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Now on AIR!!

作者: 藤波真夏

「これから配信をするよ!」

 マイクに向かって響く声。緊張感と高揚感を抱えて画面を見る。


「さあ、配信の始まりだ!」


 そう言って、画面をタップした。

 これは、「何」もなかった俺がラジオ配信者になるまでの軌跡。

 3,2,1---,Now on AIR!!




 普通の日常を送っていた。

 この俺、蒼生そうせいはなんの変化も刺激もない大学生活を謳歌していた。大学内での俺の立ち位置は「目立たない」「普通」そんなものだろう。

 対して目立つことなんてしないから、俺はいつも毎日の日々の中で時間を無駄にしてきたのかもしれない。

 そんなある日、俺はネットサーフィンをしていた。するとトップニュースにこんなトピックスが上がっていた。

『一般人でも気軽に音声配信ができるスマートフォンアプリが登場!』

 ラジオ配信。

 ラジオをするのはテレビで華々しい活躍をする芸能人などの華々しい人間たちが行うものだと思っていた。しかし時代の変化というのは著しい。一般人でもラジオ配信などを行う時代が来た。

 俺はそんなトピックスを遠い目で見ていた。

「どうせラジオ配信なんて一部の人間たちがするソーシャルネットワークにすぎねえ」

 冷ややかな目と言葉を吐いた。

 目立たなくて根暗で、俺とは正反対な人間がするのがそういったキラキラしたネットワークなんだろう。

 トピックスにはこうも書かれていた。

「配信者だけが登録するだけではなく、聞き専としてラジオ配信を単純に楽しむ人たちもいるか・・・」

 プロフェッショナルでなくても多くのファンを獲得し、そのグダグダ感が逆に癖になるというのだ。俺はへえ、とただ呟いた。

 元々ラジオは聞いていた。リアルタイムではなかなか聞けない日もあるが、配信されたものを聞いている。元々配信には興味はあるけど、一歩が踏み出せない。

「とりま、入れてみるか」

 動機なんてない。俺はラジオ配信アプリをダウンロードしていた。

 アプリを開き、基本情報を入れてみた。

「うわ、えぐ」

 俺はびっくりした。

 ファンの人数や現在生配信中のリスナーが何十人といる現実に驚きを隠せない。俺はそれに驚いてアプリ登録初日はなにもせずに終わった。




 それからなにもせずに放置。

 一ヶ月以上が経過した。バイトも休み、そしてなにもやることのない暇な時間だ。俺はスマートフォンの画面をスクロールして例のラジオ配信アプリをあさっていた。相変わらず目がいくのは、リスナー数という現実の数字だ。

 それを見るだけでため息がでる。

 興味あるものだけ見てみよう。俺は一人のラジオ配信をタップした。

 すると画面は切り替わり、画面はコメントが流れるコメント欄が現れた。すると聞こえてくるのは優しい女の人の声だった。

『あ、アスタさんいらっしゃい。よかったらゆっくりしていってね』

 ふわふわとした優しい声だった。

 俺が知っているようなキャピキャピとした声じゃない。

「落ち着くなあ」

 知らないうちに呟いていた。

 すると配信者である女の人が俺に向かって自己紹介を始めた。

『アスタさん初見の人かな? 自己紹介するね。私はあいって言います。いつもこの時間に生配信やってます。よろしくう』

 藍さんは自己紹介をした。俺は速攻でコメントをうった。


 初見です。よろしくお願いします。

 アスタです。


 普通の紹介文だ。それを藍さんは読んで反応してくれた。

『よろしくね! もしかして始めたばかり? わからなかったら聞いてね!』

 藍さんはそう答えた。俺はただラジオ配信を聞いた。

 藍さんは本当に楽しそうにしゃべる。そしてそれに反応してコメント欄がだんだんと更新されていく。

『藍の声は癒し? ありがとう、茶々(ちゃちゃ)!』

 藍さんはリスナーの名前を言った。茶々と呼ばれた人物は藍さんと会話しているようだった。

 コメントもかなり慣れている様子だ。古参だろうか。

 結局その日はコメントがそこまで出来ず、時間だけが過ぎていった。




 そんなある日。スマートフォンに通知が来ていた。あのラジオ配信アプリからの通知だ。

 そこには、メッセージ通知と出ている。

 ラジオ配信アプリでは利用者同士での交流ができるようにメッセージ機能を搭載しているという。

 開いてみると以前配信を聞いた藍さんからメッセージが来ていた。


 アスタさん、配信に来てくれてありがとうございます! またよろしくお願いします。お気に入り登録させてください!


