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【2025年1月16日4巻発売】ちっちゃい使徒とでっかい犬はのんびり異世界を旅します  作者: えぞぎんぎつね
三章

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126 坑道の崩落

 全く光のない暗闇の中ジルベルトが叫ぶ。


「マルセル! 灯り!」


 洞窟トカゲは熱を探知し、バットは音で獲物を探れる。暗闇でも戦える魔物なのだ。


「わかってる! 光の精霊よ。マルセル・ブジーが助力を願う、光球(ライト・ボール)


 だが、詠唱が終わっても、光球は出現しなかった。


「精霊が呼びかけに応じない! もう一度! 光の精霊よ――」

「いと高きところにおわす至高神。汝の奴隷たるアニエスの願いを――」


 すかさずアニエスが神聖魔法の灯火の準備をするが、


「ちゃあ~」


 ミナトの間の抜けた声が響くと、明るい光球が宙に出現する。

 ミナトが使ったのも神聖魔法の灯火である。


 アニエスは、地上に奇跡を顕現する為には神に祈る必要がある。

 だが、ミナトは神の地上での代理人、代行者たる使徒なので、祈る必要すら無いのだ。


「ミナト、助かった!」

 ミナトの光球が周囲を照らしたときには、魔物達は眼前に迫っていた。


「はああああぁ!」


 それをジルベルト達は冷静に潰していく。

 明るささえあれば、ジルベルト達にとって、洞窟トカゲもバットも敵ではない。


 あっという間に二十匹を狩り尽くした。

 敵を倒して、危機を脱して、アニエス達はやっと現状把握を始める。


「……坑道が崩落して退路は断たれたと。マルセル。精霊が呼びかけに応じないとは?」

「言葉の通りです。精霊の反応がいきなり消えました。完全にないわけではありませんが……」


 どうやら、いつものようには魔法を使えないらしい。

 弱い魔法でも、沢山の魔力を消費してやっと発動ができるかどうか。


 強い魔法の発動は望むべくもない。


「それにカンテラはどうして消えたんだ?」

「偶然……ってのはありえないでしょうね」


 一つだけ消えたならばともかく、三つ同時に消えたことが偶然とはは考えにくい。


「……普通に点灯していますね」


 消えたはずのカンテラは今は周囲を照らしていた。


「理由はわからんが、カンテラには頼らない方がいいだろうな」


 いつまた、カンテラの灯りが消えるかわからないのだ。


「僕がずっと灯火つかっておくね!」

「たのむ、ミナト。助かる」


 大人達が真剣に相談している間、ミナトは灯火の魔法を維持しながら、


「ばうばう~」

「うん。お肉はおいしいらしいもんね。これだけあれば、みんなで食べられるよ」


 倒した洞窟トカゲとバットをサラキアの鞄にしまっていった。


「ばう~」

「そだね。きっとルクスも喜ぶね!」

「わふわふ」

「コボルトさん達も魔猪さん達も、それに虎3号とグラキアスも! 一緒に食べよう」

「あ、ミナト、このバットの牙、いい感じです」

「素材にもなるってかいてたもんね! コボルトさん達よろこぶかな?」

「喜ぶですよ!」「んにゃ~」


 ミナトとタロ、コリンは二十匹を手分けしてサラキアの鞄にしまいおわった。


「……ふう。これでよし」


 そんなミナトにジルベルトが尋ねた。


「ミナト、カンテラが消えた理由に心当たりはないか?」

「わかんない……でも、なんかの魔法かスキルかなー」

「魔法かスキル? どんなだ?」

「隠すかんじの魔法かスキル」


 灯りを隠したと、ミナトは考えていた。


「わからん」

「僕もわかんないかも」


 ならば、緊急時の今は深く考えない方がいい。そうジルベルトは考えた。

 他にも謎はあるし、解決すべき問題はあるのだから。


「ミナト。マルセルが精霊の気配が消えたって言うんだが、何かわからないか?」

「うーん、えっとね。嫌な気配がするからかな?」

「嫌な気配?」

「グラキアスの下にあったやつに似てるかんじ」


 ミナトは氷竜王を助けるために山を登っているとき、嫌な気配がすると言っていた。


「それって確か、呪神の使徒が仕掛けた呪いの結界のような奴だよな」

「そうそう。僕とタロの力を抑えるやつ」


 そういいながら、ミナトは指先から水球を出したり火球を出したりする。


「だいぶ出しにくい気がする。それに魔物の気配もさっきよりわからないかも」

「わふ~」

「そだね。グラキアスのときより、嫌な気配が強いかも」


 ミナトの言葉を聞いて、ジルベルトが真剣な表情で尋ねる。


「より力を抑えられてしまっているってことだな?」

「そう。でも、僕は戦えるよ?」

「ばうばう」

「タロも戦えるって」


 ミナトもタロも元がものすごく強いのだ。多少抑えられた程度では最強なのは変わらない。


「前回は呪いの核を壊したら、結界も壊れたんだよな」

「そうそう」「ばうばうばう」

「核の位置はわかるか?」

「うーん。ちょっと待って、気配をさぐりにくいの。むむ~~」


 ミナトは目をつぶって、気配を探る。


「ばうばう~」


 そんなミナトをタロが一生懸命応援していた。


「わかった! あっち! 坑道の奥の方」

「わふ!」


 タロはさすがミナトと鳴くと、尻尾をぶんぶんと振った。


「そうか。すぐ近くならともかく、ずっと奥ならば退くべきだろうな。アニエスどう思う?」

「そうですね。我らにはレックスとタロ様がいますから」


