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123 鉱山に向かおう

 あっさり引き受けてしまったアニエスを、ジルベルトが困った表情で見た。

 なぜ、交渉材料にしないのかと目で訴えている。


 それに気づいたアニエスが笑顔で言う。


「ジルベルト。困っている方の弱みにつけ込むことは至高神様のご意志に反するわ」

「なんと……」「……聖女様」


 アニエスのその言葉を聞いて、神殿長も神官も、冒険者達も感激しているようだった。


「……かしこまりました。聖女様の仰せのままに」


 ジルベルトはすぐに引き下がる。


「では、早速魔物討伐の準備をいたしましょう」

「アニエス、我も手伝おうか?」

「いえ、氷竜王陛下に御出馬いただくまでもないでしょう」


 氷竜王の攻撃は強すぎる。人型であってもだ。それゆえ、狭い鉱山には適さないのだ。


「そうか。いつでも言うが良いぞ?」

「ありがとうございます。私達の手に負えないようでしたら、お願いいたします」


 そして、アニエス達は鉱山の魔物退治の準備を素早く始めた。


「じゃあ、俺が手伝おうか?」

「……レックスは鉱山に行ったことはあるのか?」


 ジルベルトがそう尋ねると、レックスは胸を張る。


「ああ、何度も行ったことがある。案内なら任せてくれ」

「じゃあ、頼む」


 鉱山の魔物退治に向かうのは、アニエス達聖女パーティにミナトとタロ、ピッピとフルフル。

 それに、コリンにコトラ、そして、案内役のレックスである。


「グラキアス、虎3号。みんなをお願いね」「わふわふ」

「ああ、任せるがよい。ミナト。タロ」

「がおがお」


 そして、ルクスはグラキアスに預けることになった。鉱山は暗いし、危ないからだ。


「ルクス。グラキアスの言うことを聞いていい子にするんだよ?」「わふわふ」

「りゃ~」


 グラキアスに抱っこされたルクスは手をパタパタさせている。


「ルクスのことは我に任せるが良いぞ!」

「りゃあ~」


 凄く上機嫌で笑顔なグラキアスと、可愛いルクスに見送られて、ミナト達は村を出発した。


「聖女様。そして皆様。どうかよろしくお願いいたします。お気をつけて」


 神殿長達も同行していたが、途中で別れるとノースエンドに戻っていった。

 やはり、神殿長はとても忙しいらしい。


「じゃあ、ついてこい」


 レックスを先頭にして、ミナト達は鉱山へと向かって歩いて行く。



 村を出て、街道を歩きながらミナトが尋ねる。


「どうして、レックスは鉱山に行ったの? 鉱石を掘ったの?」「ばうばう」

「違うぞ? 冒険者ギルドからの護衛依頼で何度か行ったんだ」

「え? でも、魔物が出てきたのは最近なんでしょう?」


 その間、レックスはミナト達と同行していたのだ。


「確かに鉱山の中には魔物は出なかったが、鉱山と街を結ぶ街道の安全確保も大切なんだ」

「そっかー」「ばうばう」

「魔物だけでなく、野盗もいるからな」

「あー、野盗かー」「わふ~」

「だから、実は坑道の中に入ったことはないんだがな!」


 そう言って、レックスは笑った。



 廃村改め、コボルト村から鉱山までは十五キロほど離れていた。

 普通に歩けば、四時間近くかかる距離である。


 だが、ミナトもタロもアニエス達もレックスも足は速い。飛べるピッピは言わずもがなだ。

 持久力が少なめのコリンや、小さなコトラ、フルフルはタロの背中に乗っている。

 皆速いので、二時間弱で鉱山まで移動することができた。


「まだ、お昼まで時間あるねー。鉱山の中でお昼ご飯だね!」「ばう」

「いや、それはどうだろうか。暗いし、空気もよどんでいるかもしれないぞ」


 ジルベルトが笑顔で言う。


「そっかー。じゃあ、お昼ご飯までに終わらせたいね!」「わふわふ~」

「それはさすがに難しいんじゃないか?」

「ミナト、軽食をとってからはいりましょうか」


 昨日、ミナト達にお昼ご飯を食べさせなかったことを、反省しているアニエスが提案した。


「あ、それいいね! 今日はクリームパンにしよう」「わふわふ!」

 ミナトがクリームパンを配って、鉱山の入り口近くに座ってみんなで食べる。


「うまいうまい。クリームがとろりとして、あまくてうまい」「わふわふ」

「僕、あんパンと竜焼きも好きですけど、クリームパンが一番好きかもです。ミナトは?」


 コリンに尋ねられて、ミナトは真剣な表情で悩んだ。その横ではタロも悩んでいる。


