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『災難はその身に降りかかり受難はまだまだ続く。しかしながらそれは永遠に続く事はない。天災であろうが、人災であろうが、試練ならば理不尽だとしても、心折れずに立ち向かえば、必ず人生の糧となる。その経験は本人を裏切らないのだ。』
『汝、試練を乗り越えて見せるがいい。』
◆◆◆
頭の中で神の言葉が響き、俺は転生すべく水鏡に身体を委ねた。水鏡空間(?)を彷徨い始めてから随分と時間が経ったと思いに耽る。
あれは少し前なのか?意識が覚めた俺の目の前に随分と偉そうな態度が鼻につく自称「神」が現れ、ドン底の失意のまま死んだことを告げられた。
三千世界がどうとか、並行世界を繋げたなんたらとか、何か理解出来ないことを長々と説明していたが、死んだ事のショックも重なり、今の俺には理解出来なかった。
簡潔に言えば俺の存在自体がイレギュラーであったらしい。そのせいで何をやっても良い方向に転がることがなかったこと。それが不憫だから転生させてやっても良いとのことだった。
それならそうと最初からそー言ってくれた方が分かりやすいのに。
白く長い髭を触りながら、つるっ禿げの自称「神」は淡々と話を続けている。信心深い訳ではないが、俺は仏教徒である。神といえば弥生時代風の髪型と服装をした和風のイメージか、マンガやゲームで知ったギリシャ神話の神々をイメージしてしまう。
しかし、目の前の自称「神」は良くも悪くもそんなイメージとかけ離れている。ビジネスホテルにあるような薄手の白いバスローブ?を着た爺さんにしか見えない。辛うじて『仙人?』って名乗っていた方がしっくりくる容姿だ。神々しさのオーラの鱗片もなく、黄昏た頭と額の境界線はどこなんだろう?なんて考えてしまう。
「……儂は仙人などでは決してない」
うん?顳顬辺りに青筋が立っているなあ。失礼なこと考えているのお見通しだったりして。
まさか、ね。
そんなたわいもないことをぼんやり考えながら自称「神」の話を聞く。
・10代の健康体で転生する
・転生先の言語を全て理解できる
・転生先は剣と魔法のファンタジー世界
・称号やスキルが存在する世界
・レベル2になれば鑑定スキルを習得する
・向き不向きはあるが、成長に制約がない
・転生直後、暫くボーナス(?)がある
・ガチャがある
要約すると何かのゲームに酷似した世界で転生させてくれるようで、無双出来そうな気がする。
『死してなお、お主には不運としか言いようがない魂の業が付きまとうであろう。先の人生の方がマシだと思えてしまう程にな。それでも転生するかどうかはお主自身で決めよ』
「考えるまでもないです。転生するに決まってます! 是非お願いします」
ラノベだったらおそらく、この話を蹴れば俺の魂の行き場は無く、元の世界に戻り死が待っているだろう。それならば健康体で若返り、第二の人生をゲームのような世界で生きていくのも良いと思う。困ったモブ共を助け、あわよくば、勇者のような冒険をして魔王を滅し、お姫様とハッピーエンドって展開もあるかも知れない。
仙人?の横にいた爺さんが呟く。
『……話を聞こうとしないのぉ。頭の中は妄想と欲にまみれてこれ以上話をしても無駄じゃな。まぁ、現実逃避したくなる状況ではあるか。仕方ない奴じゃ。』
『お主は不運であるが、その本質は世間の役に立とうとする献身の魂にある。己を律し、他人のために生きよ。さすれば運気もいずれ好転するであろう……な。儂の与えた試練を乗り越えたら』
『運命は自ら選び取らねばならぬ。この先にある水鏡に映し出された場所がお主の転生先じゃ。しかし、未来とは不確かであり、水面の如く絶え間なくうつろう。』
『心して旅立つといい。』