124 坑道探索開始
ミナト達が洞窟トカゲとバットについて勉強している間も、ジルベルト達は話し合っている。
「魔物の発生は急に?」
「そうですね、数日前から一日に一匹ほど魔物が出没していたのですが……」
昨日の夕方、急に魔物があふれるように出現したという。
「死傷者は?」
「夕方で、皆が交代時間だったことが不幸中の幸いでした」
鉱山は三交代制で、一日中鉱石が掘られている。
だが、夕方には一度昼の鉱夫が全員が外に出て、それから夜の鉱夫が入ることになっていた。
鉱夫が高価な鉱石を外に隠し持って出ない様にするための身体検査をスムーズに行うためだ。
「昼の鉱夫が外に出て、これから夜の鉱夫を入れようとしたときに」
「魔物が大発生した、ということですね」
「その通りです」
「なるほど……サーニャ、マルセル、どう考える?」
ジルベルトは一通り話を聞くと、優秀な狩人であるサーニャと博識なマルセルに尋ねた。
「うーん、急に魔物が発生するなんて聞いたことないかも。無から発生するわけもないし」
「考えられるのは……別の場所に通じていたとかでしょうか」
「そうね。その可能性が一番高いかも。召喚された可能性もある?」
「理論上はあり得ますが、考えにくいでしょう」
「そうよね。一匹召喚するだけでも魔力が大量に必要だもの」
「坑道が魔物の巣にぶつかったと考えるのが、最も現実的でしょうか」
話を聞いていたミナトが隣にいるレックスに小声で尋ねる。
「召喚ってなに?」「ぁぅぁぅ」
「あー、魔物を呼び出す魔法だな。魔力が大量に必要だからかなり難しい」
レックスも、警備員に聞こえないように小声で返事をしてくれた。
「レックスでも?」
「俺は魔力は足りているが、練習したことないからできないぞ」
レックスは氷竜なので魔力は大量にあるが、魔導師タイプではないのだ。
「グラキアスならできる?」
「……陛下ならできるだろうな。陛下は魔法に関しては天才だからな」
「そっかー、あ、レックス。魔物の巣って何?」
「魔物がめちゃくちゃ集まっている場所だ。集まる理由はいろいろだがな」
「へー」「ぁぅ~」
それからジルベルト達は、鉱山内の魔物をどうするかを素早く話し合った。
「とりあえず倒しながら探索して、魔物の巣につながる通路を見つけましょうか」
アニエスが話し合いをそうまとめると、異論はでなかった。
クリームパンを食べて元気になったミナト達は、いよいよ鉱山に入ることにする。
「では行くぞ。気を引き締めろ」
「はい!」「ばう!」「がんばるです!」
ミナトとタロ、コリンが坑道に入ろうとすると、慌てた様子の警備員に止められた。
「ちょ、ちょっと待ってください」
「むむ?」「わふ?」「どしたです?」
「小さい子は危ないから入ったらだめだ」
心配してくれる警備員にアニエスが言う。
「大丈夫です、ミナトとコリンはは特別な子供なので」
「……聖女様がそうおっしゃるのでしたら」
「心配してくれてありがと!」「ばうばう」「ありがとです」
ミナト達とひとまとめに小さい子として心配してもらったと思っているタロもお礼を言った。
「それじゃあ、おじさん、またね!」「ばうばう~」「またです!」
「待て待て!」
「どしたの?」「わふ?」「どしたです?」
「そっちの犬は、逆に体がでかすぎる」
「ばう~?」
タロは首をかしげた。
「いいかい? この辺りは大きいが、坑道には狭いところもあるんだ」
「わふ?」
「君ぐらい」
「タロだよ」
「そうかい。タロぐらい大きいと、身動きがとれなくなるかもしれない」
「ばばう」
「だから、入ったら危ない。外でおじさんと待っていよう?」
「わう!」
タロはそれは出来ないと力強く言う。タロはミナトを守らねばならないのだから。
「うーん。じゃあ、タロは入れるところまで一緒に行こっか?」
「ばう~」
タロは「奥まで入れる!」と主張するが、そういうわけにはきっといかないだろう。
「おじさん、タロには無理させないから。ね?」
「そうかい? 聖女様、本当に大丈夫なのでしょうか?」
「きっと大丈夫でしょう。無理はさせませんから」
アニエスにそう言われて、やっと警備員は引き下がった。
「そうですか。……どうかお気をつけて」
「はい。ありがとうございます」
そうして、ミナト達はやっと坑道の中に入った。
先頭はジルベルト、最後尾はレックス、間に他の者という隊列だ。
坑道の中に入ってすぐに、入り口からの光が届かなくなる。
ジルベルトとコリン、レックスがカンテラで周囲を照らしながら歩いて行く。
「坑道ひろいね? もっとせまいかと思ってた」
「ばうばう」
タロもこれなら走れるといっている。
「広くないと鉱石の運搬に支障がでるからな」
「そっかー」「わふ~」
「タロが動けないぐらい狭いのは、最新の広げている最中の坑道だろうな」
「なるほど~」「ばう~」
すると、ゆっくりミナトの後ろをついてきたコリンが言う。
「もっと魔物であふれていると思ったですけど」
「そうだな。まだ魔物の気配はないな」
先頭を進むジルベルトが、振り返らず前を見たまま返事をした。
「コリン。もう少し奥に進んだあたりから沢山の気配を感じる。油断しないでね」
コリンの近くで周囲を警戒しているサーニャが皆に聞こえるように言った。
「はいです!」「にゃ~」
「さすが、サーニャ。まだ私には気配を感じ取れませんぞ」
ヘクトルはそういうと、コリンに向かって笑顔で続ける。
「コリン、索敵はできるに越したことはありませんぞ」
「はいです」
「剣はジルベルトに学べば良いが、索敵はサーニャを見習えば間違いはありませんな」
「……へへ。本職だからね?」
「がんばるです!」「んにゃ~」
コリンとコトラが気合いを入れていると、
「あ、ジルベルト! そこに目立たないけど横穴があって、バットがいるよ!」
「なに? 気づかなかった。さすがミナトだな」
カンテラの照らす明かりだけでは、暗くて見落としも多くなるのだ。
「えへへ~、雀の聖獣さんからもらった【索敵】スキルのおかげだね!」
ミナトは【索敵】スキルのレベルは45。手に取るように敵の場所がわかるのだ。
「あ、本当だ。さすがミナト。狩人の私より索敵能力は高いわね」
「えへへ、ありがと」「ばうばう」
照れながらミナトは言う。
「バットはまだ動いていないよ」
「奇襲を仕掛けるつもりね。バットのくせに生意気な。ジルベルトどうする?」
「バット一匹程度なら、俺一人で大丈夫だ。魔力も矢も温存しよう」
「ジルベルト、任せました」
アニエスがそう言うと、ジルベルトはカンテラを置き、素早く駆けて、
「――――――――」
「はぁぁぁぁ!」
怪音波を発するバットを一刀のもとに斬り伏せた。





