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こんな俺でも  作者: Ichen
デラキソス光輝燦然の熱華  
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21. デラキソス光輝燦然の熱華  ~熱の追駆

『魔物資源活用機構』ドルドレンの父親。デラキソスの恋話。

2話目は、彼の性質丸ごとの思い出話。


※女性は読まない方が良いかもしれません。真面目な男性も読まない方が良いかもしれません。デラキソスはそうした人です。

 

 ハイザンジェルの北東の停留地に馬車の家族は進む。


 数十台の派手な色の馬車は、のんびりと旧道を進み、時々休んでを繰り返し、涼しいケイガン地区に入った。

 ここから先は、涼しいだけ。夜は少し火が必要なくらいに、気温が下がる。



 この年もまた、この地域を夏の盛りに訪れ、いつもの停留地まで後1日を残すところまで来た。いくつかの集落や村を通り過ぎる。町は既に遠く、ここは点々とした民家の集まりばかり。


 小さな村の脇に通る道を、ゆったりと移動する馬車の列。


 夕方に近い時間で風も涼しく、馬車の開け放した扉の片方を閉めるか、とデラキソスが長椅子を立った時。


 道の向こうに、村人が見えた。村人が歩くのも、ちらほらと視界に入るだけなのに、その背中。その髪の色。その・・・荷物の抱え方。



 ハッとして、目を見開いたデラキソスは、馬車の扉を握る手に力が入る。

 乗り出した身が、今にも馬車から飛び下りそうな衝動に駆られたが、後ろを進んでいた馬車の御者に『どうした』と声を掛けられて、さっと体を下げた。


「デラキソス。何かいたか」


「いや。いや、別に」


 言いながら、目で追う相手。村人の女の、その背中。小さくなって、道の先の建物の影に消える前に、馬車はゆっくりと道に沿って曲がり、見えなくなった。


 デラキソスは馬車の中に入って、小窓を開ける。そこから見える村の一画に、あの背中はない。


()()()()だ、どうしてここに」


 覗き込んだ小窓に呟いた唇が震える。あれは間違いなく、ドーディーファンだ。そう確信したデラキソスだが、ここで馬車を停めるわけに行かないことは分かっていた。


 停留地まで、後一日の距離。夜はもう少し進んでから、馬車を停めた所で過ごす。側に川があるのが条件で・・・『ちっ』舌打ちして、長椅子に寝そべる。



 何とも言えない、胸にこみ上げた郷愁と熱。デラキソスは燃え上がる男。望んだ女は、ほぼ腕に抱いた(※別れも数知れず)。その中でも、一番思い出から消えないのが、ドーディーファン。


 ドルドレンを生んでから、馬車を下りた。理由は、彼女に()()()()()()()()出来事のせいで。


 そして彼女は、俺を疎んだ。俺が他の女といるのが耐えられない(※普通の反応とは思わない)とは聞いたが。


「でも。()()()()()好きだったんだ。他の好きと訳が違う」


 馬車の女たちは、ドーディーファンを引き留めたかった。何度も俺に交渉に来た。ドーディーファンは性格も頭も良かった。自分に出来ることは何でも頑張った。



「目が。()()()()()()まで・・・お前は、何でも頑張って」


 長椅子に置かれたクッションを抱え込み、デラキソスは目を閉じて溜息をつく。


 出会った時を思い出す。もう既に、彼女の視力は日常に支障があるほど落ちていた。彼女の目に映る自分はどんな姿か、デラキソスは一日に何度も訊いた。


 美人で笑顔が温かくて、どこから見ても美しい女。ただその灰色の瞳には、多くの風景がぼやけて見えていると知った時、その女の世界を守ってやりたくなった。


「んだけど。俺の性分なんだよなぁ。浮気って言われても(※浮気です)」


 ドーディーファンは真面目で、きちんとしていた。馬車の家族になるかどうかを聞いた時、すごく考えたと言っていた。

 それでも、目の不自由な彼女を迎えようとした俺と一緒に来た。


 馬車に連れて帰った時、家族たちはドーディーファンを守ろうと決めた。視力はどんどん落ちていたが、全く見えなくなる日まで、ドーディーファンは感覚を頼りに、洗濯でも子守りでも努力した。

