普通に不通
唐突であり、勝手でもあるけども。
僕らの日常を垣間見てもらうにあたって、一つ伝えておかなければならないことがある。
これから貴方達が観るのは普通のお話。
跳ね上がるほどの楽しさも無ければ、腹を抱える程の可笑しさも無い。さらに言えば、涙を流すような哀しみも。胸を焦がす愛しさも。
そんなにハラハラするような人生を送ってはいないし、固唾を飲んで見守られるような、逼迫した展開はきっと僕には訪れない。
なんで僕にそれがわかるかって?
まあ、それなりに人生は過ごしてきた。いや、実を言うとこんな確信に満ちた言い方をするほど僕は高齢でもないし、酸いも甘いも噛み分けた、豊富な人生経験がある訳でもないけども。それでもまあだいたいは分かるってもんさ。そうだろう?
物心が着いて、人は特別に憧れる。きっと自分には何かあると、他の人には無い何かが、自分だけにあるはずだって。でもすぐに皆気が付く。
『ああ、自分は何物でもない』
『特別な人は確かに居る。でもそれは自分ではない。』
普通に育って、普通に学校を卒業し、普通に社会に出て、普通に仕事をし、普通に家庭を築き、普通に生活して、普通に死んでいくんだろう。
そんな事はみんな気が付いてる。それでも特別に憧れながら、自分だけの何かを探しながら、普通に生きてる。
黒髪黒目。中肉中背。何処にでもいる学生。
容姿、普通。学力、普通。運動、普通…よりは下かもしれない。けど、わざわざ特筆するほど駄目でも無いとも思っている。
そんな僕に何が出来るだろう。何が起こるだろう。きっとそんな "何か" は寄ってこない。向こうも嫌だろうし、僕も歓迎はしていない。なんて、そんなことを言うと鼻で笑われるかもしれない。「こっちから願い下げだ」って。
さておき、そんな僕である。きっと観てても退屈だろう、それは想像に難くない。この調子でやってて大丈夫かな?むしろ変な自虐野郎だとか思われてない?
まあもしそう思われたのなら、それはそれで僕の貴重な個性と呼べる何かなのかもしれない。…嬉しくないなぁ。
「いや、君のその鬱屈とした精神性や考え方は、そこそこに特殊だと私は思うけどね。充分、観察していて興味が湧くよ。」
ただ、そんな僕にも人に話す何かがあるのだとするなら。
「あの、ひとが少し考え込んでいるだけでその言い様は酷くありませんか?先輩。」
「君のその特徴の無い顔で、あからさまに『僕は有象無象です』みたいな表情を見せられれば、そりゃあ弄りたくもなるってもんだろう?」
「言葉の棘がいつにも増して尖ってますね。僕の心を滅多刺しにしてるの自覚してます?」
この先輩と過ごす、少しだけ愉快な日々くらいだろう。
とても、大いに、すごく、不本意ではあるけれど。
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