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ともだちのいないトラ  作者: 美森つばさ
14/15

14.



「約束やぶってごめんなさい。でもどうしてもまた会いたかったの」

かがんで小さくなったトラに子供たちは抱きついて言いました。

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

口々に謝る子供たち。

トラはそっと子供たちを抱きしめました。

「こんなに遠いのに また来てくれたんだね。ありがとう。みんなが来てくれて嬉しいよ」

トラは咎めることなく 素直に再会を喜びました。

「もうひとつごめんなさい。学校の先生も一緒に来てます。」

子供たちが振りかえると先生だけではなく 数人の町の人もいました。

「なんで?俺たち先生にしか言ってない」

「先生が裏切ったんだ!これだから大人は信用出来ないんだよ」

「先生ひどい!トラさん ごめんなさい。私たち他の大人が来るなんて知らなかったんです」

トラは町の人たちに驚いて昔の記憶がよみがえりました。怖くて逃げ出したい気持ちが心に溢れ 身体が震えてしまいました。

子供たちがトラの手を握り まるでトラを大人から守るように立ちはだかります。トラは子供たちの姿勢に 自分を取り戻しました。

“子供たちが僕を守ろうとしてくれている。逃げる必要なんてない。しっかりしなくちゃ”

トラは子供たちにわからないように深呼吸して 気持ちを整えました。

「みんなありがとう。大丈夫。挨拶をしてくるから ここにいてね。」

優しく子供たちに言い トラは町の人たちのところへゆっくりと歩き出しました。

精霊たちはトラを見守ります。

“トラであることは僕のほんの一部でしかない。大丈夫。たとえ傷ついても僕は前を向ける。世界はこんなにも美しいのだから”

自分に言い聞かせながら ゆっくりと近づき トラは紳士的に深く一礼。

「こんにちは」

緊張していたせいで上手く笑顔が出なくて 悲しい表情になってしまいました。それでも町の人たちには 金色の光をなびかせ堂々と歩くトラが高貴に見え トラに対する恐怖心は全くありません。トラに見とれていた先生が慌てて言いました。

「町で学校の先生をしている者です。急に大勢で押しかけてしまいごめんなさい。子供たちから話を聞いて一緒に来ました。大人が私一人では心細くて 一緒に来てもらったんです」

一緒に来ていた町の人は 緊張してうまく言葉が出てこない様子。そのせいか本音が出てしまいました。

「ピアノを弾いているのがトラだって聞いて 信じられなくて付いてきたけど 驚いた。こんな所にひとりでいるのかい?」

トラは答えます。

「はい ひとりです。僕は町へは行きません。誰も襲いません。ずっとここにいます。安心してください」

「あなたを見たら 誰も襲わないってわかるわ」

先生が笑顔で言いました。トラは微笑みました。

「襲わないって 本当に?」

普段町役場で働いているクマが尋ねました。

「僕はお魚が好きなんです」

トラは出来る限り丁寧に答えました。

クマは少し考えていました。警察官のサイが思い出したようにして言います。

「いつだったか 以前町にトラが来たことがあった。もしかしてあの時の?・・・ああ 僕らはなんてひどいことを。何も知らないが故に 怖くてあんなことをして。申し訳ない。本当にごめんなさい」

サイはすまなそうに頭を下げて謝りました。クマもその出来事を思い出しハッとしました。何かが引っかかると思い考えていたのは まさしくそれでした。クマは言いました。

「ああ本当に・・・私たちのしたことは許させれることではありません。それなのに あなたは子供たちにも優しくしてくれて・・・ありがとうございます」

トラは胸が熱くなりました。あの時のつらさも心の痛みも 全てが報われた思いです。

「訪ねてきてくださり ありがとうございます」

町の大人たちとトラは握手をしました。

風の精霊は 感動して泣き出しました。風が吹き 緑の芝草が舞いました。それは太陽の光を反射してトラを美しく見せました。

大人たちが握手をしたことで 子供たちの不安は消し去り トラに駆け寄って来ました。

「トラさん ピアノ聴かせて!」

「そうだね。今日は何を弾こうか?」

「今日は先生は先生が聴きたいのを弾いてあげてほしいな」

子供たちは先生を気づかい言いました。

「いいえ 私はピアノを弾くのを見せてもらえればそれで良いので 子供たちの聴きたい曲をお願いします」

先生も子供たちを気づかいます。

トラは微笑んで子供たちとピアノに向かって歩き出しました。大人たちもついて行きます。

一瞬ピアノの前で立ち止まり トラは古びた木に思いを送りました。そして何やら子供たちに頼まれた曲を弾き始めました。

大人たちは ピアノを弾くトラの優雅な姿と すぐ近くで聴くピアノの音に感動が押し寄せ 心が満たされていきました。

精霊たちは喜びいっぱいに舞い踊りました。こんなに嬉しい事はありません。トラの弾くピアノの音色もよろこびにあふれ これまでにない素敵な音に変わりました。精霊たちの心にも響き渡る素晴らしい音です。



地の精霊は 静かな涙を浮かべていました。“もう思い残す事は何もない”

他の精霊たちは地の精霊に寄り添いました。言葉はなくても 地の精霊が思っている事は わかっていました。



お読みいただきありがとうございます。

物語ももうすぐ終わりです。

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