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111 虎3号

「どうした? ミナト。急に立ち止まったりして」「りゃあ?」


 レックスが尋ねると、お腹にくっついているルクスも不思議そうにミナトを見る。


「……みんな、ちょっと待って」

「何か見つけたです? 敵です?」


 身構えたコトラに、ミナトは笑顔で言う。


「大丈夫。敵じゃないよ。えっとね。……すぐ来るよ」

 説明するより、実際に見た方が早いと、ミナトは思った。


「すぐです?」

「うん、すぐ」


 次の瞬間、藪の中から矢のように虎が飛び出してきた。コトラの姉、虎3号だ。


「がうがう」

 駆けてきた虎3号は、コトラのことをベロベロと舐めた。


「なぁぅ」

 コトラは嬉しそうに鳴いている。


「ミナト、よく気づいたな」

「ええ、虎の足音、特に聖獣虎の足音なんてほとんどしないのに」

 ジルベルトとアニエスが感心してミナトを褒めた。


「なんとなくわかった! 多分雀さんにもらったスキルのおかげだよ!」

 ミナトはどや顔でいう。


 雀の聖獣から【索敵】のスキルをもらったおかげで、ミナトの索敵能力は非常に優れている。

 その索敵能力の高さは、タロすら凌ぐほどだ。


「ばうばうばう~」


 タロは「ミナトは凄い」と言いながら、ミナトの顔をベロベロ顔を舐めた。


「魔猪さん達、虎3号は怖くないよ、コトラのお姉ちゃんだからね!」

「ぶぼ」「きゅ」「ちゅちゅ」「めえ~」「ほほう」


 魔猪達は巨大な虎を目にしても怯えていなかった。一瞬だけびくりとしただけである。

 きっと、虎より恐ろしい竜が味方だからだろう。


「虎3号は、コトラの気配に気づいて走ってきたの?」

「がう~」

「この辺りは虎3号の縄張りなのかー」


 魔獣ですらない虎でもおよそ十キロ四方の縄張りを持つ場合がある。

 魔獣の虎はそれより広く、聖獣虎の縄張りは、魔獣虎よりもさらに広い。


「そっかー。えっとね、僕たちはコボルトさん達の住むことになった――」


 ミナトは虎3号にも、いちから事情を説明したのだった。


「がう~」

 ミナトの説明を聞いた虎3号は、目を輝かせていた。


「お、虎3号。人族の農業に興味があるのか?」

 レックスに尋ねられ、虎3号は首をかしげる。


「がう? ……が~う」

「そうだ。興味があるなら、虎3号も村に来ないか?」

「が~う?」

「もちろん、かまわないぞ。あの村はそういう村だ」


 元々、魔猪や魔鼠、魔狸達が仲良く暮らしていた村なのだ。

 異種族が加わっても問題ない。


「コボルトさん達も、コトラの姉の聖獣なら、ダメとは言わないだろう」

「がう!」


 レックスの勧めもあり、虎3号も一緒に廃村に行くことになった。

 虎3号が加わった一行は、ゆっくり村まで歩いて行く。


「虎3号も野菜を食べるの?」

「がう」

「食べないのかー。大丈夫?」


 畑から採れる物をもらっても、虎3号は食べられない。

 それなのに村に来ても得はないのではないかと、ミナトは心配になったのだ。


「がうがーう」

「そっかー」


 虎3号の広大な縄張りの中に、廃村も入っているという。

 だから、村で寝泊まりして周囲で獣を狩っても、特に問題ないらしい。


「がう~」

「そっか、人族の畑の周りには動物が集まるのかー」


 それは、いわゆる農家に害獣と呼ばれる動物たちのことだ。

 人族の畑にはおいしい作物が沢山なるので、当然、それを目当てに動物たちも集まる。


「がうがう~」

「そだね、コボルトさん達の村にいたら、コトラとも連絡つけやすいものね。ルクス」

「りゃむ?」


 ミナトが呼ぶとレックスのお腹にくっついてたルクスが飛んできて、ミナトの頭の上に乗る。

 ルクスが離れて、レックスはさみしそうな表情になった。


「えっとね、ルクスが氷竜王から腕輪をもらったんだけど」

「りゃ~」

「これで氷竜王と話ができるんだ」

「がう?」

「そう。だから、レックスに言えば、僕たちに伝言できるよ!」

「あー、そうだな」


 レックスは少し考える。


「問題あった?」

「いや、そうじゃなくて通話機能を持つ魔導具を村に設置できないかと思ってな」

「それがあったらすごい!」「わふ!」


 コトラも虎3号と話せるし、コリンもコボルト達と話せる。


「だが、陛下でも、作れるかどうか」


 ルクスの持つ氷竜王の腕輪は、氷竜王が持っている腕輪と対になるものだ。

