第97話 ティアネーの森の異形(後編)
度々この空間にやってくる少数の生物を認知しながら、いつものように座り込み、なぜ大勢が来なくなったかを考える。
今日はこの生物がいつもより近付いてきている。
生物はある拓けた場所に少し留まる。
すると、突然その生物の近くにもう一体の生物が現れる。
キメラは驚いた。 自分の侵食に関知される事なく突然出現したもう一体の生物に。
二体は暫くその場で止まり、唐突に激しく動き出した。
自分と感覚を共有している地面の痛みを味わいながら、キメラは必死に二体の動きを把握しようと励む。
なぜか木々の感覚がなくなってしまったので、感じられるのは地面の感覚だけだ。 だから二体の動きをかなり意識しないと把握し難かった。
暫くすると地面を少しずつ抉る力の奔流が迸った後に、突然現れた方の生物が先に動かなくなった。
そして
度々やってくる生物が突然現れた方に取り込まれた。そして、取り込んだ方の生物は地面から突然消えた。
侵食された地面から伝わる感触ではそうとしか捉えられなかったのだ。
そしてキメラは思考が停止した。
自分の心地よい空間がどんどん破壊されていくのだ。侵食の感触ではどんな生物も反応がないのに。
キメラは放心していた。自分の心地よい空間が、縄張りが一瞬で消滅した事に。
暫くして、放心から立ち直ったキメラは立ち上がる。
──自分の心地よい空間を消滅させたであろうあの者を探す為に。
──そしてその者に復讐する為に。
キメラは元々醜かった顔を更に醜く歪めて、憎しみを孕んだ目付きで空を睨んだ。