若君様の花嫁探し(3)
「過去の状況を再現……とな?」
陽奈の言葉を繰り返す。なんのこっちゃ。
「……これだから無能は」
剣くんが言う。舌打ちが聞こえて来そう。
「馬鹿はお前だ。美月さんは、おそらく高位の能力者だ」
猪瀬くんの台詞に、剣くんがポカンとする。
「は……はあ!?」
「本当だよ。ずっとおかしいと思ってたもん。若君様のお側にいるときみたいに、ピリピリとした力を感じるのに……美月ちゃんはなんの力も使えない。変だよ」
「……」
3人の視線が私に注がれる。
なんの能力も使えないことに間違いはないので、申し訳なく思ってしまう。
「……本当になんにも力は使えません」
何かを思い出したところで、異能力についてピンとこない私が今更使えるようになれるとも思わない。
「いや……待てよ?」
剣くんが言った。
「……だから、あの日居たんだな?」
「……え?」
「若君様の控室に、お前が居た」
それが誕生会の日を指してることを理解して、私たちは剣くんを見つめた。
「若君様に寄り添うように立っていた。俺は、手を繋いだお前たちがいるのを見た。その後で、双子の無能の方の片割れだと分かったので、口出ししてしまった。俺たちを差し置いて隣に立つのかと。高位の能力者なら納得が行く」
私たちは顔を見合わせあった。知らなかった情報が出て来た。
私が……若君様と手を繋いで寄り添い立っていた?
「よし。ならば早速、共鳴で擦り合わせよう」
猪瀬くんが剣くんの肩を抱く。
「な!?どうせ出来ねーだろ、こいつには」
「やってみようよ!出来たら、ね、いいでしょう?」
陽奈の懇願に、剣くんがたじろいでいる。
陽奈が私を振り返って言う。
「美月ちゃん、サイキの力を感じ取るやり方わかる?慧十郎様の力を感じ取れたことある?」
若君様の体から感じ取った、何か大きな力なら、私にも分かる。
「うん」
「良かった!なら、私たちは力の中に記憶を載せていくから、力そのものを感じ取って。そして出来たら、美月ちゃんも同じようにやってみて。美月ちゃんとも共鳴できるかも知れないから」
「うん……」
とても難しいことを言われている気がする。力に記憶を載せるだとー!
……とりあえず言われたとおりにやってみよう。最初はイメージだ。
みんなで円になって座る。
陽奈が私の片手を握り、もう片方の手で猪瀬くんの手を握る。猪瀬くんは陽奈と剣くんの手を握り、剣くんは渋々というように、空いた手で私の手を握った。
「俺から行こう」
猪瀬くんが言った。
「うん」
「ありがとう……猪瀬くん。こんなに、親身になってくれて」
気持ちが溢れてお礼を言うと、猪瀬くんは一瞬きょとんとし、そして苦笑した。
「いいんだ。これは俺のためでもある。俺の……俺たちのためにも、協力したい」
「私もだよ」
陽奈が言う。
「私……どうしても、思い出したいの。覚えてないこと、ちゃんと思い出してから、自分に何が出来るのか考えたい……」
じっと見つめてくる剣くん、そして猪瀬くんと陽奈の目を見てから言う。
「手助けしてくれてありがとう。すごく、感謝してます」
剣くんが複雑そうな表情をする。
「なんか、事情があるんだろ。分かったから、やろう」
「行くぞ」
「はい」
猪瀬くんが目を瞑る。私も真似するように目を瞑り、手の平から伝わるものがないか、感じ取ろうとした。
何も感じない。
少し、不安になる。だけど、どうしても思い出したい。出来ないことが出来るようになりたい。
今のままでは、このままの私では、嫌だ。
私は変わりたい。
辛い記憶や、嫌な自分から目を逸らし続けてきた、そんな生き方はもう心から嫌なのだ。
――あ。
瞼の裏に、無数の光が溢れていた。
飛び交う光の渦。万華鏡のように綺麗だ。
赤も青もある。あれは、妖鬼が出していた色と同じ色。きっと、サイキの色だ。七色の光の渦かと思ったけれど、違った。もっと複雑な色が混じり合う。
手の平から、青色の強いサイキが流れ込んできた。ああ、これは猪瀬くんだ、と咄嗟に思う。そして頭の中に、急に映像が流れ込んできた。
ここは犀河原本家の、広い庭だ。
整えられた樹木の下に、眼鏡を掛けた男の子が座って本を読んでいる。……猪瀬くんだ。きっと10歳の、あの日の。
そんな彼の様子を片目に入れた陽奈がぼんやりとお屋敷を見上げている。頭には可愛いリボンが巻かれている。
「美月ちゃん、元気にしてるかな?」
「あの子は強いから大丈夫よ」
陽奈の手を引いたおばあちゃんが答えた。
そんな台詞を耳にしながら、剣くんが歩いていた。剣くんは興味深げにお屋敷を見回しながら呟いた。「俺も若君様のお役に立つぞ」「にいちゃんはうるせーよ。お前にはまだ早いなんて」
剣くんはやっと見つけた、とばかりに、大きな部屋の前で立ち止まった。
「若君様……!俺……!!」
大きな声を上げて部屋に押し入った剣くんを、二人の子供の瞳が見つめる。聡明な漆黒の瞳を輝かせる美しい少年と、そして、少年と対になるように同じ色で衣装を整えた、年近い少女。
茶色の瞳が見開いて剣くんを見つめる。
――あれは……あれは、私だ。
閉じていた記憶の蓋が開く。




