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周囲の反応が違ったわ

 薬を手に入れた翌日から私は裸眼で登校する事にした。

眼鏡を外して生活するのは実に7年ぶりである。

一気に視界が広がって解放感に満たされる。

眼鏡生活が長かった為、顔が無防備になる様な感覚もあるけど。



「お嬢様、髪型もこの機会に替えてしまいましょう」


「え?」



 アルマの提案に私は虚を衝かれた気分になった。

眼鏡が要らなくなった事が嬉しくてそれ以外の事は考えていなかった。

今までの髪形は地味にこぢんまりとしたお団子ヘアである。

どんなにお洒落に髪を整えても瓶底ぐるぐる眼鏡に合わないし前髪が降りていると視界の邪魔になるからだった。



「そうですね。今までお嬢様の美しさに気が付かなかった人達の鼻を明かしてやりましょう」


「そういう気合は別にいらないのだけど……」


「何を言っているんですか。せっかくあの眼鏡と縁が切れたんですから」



 何かやたらとマルタが張り切っている気がする。

アルマの方を見ると視線を明後日の方に逸らした。



「アルマ。マルタに何を言ったの?」


「……あの時、あの男が言ったセリフを一字一句そのままです。

お嬢様の容姿を貶された事が腹に据えかねたのよね?」


「当たり前よ。これぞランベルト伯爵家のご令嬢という風に見て貰わないと!」


「パーティに行く訳ではないから控えめにお願いするわ」



 結局、普通に前髪を緩やかに降ろした無難なロングヘアーにしてもらった。

それでもただの朝の準備に時間がかかりすぎた。

馬車が学園に到着したのもギリギリである。

御者もしてくれているデニスに謝って校門をくぐった。


 遅刻などとても令嬢に似つかわしくない。内心慌てて小走りで教室に入る。

親しくしている令嬢達が居たので声をかける。



「おはようございます」


「おはようございます……って、もしかしてエリゼ様!?」


「はい」


「……」


「あ、あの、何か?」


「いえ、その、ごめんなさい。驚いてしまって……」



 今までの私を見慣れた者には意外な顔を少しはされるだろうと思っていた。

しかし、絶句されるとは。

アルマとマルタに髪型を変えて貰ったのが似合わなかったのかもしれない。

今までの結っていた髪を下ろして控えめに化粧を整えてもらっただけなのだが。



「その……変でしょうか……」


「いいえ!とんでもない!」


「眼鏡はどうされたの!?」


「見違えましたわ!」


「そ、そうですか。ありがとうございます」



 よほど前の姿が地味だったのかとも思わなくもないけど誉め言葉と受け取る事にした。

今の会話が周りにも聞こえたらしい。

振り返って私を見た男子生徒達が皆目を丸くしている。

注目を浴びたい訳ではないので恥ずかしい。



(いきなり裸眼にヘアスタイル変更は急だったかも……)



 せめて普通の伊達眼鏡でもして来ればよかった。

結局、授業中も妙に視線を感じて気疲れしてしまう。

当然その視線にはケヴィンの物も含まれていた。


 何かを云おうと私に近寄ろうとする彼を、事情を知っている友人の令嬢達がガードしてくれた。

学園内でアルマやマルタもいないこういう時、頼りになるのは友人達だ。

もうケヴィンの顔は見たくない。

私は友人達に感謝しつつ一日を過ごした。


 婚約解消の手続きはそれほど難しくない。

貴族と平民の場合、貴族側から一方的に平民側へ書類通達するだけで良い。

だが、後日揉め事にならない様に貴族院の法務局にも書面を送っておく必要がある。

今回の場合はお父様のサイン入りの書類が貴族院に受理されれば確実に婚約は解消だ。

お父様は私の手紙を見てすぐに手続きに入ってくれる筈である。

それまでの我慢だ。


 放課後になると私はすぐ生徒会室に向かった。

昨日やり残した書類を持って行かなければならない。


 役員は会議などが無くても何かと生徒会室に屯している場合が多い。

ある意味学園の運営の一端を担っているので余計な課外活動などしている者はいない。

皆、将来は殿下に近い所で働く事が有力視されている方達ばかりだ。

要するに殿下の居る生徒会役員になるという事は王室にお近づきになるという意味でもある。


 私は第二書記という立場なので仕事的にそれほど拘束されてはいない。

殿下にまた何か絡まれそうなので書類を置いたら今日はすぐ失礼するつもりだ。

そう思って生徒会室に足を踏み入れた。

役員の方々の反応はやはり教室の時のそれと同じだった。



「……!」



 絶句しているのは辺境伯令息のローラント様。



「ランベルト嬢ですか?」



 確認する様に声を絞り出したのはエリアス様。



「す、凄いイメージが違いますわね……」



 そう言ったのはマイスナー公爵令嬢だ。

ちなみに殿下に至っては気のせいか固まっている様に見えた。

いきなり我に返ったような表情の後どことなくそわそわしている。

冴えない地味な娘には似合わないとでも内心思っているのだろうか。

しかし、意外な言葉が返って来た。



「……驚いたよ。うん、美しい」


「あ、ありがとうございます。その、どうも印象が変わりすぎたみたいですが中身は私ですので」


 何か殿下の反応が地の様に感じてしまい思わず赤面する。 

四者四様?の反応を見せた皆様に当たり前の事を言って議事録を所定の位置に収めた。

用はこれだけなので会釈して失礼する。

その後、今日一日問題なく過ごせた事をラング先生へ報告してから帰宅した。







 夕食が終わってアルマとマルタと3人でお茶を飲むのは私達の習慣だ。

私にとってこの二人は主人と侍女でもあるが大事な幼馴染で友人でもある。

その席で二人に今日の学園の事を報告した。



「二人の言う通り外見を変えてみたけど、随分周囲の反応が違ったわ」


「そうでしょう! お嬢様は美しいんですから」


「変わり過ぎに驚いただけよ」


「やっとお嬢様本来の御姿に戻れて良かったです」


「学園生活はまだ長いのですから嫌な事などお忘れになって楽しくお過ごし下さい」



 二人に印象を変えて貰ったおかげで今日は婚約破棄について聞かれる事はなかった。

寧ろ友人達の話題は外見の変わった事についてがほとんどだった様に思える。


 考えてみれば今までこの「瞳」に引け目を感じてしまって万事目立たない事にしていた。

その結果必要以上に外見も地味な方向に進んでしまっていた。

アルマもマルタもよく気にしていたが私本人がそういう希望をしていたのだった。

ケヴィンという婚約相手もいた事で変に安心感が出てしまっていたのかもしれない。


 彼がしていた裏切りは許せない。

でも、それを別の切っ掛けにしよう。

貴族令嬢として外見にもう少し気を遣う様にしていきたい。

少しだけそういう考えになった。

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