 馬車の女たちが彼女を支え、一生面倒を見ようと話していたが。



 思い出したくもない。デラキソス、一生忘れない出来事(※自分が悪い自覚はある)。


 ドルドレンを生んで間もない頃。ドーディーファンは失明した。

 その日は一緒にいたが、デラキソスは完全な失明の彼女に悲しくて、後日・・・『違う女に泣きついたのがマズかった(※最低)』苦い思い出を口に出す気にもなれない。


 元から。浮気者のエンディミオン(←デラキソスの親)の子・デラキソスは、浮気者を継続したと皆が言うほど、しょっちゅう女を変えた。

 だから、生まれる子供も腹違いだらけ。自分が妻と信じた女で、浮気を原因に馬車を去った女は数知れず。


 ドーディーファンも勿論、そうだった。


 失明した後、皆が一層優しくしてくれる中で、赤ん坊のドルドレンの世話も、満足に出来なくなったドーディーファンは、自分が母親になるべきではなかったと赤ん坊に謝りながら、毎日泣いて過ごした。


 その時期に、デラキソスの浮気が持ち上がる。


 自分が寝ていた馬車の扉に鍵が掛かり、中からは、知らない女の声。

 それを他の家族が見ていて、ドーディーファンを急いで引き離したが、もう遅かった。


 ドーディーファンは、心がへし折れ、大切にしてくれた馬車の家族に別れを告げる。


 馬車の女たちは、彼女の子のドルドレンも一緒に面倒を看るから、馬車を下りるな、と彼女に頼んだ。その日々が続く中で、馬車の女はデラキソスに『行いを改めろ』と何度も交渉したが、デラキソスは逃げたい気持ちもあり、それを生返事で返していた。


 そして、次の停留地に入る前に。


 別の馬車で寝起きしていたドーディーファンは、デラキソスの知らない間に消えた。

 赤ん坊のドルドレンは、彼女が育てられないだろうと、心から心配した馬車の女たちが世話を引き受けた・・・そんな話をされて、デラキソスは暫くの間、馬車の仲間に本気で嫌われた。


 無論、デラキソスの連れ込んだ女も、居心地の悪さに早々去って行った。



 性分。そう言ってしまえば済む、そんな話ではないけれど。


 デラキソスは自分の弱さも分かっている。女の都合も気持ちも、分からないわけじゃない。だけどまた会えるなら、会いたいかと訊かれたら、それは会いたい。


 恥も外聞もないのは承知。そんなのしょっちゅう(※学ばない)。


 身勝手と言われて返す言葉もないが、会いたいかと言われたら。


「会いに。行くか」


 珍しく悩んだ、軽薄で好色な男。見てしまったら、会いたくて仕方ない。どうにか、せめて、もう一度。出来れば、声も聴きたい。話もしたい。笑顔を・・・・・


 あの日。見えないはずの目で、俺をどう見ていたのか。


 見えていた時に何度も教えてくれた、俺の姿。俺の姿は、疎んだ最後まで同じだったのか。



 そして、デラキソスは、翌日の停留地到着の午後。


 馬を一頭引っ張って、通った道を一人戻る。長い黒髪が揺れた背中を求めて―

お読み頂き有難うございます。


いろんな本気があります。どう見たってダメな男でも、それはある(と思う)。

その人なりに、その人なりの、本気とかあれこれ(テキトーですみません)。

書いている私も気分が悪くなる強敵・デラキソス(こういう男ムリ)。

でも、世界にこんな人は幾らもいる!と思えば。それもまた人生。

デラキソスなりの、微妙だけど本気な恋心的心境を追います。



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