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ともだちのいないトラ  作者: 美森つばさ
11/15

11.



曲が弾き終わりトラは手を膝の上に置きました。空を見上げながら次はどの曲にしようかと考えます。青空がきれい。

すると後ろの方で何やら声がする。トラがふり返ると町の子供たちが離れた所から トラを見ています。びっくりするトラですが 咄嗟に自分に言い聞かせます。

“慌てた様子を見せては子供たちが怖がってしまう。何故子供たちがいるのだろう?なんで?なんで?いやいや 落ち着いて落ち着いて。でもどうしよう。どうしよう。・・・とりあえずそう ピアノを弾こう”

トラは陽気な 身体を動かしたくなるような曲を選びました。緊張でドキドキしていた子供たちも 思わず笑顔になりました。芝草の真ん中辺りまで来てジャンプしたり腕を大きく回してみたり 楽しそう。トラも笑顔になりました。

曲が終わると子供たちがトラに駆け寄って来ました。

「あなたがピアノ弾いてたのね!」

「僕たち町からピアノの音を追って来たんだ」

「いつもピアノ聴いてたよ」

「どんな人が弾いてるか知りたくて みんなで探しに来たの!」

トラは驚いて 言葉がなかなか出て来ませんでした。少し間を置いて 心からの言葉を伝えました。

「みんなありがとう」

トラは続けます。

「みんなにピアノの音が届いていたんだね。聴いてくれてありがとう。会いに来てくれてありがとう」

子供たちは何も怖がらずトラの手を触り

「ねえ 私どうしてもまた聴きたい曲があるの。弾いてくれますか?」

「あ ズルい!俺だって聴きたい曲あるのに」

「私も気に入っている曲があるの。聴かせて」

「弾いて弾いて。聴きたいよ」

瞳をキラキラさせてお願いしてきました。躊躇無くトラに近づき話しかけてくる子供たち。トラは嬉しくて 涙が出そうでした。それを懸命にこらえ 子供たちのお願いを聞くことに気持ちを集中させました。

「順番に弾こうね。どの曲かな?」

女の子は鼻歌でトラに伝えました。トラはすぐにどの曲かわかって弾きました。女の子はとびきりの笑顔で聴いています。

「次は俺だよ。俺はね・・・」

子供たちは次々とリクエストしてきます。トラは嬉しくて夢中で応えます。

ですが 自分の影が少し傾いたことでトラは気づきます。

「みんなはここにくることをおうちの人に言って来たの?」

「ううん ナイショ。遠くまで行くと怒られちゃうから」

トラはハッとして椅子から立ち上がりました。立つと子供たちは首が痛くなるほど見上げなければならないほど トラはとても大きいです。トラはしゃがんで背中を丸め 出来るだけ小さくなり 子供たちと目線を合わせて言いました。

「だったら もう町に向かわないと家に着くまでに暗くなってしまうよ」

「ええーだってまだお日様は上にあるよ」

「ここへ来るのにうんと時間がかかったでしょ?暗くなったら迷子になってしまうし おうちの人たちは心配するよ」

「トラさんの言うことは正しいよ。僕たちはそろそろ引き返したほうがいい」

鹿の男の子がみんなを説得するように言いました。みんなは途端に悲しい顔をしましたが 帰路につくことが正しいのはわかりました。

「また来ればいいんだよ」

鹿の男の子が言いました。でも トラは首を横に振り言います。

「町の人たちが心配するよ。ここへはもう来てはいけない」

「どうして?」

子供たちは口々に言います。

「ここはとても遠いから 大人たちは心配してきっとダメって言うよ。だからね 今日ここへ来たことは ここにいるみんなだけの秘密にしよう。ね。これからは みんなに聴こえるようにピアノを弾くから 町から聴いてくれたら僕はそれだけでとても嬉しいよ」

「でも・・・もう会えないの?」

羊の女の子は寂しそうに言いました。

「みんなに会えて 僕はとっても嬉しい。君たちが来てくれて本当に嬉しかった。だけど そのことで君たちが叱られてしまうと 僕はとっても悲しくなってしまうから。ね。来てくれてありがとう。本当にありがとう」

トラの深い紫色の瞳がきらきら輝きながら子供たちひとりひとりを見つめます。子供たちはトラに抱きついて別れを惜しみました。トラはそっと子供たちを抱き寄せて お礼を言いました。

背の高い木々の所まで子供たちを送りました。トラは子供たちが見えなくなるまで手を振り続けました。子供たちは何度も振り返りトラに手を振り そして見えなくなりました。

トラは子供たちが 日が沈む前に帰れるかとても心配でした。”子供たちが無事に帰れますように”トラは祈りました。

風の精霊・水の精霊・火の精霊は 子供たちが迷わず町へたどり着けるよう後を追いましたが 精霊たちが何もしなくても子供たちは迷いませんでした。とてもしっかりした子たちです。出来るかぎり急ぎ足で町へ向かいます。暗くなりかけ 町の大人たちが子供たちが帰ってこないことを心配しだした頃 子供たちは町へ帰りつきました。大人たちは 帰りが遅かったことを責めましたが 子供たちは

「森で楽しかったから遊びすぎたんだ。疲れているから明日にしてよ」

と多くを語らず それぞれの家に帰って行きました。

とりあえず無事に帰り着いたのを見届け 精霊たちは引き返しました。



空に一番星が輝きだしました。トラは一番星を見上げながら 込み上げてくる胸いっぱいの嬉しさに涙しました。

「僕のピアノをみんなが聴いてくれていました。そして子供たちがわざわざ訪ねて来てくれました。こんなに こんなに幸せな気持ちになれたのは初めてです。嬉しい。とても嬉しいです。この世界に感謝します」

トラの涙は美しく 瞳は星のように輝きます。それはトラの心を反映しているかのようです。

トラはピアノのそばまで行き 古びた大きな木を見上げます。

「ピアノを弾くようになって僕は変われました。あなたのおかげです。ありがとうございます」

そして大きな肉球でそっと大きな木にふれました。感謝の気持ちが伝わるようにと願いを込めて。

地の精霊はトラの思いを受け取りました。それは地の精霊のエネルギーとなり活力を与えました。

「私の方こそ ありがとう」

地の精霊はトラに向かって言いました。届かない言葉ですが 地の精霊は嬉しそうに そして少し悲しそうに微笑みました。


さあ『時』が動き出しました。精霊たちはこの日を待っていました。始まった軌跡。精霊たちは優しくトラを見つめます。トラの幸せを何より願う精霊たちでした。




お読みいただきありがとうございます。

切れるところがなく、長くなってしまいました。

ごめんなさい。

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