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変で不変

 先輩の事を説明するのは簡単でありがたい。

 いや、人一人を説明するのに、簡単なんてことはきっと有り得ないんだろうけど。どんな人にも今まで歩んできた歴史があって、家族だの友達だのといった周辺情報や、本人の性格、主義主張、きっと全部を事細かに紹介しようと思ったら、いくらでも時間を浪費できるだろう。

 特徴が無い事が特徴とすら言われる僕でも、妹は三歳離れた中学一年生だとか。嫌いな食べ物は糸を引く食べ物全般だとか。趣味は読書だけど、ジャンルは選ばない方だとか。聞いている側が興味をそそられるかを考えなければ。という前置きは必要かもしれないけれど、本当に色々な情報が挙げられるだろう。

 そんな誰の得にもならない話は置いておくとして。先輩の事を誰かに説明する時、どんな人かを伝えるならこれが最善だという事は、既に僕の中で決定事項である。


 端的に、一言で。『変な人』である。


 まあ、なんだかさも衝撃的な事を言ったかのように強調してみたけれど、たいした話では無い。悪い意味でも、多分ない。かと言って良い意味でも無い所が、この話のポイントではあるんだけど。

 変な人、と言った時、どんな想像をするだろうか。変わった人、常識的でない人、おかしな人。どんな風に言ったところであまり良い印象にはならなそうだが。詰まるところ、僕とは違って、有象無象になり得ないという事である。少なくとも、僕は今まで先輩みたいな人には出会ったことが無いし、今後も出会うことは無いと思う。というかこんな人が二人もいてたまるか。いても良いが僕とは関わらない所で人生を謳歌して欲しい。でないと僕のささやかな許容量を超えてしまう―――


「なぁ。失礼な事を考えているのが透けて見える瞳で、私のことを見つめるのはやめてくれないかい?」


 肩にかかるくらいの(あで)やかな黒髪。凛々しくもきつ過ぎない鋭さの目。不満だという気持ちを、口元と視線でこれでもかと表現しながら、それでも損なわれない整った顔立ち。


「これで中身も分かりやすく整ってくれてたらなぁ…」

「思ってる事を口に出せという意味で言ったんじゃないし、その台詞は明らかに失礼だろう君」


 (おのの)いた反応をされた。おかしいな、僕は素直に感想を言っただけなのに。心外というものだ。


「いえ、先輩が如何に常識的でないかを考えていました。」

「もうほぼただの悪口じゃないか?それ…。」

「いやいや、逆に先輩の何処が常識的か聞きたいくらいですよ。」

「ふうん。常識、ね。」


 「あっ、これはまずい。」と僕は心の内で悲鳴を上げた。

 先輩とはこの高校に入学してからの付き合いで、高々半年程度の付き合いである。それでもこの時、先輩の中で何かのスイッチが入ったのは分かった。それは先輩の口端があからさまにつり上がったのもそうだし、面白いと言わんばかりに半音上がった声音にも、(かも)し出す雰囲気からも、それは見て取れる。

 余計な事を言ってしまったのだと、僕は直感した。なので


「では僕はそろそろ帰りま「待ちたまえよ」


 食い気味だった。むしろ僕は喰われるかと思った、それほどの勢い。きっと文章にして文字に起こした時、今のやり取りでは僕は括弧(かっこ)を閉じる事すら許されなかっただろうくらいだ。


「常識。普通。ふうん。」


 「面白い。」と唇を震わす先輩に対して、僕は面白くないし帰らせてくれと、そう願ったのだけど。そんな思いが通じる相手でもなく。訴えて聞き届けるような人なら、僕は半年で歳上の彼女にこんなに雑な態度を取るようにはならなかっただろうから。


「なんですか?」と、そう言った。言ってしまった。


「あえて聞こう、常識とはなんだい?それは絶対的な尺度なのかな。そうだとすると、それは誰が定義するんだい?」


 「また変な話が始まった」と、僕は静かにため息をついた。

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低いも高いもお気軽に。勉強させて下さいm(*_ _)m

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