「……うーん。こうおつつけがたいよね?」

「わふわふ」

「でも、……あえていえば、しいていえば、あんパンかな……」「ばうばう」

 タロも強いて言えばあんパンが一番好きだという。


 ミナト達がわいわいクリームパンを食べていると、

「ここで何をしている! ここは子供が来るところじゃないぞ!」

 鉱山の入り口に立っていた警備員が怒りながらやってきた。


「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ない。私はこういう者で、神殿長からの依頼を受け――」

 ジルベルトが冒険者カードを見せながら、事情を説明する。

 すると、警備員の顔がみるみるうちに青くなる。


「こ、これは失礼いたしました。聖女様ご一行だと思わず……」

「いえいえ、こんなところで子供連れがピクニックをしていたら誰でも注意しますから」


 アニエスは笑顔で、そう言った。


「むしろご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした」

「いえ! いえ! そんな聖女様が謝られることなんて何も!」


 恐縮する男に、ジルベルトが言う。


「ところで、鉱山の中はどうなっています?」

「はい。相変わらず魔物が沢山発生している模様です」

「魔物の種類はどのようなものが?」

「確認されたのは洞窟トカゲとバットですね」


 話を聞いていたミナトは、

「……洞窟トカゲとバット」

 こっそりとサラキアの書を取り出して開いた。


 ----------


【洞窟トカゲ】


 巨大なトカゲの魔物。成体の体長は一から三メートル。


 洞窟トカゲという名だが、洞窟以外の森や砂漠などにも生息している。

 性格は非常に凶暴で好戦的。知能は低くないが言語を解さないので話し合いの余地はない。


 鋭い牙をと爪を持ち、動きも素早い。体表を覆う鱗は頑強で並の剣では通らない。

 目があまりよくないかわりに、熱を探知することで、温度差のある物体を視ることができる。


 肉は、牛に似た味だが、臭みがない。脂身は甘くしつこくない。

 ミディアムレアのステーキがおいしい。

 ビーフシチューの牛肉の代わりに使っても、とてもおいしい。


 革は頑丈でしなやかなので、珍重される。


 上位種には【洞窟火トカゲ】などがいる。洞窟火トカゲは口から強力な炎ブレスを放つ。

 洞窟火トカゲの肉は洞窟トカゲよりも味が濃くておいしい。

 革もより上質で高価。


 ----------


【バット】


 蝙蝠の魔物。成体の翼開長は一から二メートル。洞窟や森林に生息している。


 性格は凶暴で好戦的。知能は低くないが言語を解さないので話し合いの余地はない。


 狭い洞窟内や、生い茂る木々の間を器用に高速で飛び回り、爪と牙で攻撃する。

 非常に素早いため、並の剣士や弓使いでは、捉えることは難しい。


 バットと戦う際の最大の脅威は、魔力を含んだ人族の耳では聞こえない波長の鳴き声。

 通称怪音波。怪音波を受けると、耐性のないものは気を失う。


 耐性のある者でも、方向感覚がおかしくなり、転倒したり、激しい頭痛に襲われる。

 音波の反響を利用して、獲物の位置を把握する能力がある。


 肉は、鶏肉に似ている。

 あっさりしており臭みがなく、脂身は甘くしつこくなく、赤身もパサつかない。


 焼いても煮てもおいしい。羽や牙、爪も加工品の材料として需要が高い。


 上位種に【吸血バット】などがいる。

 吸血するために、牙から毒を注入し獲物を麻痺させる。怪音波の威力も高い。


 上位種の肉は臭く、味もよくない。

 羽や牙、爪は上位種の方が品質が高く、需要もあり高価。


 ----------


「なるほど~強そう。コリンも見て」「ぁぅぁぅ」

「……強そうです」「んにゃ」

「油断しないようにしないと」

「毒です。怖いです」「にゃー」

「わふわふ」


 タロはおいしいと書いてあるのが気になったようだ。


「そだね。吸血バット以外はおいしいみたい。サラキア様も好きなのかも」

「そなえてあげるです!」

「そだね!」「わぁぅ~」


 ミナト達はおいしいお肉が楽しみになった。

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まさかバットまで美味しいとは。
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