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ともだちのいないトラ  作者: 美森つばさ
15/15

15.



素敵な時間はあっという間に過ぎました。

先生にも町の大人たちにも トラの優しさは理解され 全く危険がない事がわかったので 子供たちはトラに“また来る”と告げる事が出来ました。

子供たちは嬉しそうに もちろん大人たちも来て良かったと思っているのがわかるほど トラに大きく手を振って帰って行きました。トラも笑顔で みんなに手を振り別れました。



トラの胸いっぱいの嬉しさは涙となってあふれました。それでもあふれてくる想いを トラはピアノの音に乗せて発しました。優しい音色は夜のベールで鍵盤が見えなくなるまで続きました。

空には満天の星。

演奏を終わりにしたトラは 心に浸透した幸せな気持ちで 古びた木に手を当てました。

すると ポゥと古びた木が光りました。トラが驚くのと同時に トラの心に直接何かが話しかけて来ました。

「君が来てくれて 私の願いは叶えられました。私はもう何百年も前にここに来ました。ここに来る前から音楽が好きで 時間をかけてピアノを作った。でも 弾ける人はいなかった。道に迷った誰かが弾いた事はあったけど いい音はしなかった。その後も何人かが弾いたけど 私が思う音ではなかった。半ば諦めていた。最後の最後に君が来てくれた。心根の良い人にしか いい音は出せない。君は私の想像以上の音色を奏でてくれた。君の心は美しい。君のまなざしは 他の人がとおりすぎてしまう事にも向けられ 眩しすぎる光を越えていく。君には幸せであってほしかった。君のつらい記憶をのせたまま時が流れてしまうのを止めたかった。だが 君は君自身の力で それを変えた。もう 何の心配もない。私は思い残すことなく旅立てる。たくさんの綺麗な音をありがとう。これからもピアノを大切にしてくれるとありがたい」

トラの鼓動が大きくなりました。

「勿論です。ピアノはずっとずっと大切にします。今の僕があるのは あなたの導きがあったからです。僕の力ではありません。ありがとうございます。本当にありがとうございます」

「ふふふ。ずっとこうして君と話したかった。最後に話せて良かった」

最後という言葉に トラは泣き出しました。

「あなたのおかげです。ここに来て あなたに出逢えて 僕は幸せになれました」

「ここに住まう者たち… 君の目には映らないが 私の仲間も みな君の幸せを願っている。君の優しさはとても魅力的だから。君に逢えて良かった。・・・さあ もう行かなくちゃ」

古びた木の光が一瞬消えました。すると今度は光の玉が 古びた木から飛び出し それは輝かしい白銀の馬と変化しました。銀色に輝くその馬は 美しく伸びる四肢を軽やかに芝草の地に着けました。

凛とした優しいまなざし。

銀色の馬とトラはしばし視線を合わせました。銀色の馬の瞳がほんの少し寂しさを含むと ゆっくりと大きな瞬きをしました。すると その背に大きな翼があらわれました。

“さよなら”

天馬は四肢で大地を蹴りました。そして大きな翼を羽ばたかせ 空に向かい 七色の足音を弾かせて飛んで行きました。

トラはあふれる涙を押しのけて 懸命に天馬の姿を追いました。届かなくても遠くなる距離を縮めたい思いでしたが 天馬は空高く星を目指して行ってしましました。

「本当にありがとうございます。さようなら さようなら・・・」


残った風の精霊・水の精霊・火の精霊は 静かに空をみつめました。地の精霊とのお別れはとっくにすんでいました。

悲しみはありました。しかし 最後に願いが叶い トラの幸せを確信して旅立てた地の精霊の心を思うと 3人の精霊は喜びに似たあたたかな気持ちでいられました。



耳が痛いほどの静けさ。

トラはあふれ流れる涙をそのままに 精霊への想いを 心いっぱいに振るわせました。




眠れずに過ごしたトラ。いつしか空の色が変わりはじめ 夜の闇が去ろうとしていました。すると空の彼方から木の葉が舞い落ちるように何かが少しずつ近づいて来ました。それは時々キラッと光ります。トラが目を凝らして見ていると 鳥だとわかりました。尾の飾り羽根がとても立派な青い鳥です。ひらひらといくつもの曲線を描きながらゆっくりと降りてきます。はっきりと見えていた鳥の姿は 近づくたびにだんだんと薄くなり 透明色な青になっていきました。やがてトラの目には見えなくなってしまいました。それでもトラは見つけようと空を探しました。


風の精霊・水の精霊・火の精霊は 笑顔で青い鳥を見ていました。

別れがあれば 新しい出逢いが訪れます。

青い鳥は あたらしくやってきた地の精霊。


空を見ていたトラですが 急に自分の顔のあたりを何かがかすめた気がしました。とっさに振りかえると あの古びた木がごく僅かに青く光りました。

トラにも理由がわかりました。トラは古びた木に向かい 丁寧にお辞儀をしました。


3人の精霊はあたらしい地の精霊を迎え入れました。挨拶をすませると地の精霊はすぐにトラを見つめました。

「彼はとても優しいね。すぐにわかるわ。私も彼を好きになれそう」

風の精霊・水の精霊・火の精霊は顔を見あわせて喜びました。

トラは朝にふさわしい爽やかな曲を弾きはじめました。

あたらしい地の精霊は トラのピアノの音に感極まって鳥の形の青い光を放ちました。

「何て素敵なの!ああ これからずっとこの素敵な音を聴けるのね。素晴らしいわ。私 あのピアノを大切に守るわ」

そういうとあたらしい地の精霊は声を上げて笑い クルクルと踊り出しました。





それからというもの・・・

トラのもとには時々町の人たちが訪ねて来るようになりました。大勢の時もあれば ひとりでやって来る人もいました。ピアノを弾いて聴かせたり おしゃべりをしたり。トラは人と関わり 日々は明るくなりました。

ですが トラは変わらずひとりぼっちで 友達と呼べる人はいません。それでももう寂しさで泣く事はありません。トラの豊かな心は孤独を感じることはないのです。トラが“この世界は美しい”と思っている限り それは続きます。

変わったことと言えばピアノのついた古びた木に新しい葉が生えはじめた事。


満天の星が輝く夜は 天馬の駆ける足音が聞こえてきそうで トラは空を見上げて微笑みます。



トラの弾くピアノの音は 精霊たちに見守られ 季節がいくつ過ぎてもいつまでもいつまでも響き渡るのでした。







お読みいただきありがとうございました。

童話という童話ではありませんでしたが、書けてうれしかったです。



ありがとうございました。

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