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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

操り人形

作者: てと

サラッとお読みください。誤字脱字報告ありがとうございます!



「フィーナ!!フィーナ!!返事くらいしなさい!!まったく、婚約者も決まってないのに良いご身分ね。行き遅れになったらお父様の顔に泥を塗る事になるのよ!!男爵家以上じゃないと貴女の為にならないのよ!!ったく、変な子と遊んだりしてな 「お母様、クッキー食べる?」 ……ったく、ちゃんとしなさいよね。貴女の顔じゃ良い身分の男性なんて捕まえられないんだから」


私は目の前のクッキーをポリポリと齧り、侍女が淹れた紅茶を飲む。


「ちゃんと聞いてるの?返事くらいしたらどう?全部貴女の為を思っている事な 「お母様、テイラー様とお茶会の約束をしているの」 ……侯爵令嬢のテイラー様ね。……行って良いわよ」


私はゆったりと椅子から立ち上がり、お母様を視界に入れずに部屋を出て唯一の友達のテイラーに会いにいく。


屋敷にいると息が詰まる。まるで一日中お母様に監視されている様で。家の為?私の為?違う、あの人は自分の為に私を利用しているだけだ。私は操り人形。親の欲を満たすだけの道具だ。




ーーーーーーーーーー




「フィーナ、大丈夫?顔色が悪いけど……もしかして家で何かあった?」


テイラーは私を本当に心配してくれているのが分かる。綺麗で、優しくて、明るい、お姫様。テイラーのご両親もとても優しくしてくださる。でも、私の居場所は此処じゃない。……私の本当の居場所は何処にあるの?


「大丈夫よ、テイラー。私の家はいつも通り普通よ?」


「……本当に?」


「本当よ?いつも通りのつまらない日常よ」


「フィーナ、退屈なら今度開かれる公爵家のパーティーに参加しない?」


「……え?でも、私の身分じゃ……招待だってされてないのに……」


「大丈夫よ!!お兄様に言って、フィーナも同伴出来る様に頼み込むから!!」


私の手を握り笑うテイラーは私には眩しい。でも、少しだけ息が軽くなるの。私は人形じゃないって、生きている人間だって思い出させてくれる。




ーーーーーーーーーー




テイラーと話し込んで帰るのが遅くなってしまった。するとロビーでお母様が怒りの表情で立っていた。


「今何時だと思ってるの!?まさかテイラー様とお茶会は嘘で、どうせ悪い遊びでもしてたのでしょう!!」


「ただ、テイラー様との話が長くなってしまっただけよ」


「全く!!何を考えているか分からない子ね!!テイラー様とは何を話したの?婚約者になりそうな男性は紹介してもらえた?」


「……お母様には関係無いでしょ」


パンッ!!


「ふざけないで!!私がどれだけ苦労して貴女の婚約者を探していると思ってるの!?」


「別に頼んで無い。……私を産んでくれと頼んだ覚えもない」


お母様に殴られた頬が痛い。じんわりと口の中に血の味が広がる。私はぼんやりとお母様を見つめて私室に閉じこもる。


息が出来ない。


鎖に巻きつかれたように体が動かない。


もがけばもがくほど深みに落ちていく。


身を守る様に強く私自身を抱きしめる。もう何も聞きたくない。私はお母様の操り人形になんてなりたくない。



ーーーーーーーーーー




「フィーナ!!どういう事!?公爵家の夜会に参加するなんて聞いてないわよ。貴女なんか相手にされないに決まっているでしょう!!恥をかくのは私達親なのよ!!」


「ちゃんと大人しくしてるわ。恥をかく様な事もしない」


「何を馬鹿な事を言ってるの?貴女は今大事な時期なのよ!?自分に見合った令息と婚約するのに集中しなさいっていってるの!!」


「お願いします、お母様」


「駄目よ」


「……そうですか」


お母様はまだ喋り続けているが無視して私室に戻る。私の居場所は何処?……私だけの居場所が欲しい。




ーーーーーーーーーー




「フィーナ、迎えに来たわよ!!」


「……テイラー?どうして?手紙で断った筈なのに」


「これはこれはテイラー様!!愚娘が何かしましたか?」


「フェルツァレ夫人、今日はフィーナをお借りしますね」


「……テイラー様、あまり娘に悪い遊びをさせないで下さい」


「お母様!!」


テイラーは見下すようにお母様を睨みつける。そして行き場の無い私の手を引いて無言で馬車に乗った。私は馬車の中でテイラーに謝る。


「フィーナが謝る事じゃ無いわ。顔を上げて」


俯く私の顔を持ち上げてテイラーは笑う。どうして人間は自分を産む親を選べないのだろうか。私はあのお母様に一度も私を産んでくれた感謝の気持ちを感じた事はない。お母様は私が何をしようと気に食わないのだから。


テイラーの屋敷で青いドレスを着させてもらい、恐縮しながら身分違いの公爵家の夜会へと出席する。だからといって誰かに取り入ったりするつもりは無い。ただお母様の言う通りに恥をかかないように、誰にも迷惑をかけないように壁の花となる。


私は結局のところお母様の言葉に縛られているのだ。


煌びやかな世界、私とは程遠い世界。結局、私の身の丈にあった男性をお母様が見つけて来て、言いなりのまま生きていくのだろう。


(……本当にそれで良いの?)


