表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/365

第98話 奪われたモノ達

 気が付いたら俺は落下していた。

 数秒もしないうちに大きな飛沫を立てて水に落ちた。


 俺は空気を求めて、水面へ向かう気泡を追いかける。


 身体が重い。

 服を着たまま水中に放り込まれたのもあるが、それ以上に身体が重かった。まるで、俺のステータスが全て初期化されたかのようだった。


 水面へ浮上した俺は空気を取り込みながら周囲を見回す。

 暗すぎて分かりにくいが、水以外無いようだ。つまり海だ。


 やがて、俺が海面に佇んでいると遠くで何かが浮かび上がってきた。

 俺がそれに近付く為に泳ごうとすると別の場所でまた何かが浮かび上がってきた。


 動きを止めた俺はどんどん浮かび上がる頻度を上げていく様々な形の物体を見つめていた。


 暫くそうしていると、俺の目の前に謎の物体が浮かび上がってきた。


 それは生物だった。


 人間だ。


 見覚えがあるが特別な記憶では無い。


 この人間は俺が喰った盗賊だった。


 なぜ喰った筈の人間が……?


 それを考える間も無く、浮かび上がる頻度と数を加速させて行く目の前の悍ましい光景に目が移った。

 悍ましい光景──目の前で浮かび上がる謎の物体は、全て生物だった。

 しかも全て俺が喰った生物だ。人間以外の生物の見た目なんか区別がつかないが俺には分かる。こいつらは俺が喰った奴らだと。


 ここは俺が喰った生物達──奪われたモノ達の墓場であり、俺の精神世界なのだ。

 こいつらが俺の精神世界に存在している理由は、俺の血肉になり俺の一部になったからだろう。 それとこいつらを喰った事により、俺の精神に影響を与えているのもあるだろう。


 俺はここでやっと俺を蝕む多数の意思の正体が分かった。


 やがて死骸のような様子の生物達に囲まれ、前後左右への身動きを封じられた俺は生物達の中でどうする事もなく、ただただ佇んでいた。


 すると、何の前触れもなく俺の腕が掴まれた。


 驚き視線を腕にやるが、水中へ浸かっている腕は生物達の体に阻まれて何も見えない。【透視】スキルを使おうとするが発動しない。


 そうこうしている間に俺の体は、あらゆる箇所が掴まれていく


 振り払おうと、重い体をジタバタさせていると目の前の生物が顔を上げた。

 死骸のように浮かんでいた生物の様相は至って普通だった。


 それを皮切りに、周囲の生物がどんどん活動を始める。といっても、全員が全員、俺の方へと、前にいる生物を押し潰し、津波のように押し掛けてくるだけだった。


 身動きの取れない俺は簡単に生物の津波に呑み込まれた。




 生物の塊の中で揉みくちゃにされていた俺は生物達を押し退け、一旦水中へ潜った。

 それから海中を移動し、生物達から距離をとってから上へと向かって生物の塊から脱出する事が出来た。


 海中から顔を出した時には、周囲は激しく変遷し、移ろいつつあった。


 暗く黒い海はだんだん干からびていく。




 やがて完全に消滅した海の代わりに、空から微細な光と共に細い糸が目の前に垂れてきた。


 微細な光に照らされて分かったのだが、俺の全身には赤い液体がベットリと付着していた。



 これは──血だ。血液だ。



 誰のだ? ……俺のじゃない。


 周りの生物か? ……見た感じどいつも怪我をしていない。


 じゃあ何だ……?



 ふと視線を下へ向けると、僅かに残った暗く黒い海の海水が、糸を照らす微細な光に照らされ、赤黒く煌めいていた。



 理解した。



 暗く黒い海は、血の海だったんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