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ともだちのいないトラ  作者: 美森つばさ
5/15


翌日の朝 トラは川へ行きました。お水を飲みました。魚が泳いでいるのが見えましたが 食べる気にはなれませんでした。少しため息。流れる水をぼんやり見ながら 考えました。

「ここにいれば 辛いことも 苦しいことも もう起こらない。心が痛くなることもきっとない」

それでもトラの胸の奥はまだ痛みます。トラはまたゆっくり息を吐きました。

パシャ・・・

水面から魚が跳ねてトラのすぐ脇に飛んできました。陸に上がった魚は動いていません。トラはびっくりして魚を手のひらに乗せました。 「もう死んでしまっている」 しばらく手のひらの魚を見つめていましたが 「いただきます」そう言って魚を食べました。トラの体には小さな魚でしたが 元気のないトラには十分な食事でした。「ごちそうさまでした」魚に対して感謝の気持ちを込めて言いました。

トラのあとをついてばかりの風の精霊。水の精霊に言われました。「あのお魚はもう長いこと生きて ついさっき死んでしまったの。だからあの子にあげたのよ。だってあの子ったら悲しい顔ばかり。あの子にあげて良かったわ あんなに感謝してくれた」水の精霊はとても満足していました。風の精霊は思わずギュっと水の精霊を抱きしめました。



トラはお花畑に行きました。鮮やかな色をした花はトラの心を楽しませてくれました。短く丸く削った爪で花をそっと撫で 顔を近づけて香りを胸いっぱい吸い込みました。良い香りに微笑むトラ。座り込んで花を眺めました。緩やかな風が花を揺らして香りが広がります。トラにとって とても良い慰みになりました。

火の精霊は大きな花の上に座ってずっとトラを見ていました。火の精霊は寡黙でおしゃべりはあまりしません。それでも何かを深く思うようにトラを見つめていました。風の精霊はそんな火の精霊の様子を見ていました。風の精霊に気づいた火の精霊は少し悲しげな笑顔をしました。そのままふたりでトラを見守りました。


のんびりとお花を眺めて過ごしたトラはピアノのある場所に戻りました。

ゆっくりとピアノに近づき鍵盤をみました。 “また弾いてもいいかな?” トラがそう思った途端 昨日のように鍵盤は光りました。トラはパァと笑顔になり 椅子に腰かけました。

鍵盤はまた光って まず昨日のおさらいをしました。思ったよりもきちんと出来たとトラは少し前向きな気持ち。今度は少しずつ全部の指を使っていくものになりました。トラは真剣に光を追いかけ 弾いていきます。辺りにはきれいなピアノの音が響いていました。

ふと気づくと太陽は傾き 夕暮れが迫っていました。トラは半日以上ピアノの練習をしていました。「こんなに時間が過ぎるのが早いと思ったことはなかったな」トラは驚きました。長いこと座っていたので ちょっと体もギシギシします。教えてくれたピアノにお礼を言ってトラは伸びをしました。少し体操。お水を飲みに川へ向かいました。


風の精霊は地の精霊を心配しました。地の精霊はとても疲れているようでした。でもとても嬉しそう。地の精霊は眠りました。風の精霊はそっと離れました。





それからのトラは、ピアノの練習が日課になりました。

朝起きて お散歩しながらゆっくり川へ向かい 顔を洗ってお水を飲んで 時々魚もいただきました。そしてピアノの練習。途中 休憩がてらにお花畑に行って花を楽しみ また少し練習。日が沈む前に練習を終えます。

トラは思います。こんなに毎日が楽しいと感じるのは ここへ来てから。ひとりぼっちでも今は大丈夫。つらくありません。ただ ここへ来る前の出来事は心の奥へとしまい込んで蓋をしました。思い出さないように・・・。

精霊たちはそれに気づいていました。けれど 今はピアノに夢中になっているトラをそのまま見守っていました。




お読みいただきありがとうございます。

トラのお話 続きます。

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