私は目を閉じて深呼吸をする。今日位は私の思った通りに生きてみても良いのでは無いか?


戸惑は捨てて、お母様が止めようと、その先に行ってみようか。もしも邪魔なものがあるなら壊してしまえば良い。お母様の長ったらしいお説教の言葉には価値が無いのだから。笑ってしまうくらいうんざりなの。


自分が感じて見るものだけを信じてみよう。


一歩踏み出すと、人混みを中から灰色の髪をした狼を思わせる彫刻の様に美しい顔をしたディーン・マグナガル公爵様が私に一直線に向かってくる。私は微笑んでカテーシーをとる。


「君の名は?」


「フィーナ・フェルツァレでございます」


「ああ、テイラー嬢の友人か」


「はい、私の唯一の信用できる友人です。公爵様は何故私の元へ?」


「壁の花に徹していた君が、突然違った人物になったような顔をしたので気になってね」


「違った人物……そうかも知れません。でもこちらの方が本当の私と言ったら、公爵様は笑いますか?」


「フィーナ嬢は面白いな。一曲どうでしょうか、レディ?」


「ふふっ、喜んで」


公爵様に手を引かれながらホールの中央へと移動する。曲が始まり私は笑う。


私の欲望はとても美味しくておかしくなりそう。まだ足りない、もう一口、もう一口。止まらない、ただ喰べたいだけなの。なんて美味しいの。此処が私の居場所かの様な錯覚を覚える。ひと時の夢でも構わなかった。私は初めて心の底から笑った。




ーーーーーーーーーー




「フィーナ!!貴女、公爵様に何をしたの!?」


「別に何もしておりません。ダンスを一曲踊って下さった以外は」


「公爵様から花が届いたのよ!!どうせ遊ばれて捨てられるだけよ!!どうして私の言う事を聞かないの。私がこんなに貴女を心配して言っているのに!!」


私はお母様になんと言ったら良い?大丈夫、フィーナ、戸惑わないで言ってごらんなさい。汚い本音も何もかも。


「……煩い。どうせ何を言ってもお母様は信じないでしょう。お母様は私を理解しようとしない。……自分の目線で自分の価値観を私に押し付けてるだけよ。そして娘を心配する母親に酔ってるだけだわ」


「ッフィーナ!!」


私は足早に自室へ戻り、ドアを背中に預けて座り込む。殺風景な部屋をぼんやりと眺める。まるで私の今の心の中みたいだ。あの夜はあんなにも楽しかったというのに……夢はいつか覚める。ただ、それだけなのだ。


だが、それから毎日の様に公爵様から花束が届く。夜会への招待状も送られてくるが、お母様が破り捨ててしまう。どうしてそこまでするのか私には理解出来なかった。お父様はお母様の行動を止めようとするが、お母様の剣幕にどうしたら良いか悩んでいるみたいだった。


毎日のようにお母様の言葉を聞き、一日が終わると干からびた気分になる。……またあの夢が見たい……もう手遅れ。


此処から逃げ出す道は何処にあるのと問うても誰も答えてくれない。お母様の行動はエスカレートしていき、私を部屋に閉じ込めた。


「フィーナ、貴女の為なのよ。悪い人達から、お母様が守ってあげるわ」


「出して!!此処から出して!!」


もう一か月も部屋から出してもらえてない。私はまた操り人形に戻ったのだ。ぼんやりと空を眺めていっそのこと、窓から飛び降りてみようかと考える。


私は窓を開けて上を向いて微笑む。これは操り人形の私の選択じゃない。私自身が出来る唯一の選択だ。ようやくゆっくりと眠れる気がする。でも、心残りがあるとすれば貴方にまた会いたかった。


「私も飛べるかなぁ?」


手摺りに足をかけて、空を飛ぶかの様に身を投げ出した。



私は今……自由だ。




「フィーナ嬢!!」


この声は……瞑っていた目を見開き下を見ると公爵様が驚きの表情で私に手を伸ばしている。私は無意識に公爵様に手を伸ばしていた。そのまま公爵様が私を抱きとめ、二人とも地面に転がる。


「フィーナ!?何をしているの!!どうして飛び降りたの!?」


お母様の悲鳴に似た叫び声が聞こえる。公爵様は私を抱きとめたまま上半身を起こす。


「フィーナ嬢は起き上がれない程の病気だったのでは?」


「そ、それは……」


「公爵様!!どうか娘を助けて下さい!!私では妻を止められない!!ここまで娘が思い詰めていたなんて……親失格です……」


「親失格!?何を言ってるの貴方!?私はフィーナが傷つかないように守っていたのよ!?フィーナにはフィーナの身の丈にあった人間じゃないと!!」


「フェルツァ夫人、貴女が夜会で自分の娘の評判を下げる発言をいつもしてらっしゃる。フィーナ嬢は貴女の玩具じゃない」


「そう言って、公爵様はフィーナを弄ぶ気なのでしょう!?フィーナは私の言う通りにしていれば良いのよ!!」


「……フィーナ嬢、私と来るかい?」


甘い誘惑が私を誘う。私は操り人形、この手を取ってはいけないのに、私の手は公爵様の手を取っていた。


大丈夫、恐れないで。自分の選択を信じて。



「ああ、やっと手に入れた。私の愛しい人」



密かに嗤ったのは私?それとも……。












有難う御座いました。

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