるのだがな?」
「……何者か知らぬが、調子に乗りやがって。小娘が」
「お? 小娘? 我を小娘と呼んだのか? 新鮮だな」
グラキアスが、嬉しそうに微笑んだ。
「覚えておくがよい! 我が名はグラキアス。氷竜王グラキアスであるぞ!」
次の瞬間、グラキアスの手から強力な【氷ブレス】が放たれた。
一瞬で、強力な呪者が凍り付く。
「我は氷竜王である前に聖獣ゆえな。呪者を退治するのが本領よ」
「ひっ。なぜ、氷竜王がこんなところに……」
怯える導師をグラキアスもルクスも気にしない。
「りゃあ?」
「ん? なぜブレスなのに口から出さないのかって? それはだな。……見せた方が早いな」
グラキアスは口から【氷ブレス】を吐いた。たちまちもう一体、呪者が凍り付く。
「口の中が冷えるのだ。それに人型は口が小さいゆえな。手の方が効率が良い」
「りゃむ」
「ルクスも将来人型になったときは、ブレスは手から出すと良いぞ」
口から出したら効率が悪く、威力が弱くなってしまうのだと、グラキアスは丁寧に教える。
「では、呪者退治の続きといこうか」
「りゃぁ」
グラキアスは頭上にルクスを乗せたまま、呪者を倒し続けた。
導師は沢山の呪者を用意していたが、最強の聖獣でもあるグラキアスの敵ではなかった。
「ルクス。見ておくがよい。氷に限らず【ブレス】の効果的な使い方はこうであるぞ!」
「りゃむ」
「そして、竜の魔法はこうやって使うのが良い!」
「りゃあ~」
「竜は人族と異なり無尽蔵の魔力があるがゆえ、制御は難しいのだ」
グラキアスはルクスに教えながら呪者を倒す。
竜であるルクスには、竜の戦い方を教える師が必要だった。
「人族の魔導師はいかに威力を高めるかに腐心するが、竜はいかに制御するかに腐心する」
「りゃぁむりゃむ」
ルクスはグラキアスの教えを真剣に聞いていた。
「だから、このように……な? わかったか?」
「りゃむ」
ご機嫌なグラキアスは、戦い方を教えながら、呪者をゆっくり倒していった。
◇◇◇◇