 通常、坑道が崩落して、中に閉じ込められたら救助を待つしかない。


 だが、氷竜であるレックスと、規格外のタロがいればなんとかなる。

 がれきをどかして、脱出することも可能だろう。


「慎重に作業する必要があるから、数時間かかるが、がれきをどかすのは可能だ」

「ばう!」

「タロがまかせてだって。でもね、退くのはちょっと待って」

「どうした、ミナト? 何かあるのか?」


 ミナトは坑道の奥を指さした。


「精霊さんがくるしんでるんだ」

「……湖の大精霊メルデ様のようにですか?」


 困った様子でアニエスが尋ねた。

 アニエスも精霊は助けたい。だが、非常事態の今、そんな余裕はない。


「うん。大精霊だけじゃないよ。小さな精霊さんも沢山集まって苦しんでる」

「わふ!」

「早く助けてあげないと。ねえ、精霊さんを助けに行っていい?」「わう?」


 以前のミナトとタロなら、苦しんでいる精霊の気配を感じたら走り出していたかもしれない。


 だが、ミナトとタロは、黙ってグラキアスを助けに行って、アニエス達に怒られたのだ。

 どれだけ心配したと思っていると言われて、とても反省した。

 だから、すぐに助けに行きたくても、ミナトとタロは勝手に走り出したりはしない。


「ミナト。気持ちはわかるが、不測の事態が起きたんだ。今は退いた方がいい」

「でもね、ジルベルト。時間がたてばたつほど、よくないことがおこるとおもう」

「ばうばう!」


 タロもそうだそうだと言っていた。


「よくないこと? どうしてそう思うんだ?」

「まず、メルデのときと同じなら、呪いは進むでしょう?」

「そうだな」

「なら、どんどん精霊さんの呪いが進んで悪いことがおこるよ」


 それはジルベルト達も理解している。

 だが、たとえそうだとしても、一度退いて準備を整えた方がいいと考えているのだ。


「それに魔物って、奥の方がいっぱいでしょ?」

「俺は気配が読み取れないが、そうらしいな」


 坑道の奥まで、魔物の気配を探れるのはミナトだけだ。


「多分だけど、……召喚だと思う」

「召喚?」

「そう、魔物の巣につながったわけじゃないと思う」


 先ほど、サーニャとマルセルが魔物が出現した理由を推測していた。

 召喚は考えにくく、魔物の巣に坑道がつながったのだと考えるのが自然だと結論づけていた。


「でもね? 呪われた大精霊がいるなら、呪神の使徒が来たんだよ。きっと」

「……使徒か」


 ミナトをみればわかるが使徒は強い。使徒ならば魔物を召喚できても不思議ではない。


「レックス。グラキアスは召喚できるっていってたよね?」

「ああ、陛下ならできるな」


 そして、グラキアスは呪神の使徒に一度負けている。

 つまり呪神の使徒はグラキアスより強いのだ。


「だが、これほど大量の魔物を召喚するのは陛下でも難しいぞ?」


 レックスは「呪神の使徒はそれほど強いのか?」と考えているのだろう。


「マルセル。精霊の気配が消えたんでしょ?」

「そうですね。通常はそこら中に精霊がいるものなのですが……」


 大精霊とは違い、精霊は沢山いる。

 そして、魔導師は付近に沢山いる精霊に呼びかけて、その力を借りて、魔法を行使するのだ。


「たぶんだけど、呪神の使徒が精霊を集めているんだよ」

「精霊を集める? そんなこと果たしてできるものなのですか?」

「わからないけど……」


 ミナトは少し考えた。


「でも、マルセルって、魔法を使うとき、いつも精霊にお願いしているでしょう?」

「ええ、そうですね」

「でも、ドミニクは命令してた」

「ぴぴぃ」「ぴぎぃ~」


 ドミニクの名が出て、ピッピとフルフルがびくりとした。

 ドミニクとは、フルフルの友達であるリチャード王の甥で、呪神の導師だった男だ。

 リチャード王とピッピの父パッパ、ルクスを呪い、ファラルド王国を乗っ取ろうとした。


「確かに、そうでしたね。ドミニクは命じていました」


 マルセルとは異なり、ドミニクの詠唱は、

「水の精霊よ。呪神の名のもとに、ドミニク・ファラルドが命じる~」だったのだ。


「きっと、呪神の使徒は精霊に命じることができるんだよ」

「精霊を集め、呪って支配下に置いて、召喚魔法を行使していると?」

「きっとそう」


 呪神の使徒や導師は、精霊に無理矢理命じて支配しているのだ。


「貸したくないっておもっても、魔力をうばわれちゃって、魔法をつかわされちゃう」

 精霊を強制的に支配して、召喚しているのだとしたら、ゆゆしき事態だ。


「無理矢理、力を引き出された精霊さん達が、死んじゃうかも」

「可能性は……ありますね」

「つまり、時間をかければ精霊が死んで魔物が増えると、ミナトは考えているわけですね」

「そう。呪われた大精霊さんも、完全に呪われちゃったらきっと大変なことになる」


 大精霊が完全に呪われてしまえば、呪神の使徒による精霊支配がより強固になろうだろう。

 そうなれば、呪いの結界の核も強化されるだろうし、魔物も増える。


 強力な魔物の群れと、かつて大精霊だった呪者。

 そして大量の精霊を完全に支配し力を増した呪神の使徒。


「そうなったら、鉱山をでてノースエンドを襲うと思う」

「ミナトの読みは当たっている気がしますな」


 ヘクトルがそういうと、マルセルとサーニャも頷いた。


「…………わかりました。奥へと進んで精霊を助けましょう」


 アニエスが決定し、坑道の奥へと進むことが決まった。

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