 胸をわしづかみにされた気分になった。

 胸が高鳴った。

 今まで感じたことのない高鳴りと高揚感に俺は満たされた。人間はこうもふわふわとするのかと。

 俺はすぐに返信をした。嬉しさのあまり返信の言葉の言葉も不思議とポンポンと思い出す。


 ありがとうございます! これからよろしくお願いします。


 ありきたりな返信だ。だけど、どことなく嬉しかった。

 そして俺は思った。

「俺も配信してみたい」

 ここから蒼生もといアスタはラジオ配信の魅力にどっぷりと浸かることになるのである。

 しかしどうにも勇気がでない。俺があの藍さんのような配信ができるのか。重要な一歩の前で怖気付いてしまった。

 一体どうすればいい? もし配信して人すらこなかったどうする?!

 不安が生まれていく。

 するとまた目に付いたライブ配信をタップして配信を聞きに行く。

 配信者は「レモン」とネームが付いていた。しかし男性とも女性とも受け取れる声をしていた。

 俺は思った。

 これが現代語で言う所の「両声類」というものであると。

『アスタさんいらっしゃい! 楽しんでいってね!』

 レモンさんが俺に声をかけてくれる。そしてレモンさんは自慢の声をフル稼働してやってきたリスナーを楽しませている。

 俺にはこれといって特徴があるわけではない。特別いい声というわけではない。どちらかというと目立たないし、特別な才能があるわけではない。よくて凡才だ。

 するとレモンさんは喋り始めた。

『始めて配信した頃をお話ししますね。最初は怖かったんですよね。自分が認めてもらえるのか、人が来てくれるのか。自分自身の声があまり好きじゃなかったから、晒すのも怖かったんですよね。でも、初めて声を褒められた時にやってみよっかなって気持ちになったんですよ。やってみたら楽しくて、一度は配信やったほうがいいです』

 その瞬間に俺の中で何かが弾けた気がした。




 それから一週間後のことだ。

 俺はスマートフォンの前にいた。そしてスタートのボタンをタップする。すると画面に表示された。


 Now on air!!


 配信を始めた。

 しかし、最初の十分は人が全く来ないという地獄の時間になった。心が折れそうになった瞬間に、リスナーが一人やってきた。

 表示された名前は「藍」。それを見た俺はびっくりして声が上ずってしまう。

『藍さん! こんにちは!』

 すると藍さんはコメントを打ってくれた。


 初配信おめでとう! 今日はよろしくね!


 嬉しい。

 まさか初コメントを藍さんが打ってくれるなんて。嬉しさでなんだかおかしくなりそうだ。

『自己紹介します。アスタです。大学生です。好きなものは読書。よろしくお願いします』

 俺も緊張しているせいなのかなかなか言葉がでてこない。それを聞いて藍さんはコメントで盛り上げてくれる。

 するとまたリスナーが一人やってきた。

『レモンさんこんにちは。この前はありがとうございました』

 両声類と言ったレモンさんがやってきてくれたのだ。レモンさんも初配信であることを伝えるとおめでとう! と祝ってくれた。レモンさんの配信で話してたことをきっかけに配信しようと決めたことを伝えるとレモンさんからコメントがきた。


 アスタさん、背中を押せてよかったです。今日はよろしくお願いします!


 レモンさんも優しいコメントを返してくれた。この配信には心優しい人しかいない。まさに天国だ。

 最初は一時間程度でいいやと思っていたのに気づいた頃には配信上限の二時間まで配信していたのだ。時間を忘れるというのはこのことか、と思い知らされる。

 俺は配信終了後に紙とボールペンを取り出して紙に書きなぐった。

「音楽入れたらもっと楽しいかな。どんな話題? でもこっちから投げかけたら、きっともっと面白いかも。話の広げ方を身につければなんとかなるかも」

 俺はよりよい配信にしようと思案を広げ始めた。

 プロフェッショナルではない、アマチュアがやる素人感丸出し、でもそれでもはちゃめちゃで楽しい配信のため俺はずっと考えていた。




 初配信から一ヶ月後。

 俺はまたスマートフォンを取り出して画面を見る。そして音楽を流すパソコンと手元にはメモ帳とペン。準備は万全だ。

 押し寄せる緊張と高揚感に息を吐いた。もうそこには地味で目立たない蒼生はいない。今自分は配信者「アスタ」なのである。

 震える指と震える心の高鳴りとともに俺は画面をタップする。その瞬間に俺は蒼生からアスタへと変わる。

 みんな今日もよろしく。

 そう呟いた。

 そしていつも心の中ではこう叫んでいる。



 さあ、楽しい配信の始まりだ。

 3,2,1---,Now on AIR!!!!


Special Thanks

オアさん

なぎちゃん

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― 新着の感想 ―
[一言] 平和な世界。 応援しあえる配信仲間がいると心強いですね。 真夏さんの配信もそろそろ聴きたいなぁ。←
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