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あの頃を思い出す。
ひとりぼっちで泣いていた
さみしさに押しつぶされそうで
いっそ消えてしまいたい
と願ったあの頃を・・・
大きな森の中に 一匹のトラが住んでいました。
トラはいつもひとりぼっち。
仲間のトラとは仲良くなれません。
そのトラは動物を襲って食べようとしなかったからです。
むしろ 他の動物たちと仲良くなりたいと思っていました。
ですから 仲間のトラには
「動物を襲わないトラなんておかしい」
「おまえはトラじゃない」
などと言われ 嫌われていました。
トラはお魚が好きでした。
川へ行ってお魚をとっていると 時々クマに会いましたが
クマはトラを見ると逃げてしまうか とても怖い顔をしてにらみつけてくるかでした。
そんな時はそっとその場をはなれました。トラはケンカをしたくないので。
友達がほしい たくさんたくさん友達がほしい
それがトラのいちばんの願いでした。
森の中ではそれは叶わず トラは思いきって町に行こうと決めました。
町までは遠い道のりです。町に向かって歩きながらトラはあれこれ考えます。
「どんな人がいるだろう?」
「たくさんの動物がいたら僕と仲良くしてくれる人もきっといるはず」
トラはワクワクしながら町をめざしました。
町に近づくと何人かの動物とすれ違いました。
「こんにちは」
トラが挨拶をしても、トラを見てびっくりし 足ばやに去っていきます。
トラは少し不安になりましたが
「きっと大丈夫」
そう自分に言い聞かせて さらに町の中心をめざしました。
町の噴水広場が見えました。
トラは近くにいたウサギの男の子に挨拶をしました。
「こんにちは」
トラを始めて見た男の子はトラを見上げました。
男の子が “こんにちは” と言おうとしたとき
「キャー!トラが男の子を襲うわ!誰か助けて!」
どこからともなく叫び声が響きました。するとあちこちから悲鳴が聞こえ
それにびっくりした男の子も泣き出してしまいました。
「トラだ!トラがいる!町を襲う気だ!」
「誰か武器を持ってこい!」
「早く男の子を助けろ!」
「町から追い出せ!」
トラはおろおろしながら言います。
「ちがうよ。僕は誰も襲わない。友達がほしいんだ」
「ウソに決まっている!」
「トラを早くやっつけろ!」
それでもトラは
「怖がらせてごめんなさい。でも本当に僕は・・・」
石が飛んできてトラの顔に当たりました。
トラの声は誰にも届きません。
「出て行け!」
トラは悲しくなりました。
次々と石が飛んできてトラに当たります。
トラをにらみつけ武器を持ち 今にも攻撃してきそうな町の人たちに トラは逃げるしかありませんでした。
トラは走り出しました。
「出て行け!」「出て行け!」
怒鳴り声と石はトラに向かって止むことはなく それはトラが町を出るまで続きました。
町を出てもトラは走りました。
町からずいぶんはなれた頃 息も切れてしまいトラはやっと立ち止まりました。
すると今度は涙があふれてきました。
「ちがう!ちがう!僕は誰も襲わない!どうして誰もわかってくれないの?どうして僕はトラに生まれてしまったの?なんで?どうして?」
トラは泣きました。
悲しくて悲しくて 胸の奥いっぱいの悲しみは涙になって流れていきました。
トラの泣き声は風に消され やがて強い風が吹き 涙の雫を包んでいきました。
泣きくずれたトラを慰める人は誰もいない・・・
そのさみしささえも トラの心を深く深く傷つけていきました。