 それぞれから通話はできるが、そこに別の魔導具を加えることができるかは別問題だという。


「かなり高度な魔導具になりますね。私には作れないと思います」


 灰色の賢者と呼ばれるマルセルがそういうほど、難しいらしい。


「そんなに難しいんだ」「わふ~」

「残念です」「んにゃー」


 しょんぼりするミナト達をみて、慌ててマルセルが言う。


「ですが! 氷竜王はあのおもちゃを作ったほどです。氷竜王なら作れるかもしれません」

「そっかー。そうかも!」「わふわふ!」

「まあ、マルセルの言うとおりだ。陛下にも不可能はある。だが作れないとも言えないな」

「そっか」

「あまり、期待しすぎないで待っていてくれ」

「うん!」

「できなくても、俺が伝言を伝えることはできるからな」


 作れなかった場合は、レックスが伝言役になってくれることになった。


「あっ!」


 もう少しで村に到着すると言うとき、ミナトはふと気になった。


「そういえば、害獣担当の魔猪さんは大丈夫? 虎3号が害獣を食べたらお腹が減らない?」

 ミナトは、虎3号が増えることで、害獣担当の魔猪の餌が足りなくなることを心配したのだ。


「ぶぼぼ~」

 魔猪は雑食だから、大きな獣はあまり食べないという。


 いつもは、鼻で地面をほじくり返して虫を食べたり、秋にどんぐりを食べたりする。

 水辺の魚やカニなども食べるし、トカゲとか蛇も食べる。

 畑や耕作放棄地になる芋などは、大好物だ。


 だが、鹿とか猿、イタチやネズミはあまり食べない。

 魔猪はその大きな体を利用して、害獣を食べずに追い払っていたのだという。


「魔猪さんは、芋が大好きだから、畑にやってきたんだねー」

「ぶぼぼ~」

「魔梟さんは? 大丈夫?」

「ほほう!」


 魔梟が担当しているのは、魔鼠ではないネズミやイタチなどの小動物だ。

 鹿や猿などの大きな害獣は、追い払うだけで食べたりはしない。


「じゃあ、虎3号は大きな害獣を担当するのかな?」

「が~お」


 虎3号は鹿とか猿なら任せろと力強く言う。

 そんな姉を、コトラは尊敬の目で見つめていた。

 レックスはゆっくり歩く虎3号の頭を撫でながら言う。


「これからコボルトさん達が畑を整えるだろう? 数年後には豊かになるはずだ」

「そうなるといいです」


 レックスは、コリンを見て微笑んだ。


「ああ。きっとそうなる。なんといっても、農家にとって最大の敵が味方だからな」


 農家が恐れる害獣といえば、猪やネズミ、狸である。

 その魔獣である魔猪、魔鼠、魔狸などは本当に恐ろしい。


 近くに出没すれば大金を払って冒険者ギルドに駆除依頼を出すしかない。

 それができなければ、村を捨てるしかないほどだ。


「成功は約束されているといっていいが、そうなると、別の問題も起きる」

「別の問題ってなに?」「わふ~」

「豊かになれば、野盗に狙われるかもしれないだろ?」


 鉱山のおかげで、ノースエンドは急に豊かになり人口が増えた。

 鉱山で働くと稼げると聞いて、他の街からどんどん人が集まってきた。


「……集まってきたのは真面目に鉱山で働く奴ばかりじゃないからな」


 元犯罪者だったり素行が悪かったりして元の街で仕事がなかった者もいる。

 その中には、鉱山に来ても問題を起こして、首になる奴も当然いるだろう。


 そんな奴らにとって、街から離れた小さくて豊かな村はいい獲物に見えるはずだ。


「俺も、コボルトさん達に許可をもらって、村に拠点を作ろうと思ってはいるんだが……」


 氷竜王の執事長であるレックスは、他にも仕事があるので、いつも居るわけではない。


「そういうときに、虎3号がいてくれたら、心強いだろう?」

「そだね!」

「がうがう」

「あ、そうだ。虎3号は、一応俺と従魔登録しておきたいんだが、いいか?」

「が~う」

「そうか、ありがとう」


 何か問題が起きたとき、レックスの従魔だと色々便利なのだ。


「あ、虎3号! あれが村だよ!」

「がうがう~」

「柵が壊れているところから入るんだよ」


 ミナトがそういうと、タロが柵の壊れたところから中に入り、顔だけこちらに向ける。


「わふ~」

 タロは尻尾を振りながら「こうするの!」と言っていた。


「がぅ~」

 タロの真似をして、虎3号も柵の内側へ入っていく。


 そして、ミナト達は、廃村に戻ったのだった。

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