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こんな俺でも  作者: Ichen
デラキソス光輝燦然の熱華  
20/24

20. デラキソス光輝燦然の熱華  ~記憶

『魔物資源活用機構』の中の登場人物、ドルドレン。その父親、デラキソス・ダヴァートの恋話です。

ちょっと間が空くかもしれませんが、4~5話で完結予定です。

 

 ――どこへ行っても暑い夏。この時期だけは、北東へ向かう馬車に慰めがある。



 親父は、一週間前に東の町での一ヵ月停留を終え、次の停留地・北東のケイガンへ、馬車は向けた。


 少しずつ低くなる気温に、誰もがホッとする移動の時間。先へ先へと急ぐ馬車の列は、熱さから逃げるように北東を目指す――


 それから。時は流れて。




「ねぇ。これ、なぁに」


「あん?おい、それ触るなよ」


「何入ってるの。触っちゃダメなの?」


 ダメだよと、デラキソスは言う。

 新しい奥さんは(※何人目か覚えてない)少し笑って『そう』と頷くと、デラキソスの頬にキスをして、『前の馬車のリョジェーヤと話してくるね』と進む馬車をひょいと飛び降り、いなくなった。


 デラキソスは、奥さんの背中をぼんやり見送った後、触られかけた聖杯を持って、ベッドに戻った。



 それを見つめてから、蓋を開け、中にある小さな木の実を摘まむ。もう・・・40年近く前。


「ドルドレンが生まれた頃だから。36?7?か。死んでる木の実だろうな」


 可笑しそうにハハハと笑うと、木の実に口付けてから聖杯の底に戻した。この木の実を渡された頃。

 俺は『ガキも良いところだな』苦笑いして、窓の外に流れる青空を見つめ、小さな溜息をつく・・・デラキソス。


()()にあれ以来。一度も会えていない。俺を避けているだろう・・・ドルドレンと同じで。お前は俺を嫌ったな。あんなに愛したのに」


 何でかなぁ、と笑ってぼやく、デラキソス。ドルドレンは母親似なんだなと、生まれた直後に思った。そのくらい、毛嫌いされた(※赤ちゃんでも本能で浮気者キライ)。


「でも。ドーディーファン。お前は俺の一番から、どうして・・・いなくならないんだよ」


 デラキソスは枯れた木の実に、静かに口づけして。少し、窓の外を見つめる時間。


「お前の目は。何を見たんだ。俺の心ではなく、別の?ああ、お前の声が聞ければな」



 デラキソスを運ぶ、馬車の列。北東へ向かう夏の旅。


 遥か前に消えた、蕾を見送った恋愛が再び咲くとは思いも知れず。青空は、ハイザンジェル・ケイガン地区への澄んだ涼しい空気を運んだ。



お読み頂き有難うございます。


ご存じない方のために、少し彼の説明を載せます。

ドルドレンの父・デラキソスは、ハイザンジェルを周回する馬車の民で、馬車長です。

息子ドルドレンに嫌われているのは、彼が女好きでいい加減だから(祖父も同じ性格)。

本編でデラキソスが初登場する回は、219話後半。

https://ncode.syosetu.com/n1028fs/219/


この回から、彼はちょっとずつ登場します。でも、本編にドルドレンの母親の話は、ほぼ出ません。

今回、この場を使い、その話をご紹介したいと思います・・・


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