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たたた  作者: 赤亀たと
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後編

たたたはどうやって釣り上げようかと思いながら再び地球を覗き込みました。その時、とても綺麗な心を持つ人間が歩いてきて、たたたはその心がどうしても欲しくなってたまりませんでした。同時に、こう思ったのです。

「そうだ。あんなに綺麗な心なら、きっと綺麗な餌には食いつくに違いない」

たたたは急いで美しいヒスイを取り出して釣り糸に巻き付けました。投げられたヒスイはその人間の前に落ちました。たたたは今に食いつく、今に食いつく、とどきどきしていました。人間は目の前に落ちたヒスイを見つけると、確かにその手で取ったのです。しめた。たたたは心の中でそう声を上げました。けれどもある事に気がついたのです。その人間の心は餌にしたヒスイと同じくらい美しかったのに、ヒスイを手にした途端心がくすんできたのです。たたたがおかしいと思う頃には、もうその人間の心は美しくはありませんでした。

「ああ、だめだ。あれではだめだ。私が欲しいのは美しい心なのに」

たたたはそう嘆くと、釣り糸をぷつりと切ってしまいました。その人間はヒスイを自分の懐にしまうと、そそくさとどこかへ行ってしまいました。


「どうして餌にかかった途端にあの人の心はくすんでしまったのだろう。さっきまではあんなに綺麗だったのに」

たたたは肩を落としてそう呟くと、再び地球を覗きました。するとまた美しい心の人間がやって来たので、次はダイヤモンドを落としてみましたが、結果は同じでした。この時餌にしていたダイヤモンドは、たたたのお気に入りでした。なので、くれてやるのが惜しくて、たたたはその人間からうまくダイヤモンドを取り戻したのです。するとどうでしょう。くすんでいた人間のその心が、再び美しくなったのです。たたたは慌ててもう一度ダイヤモンドを投げ入れましたが、その人間はそれを手にすると、再び心がくすんだのです。何度繰り返しても、それは同じ事でした。たたたはいよいよ諦めて、ダイヤモンドを鞄にしまい、美しい心になった人間を見送ったのでした。

 

けれど、その次に来た美しい心の人間は、目の前に落ちていたダイヤモンドを見て、それから手に取っても心は綺麗なままでした。たたたは心の中で大喜びし、そして念じます。

「よし。そのままさっきの人間のように、そのダイヤモンドを懐へしまうんだ。そしたらもう釣り上げられるぞ」

たたたは目をぎらぎらさせてその人間を見ていましたが、その人間は一通りダイヤモンドを眺めると再び元の場所へ置いてさっさとどこかへ行ってしまいました。


 しばらくしてからたたたは、ふと汚い心の人間に目をやりました。

「そうだ。綺麗な心の人間は釣ろうとするとくすんでしまう。それなら汚い心の人間は釣ろうとすれば綺麗な心になるのではないだろうか」

たたたはそう考え、汚い心の人間の前にダイヤモンドを置いたのです。けれど、これがたたたをより混乱させるのでした。ある者はダイヤモンドを持っても相変わらず汚い心のままでしたし、ある者はダイヤモンドなどには目もくれず、代わりに目の前の建物にはめ込まれたステンドグラスを見て心が美しくなったりしていました。たたたはあちこちを見渡して、しまいには腰を抜かしてしまいました。


たたたの目の前にいる人間のように、あちらでもこちらでも、事あるごとに人間の心はくすんだり、透き通ったりしているのです。

「なんてこった。これじゃあ釣り上げるなんて、無理だい」


たたたはそう吐き捨てると釣り糸も捨て、その場であおむけに寝転んでふてくされました。


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