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第92話 ラモン1

 俺はラモンだ。


 幼い頃に家族を強盗に奪われ、つい最近まで孤児院で過ごしていた。

 家族がどうなったのかは知らない。どこかで殺されたのか、売られて奴隷にされているのか。


 ──強くなって、俺から家族を奪った強盗を殺すんだ。


 ──家族が売り払われていた場合、家族を買い戻す為に金が欲しい。


 そんな理由から俺は強さと金が欲しい。 ……願わくば平和な日常も欲しい。



 でも、俺の目標は遠く険しかった。俺は強くも無いし、金も無い。


 俺は、俺の目的を達成する為、魔法を学び戦力を増強したかった。

 孤児院から出て、魔法学校に通うことになった。


 その際に俺の母代わりのような人──エマさんと喧嘩した。


『家族の為に行動するのはいい事だと思うけど、その為に貴方が手を汚す事が……私……凄く悲しいの。ラモン君……私じゃダメかな? ……私じゃ貴方の家族にはなれないかな……?』


 心の底から俺の不幸を嘆き、俺の幸せを希うエマさんを俺は簡単に突き放した。


『…エマさんには感謝してるけど、あんたは俺の家族じゃねぇ。どれだけ俺に尽くしてもそれは変わらねぇ。俺の家族はあの人達だけなんだ』


 俺がキッパリと切り捨てるとエマさんは俯いて言った。


『そう……分かった……ごめんなさい』


 そう言うエマさんは酷く痛々しかった。

 この人は赤ん坊の時に捨てられ、本物の家族の温もりを感じる事が無いままこの孤児院で過ごし、ここで働き始めたらしい。


 後で、エマさんの同僚に聞いた話では、働き始めたエマさんが最初に接した孤児が俺だったらしい。


 俺はエマさんの特別になり得る存在だったのだろう。エマさんは仮の家族でもいいから家族を味わいたかったのだろう。



 その後は地元を出て、王都の学校に通い始めた俺は、試験の時にできた友達と冒険者をすることになった。


 冒険者になってからは良かった。

 強くなれるし、金も手に入る。俺は現状に納得し、更に上を目指した。


 だが、強さは足りないし……金も、自分の生活も儘ならない程だ。孤児院からの微細な支援でなんとか食い繋げている。



 ──皆と一緒に強くなりたい。



 そう思い始めた矢先だった。ガレットと喧嘩したのは。


 様子がおかしいティアネーの森に気付くと、ガレットが言った。


「今日は別れて行動しない方がよさそうだな。そして、気配のする方向には近付かないようにしよう」


 尤もな意見だが俺は納得出来なかった。


 ラウラとエリーゼがガレットに賛同するなか、アデルが言う。


「そうだね。でも、もし強力な魔物だったら被害が出るかも知れない。どうにかボク達で対処できないかな?」


 俺は誰も反対しないのなら俺がアデルのような事を言っていただろう。


 そして俺はアデルに賛同した。



 今思えば俺は馬鹿だった。レベルアップと金に目が眩み、現実が見えていなかった。


 普通に考えればガレットが正しいのだ。


 でも俺は慢心していた。弱い魔物を沢山倒して。アキがいるから危なくてもなんとかなると。


「どうしてだ? ラモン」

「…そんなの決まってるだろ。強力な魔物が他の魔物を殺しちまったら俺の狩る分が減っちまうからだ」


 明らかに俺が悪い。言い方も。思考も。


「ラモン。そう言う冗談は面白くないし、褒められたものじゃないぞ」

「…冗談じゃねぇよ。俺は本気だ」


 だが、自分の慢心と強欲に気付けなかった俺は本気だった。


「ラモン……お前には道徳が足りないようだな」

「…はっ、俺はお前達貴族と違って金に困ってんだ。そんな状況で他人の事を考えられるわけねぇだろ?」


 道徳が足りない。と言う言葉に過剰に反応した俺は、自分の醜い側面を晒した。


「ラモン。俺はお前がそんなつまらない人間だとは思わなかった」

「…お前程賢いなら平民である俺の暮らしも理解してくれると思ってたんだけどなぁ……」


 相も変わらず無意味な罵り合い。それを終わらせたのはガレットだった。


「ふん。話が逸れたな。俺は強力な魔物に出会さないようにするべきだと思っている。何なら、今日の魔物討伐は中止でも良い」

「…それこそ論外だぜ。金も稼がず一日を無駄に過ごすだぁ? ふざけんじゃねぇぞ……! ……はっ、もういい。お前らが俺の事を理解しねぇってのなら俺は一人で行く」


 頭に血がのぼりきっていた俺は自棄になってとんでも無いことを言った。


「…アデルはどうすんだ? 来んのか? あの強い奴をなんとかしてぇんだろ?」


 目的の全く違う人間を唆す。こんな事は友達にすることじゃない。


「……ボ……ボク……は……」

「…」

「……行きたい……だけど……ボクとラモンじゃ……絶対に……敵わないよ……」

「…そうかよ」


 俺は冷静に返事をして一人で森へ歩いていった。


 眼前のティアネーの森が俺を招き入れるようにアーチを、門を開いているように見えた。






 ──長く感じられる一瞬の間に色んな思い出が脳裏を過っていた。




 ズタボロになって仰向けで大の字に倒れている俺に迫り来る異形。


 ザーザーと音を立てて降り頻る大雨に打たれながら俺は首を傾ける。


 そこには顔に後悔と焦燥を浮かべ、涙を滲ませているガレットがいた。


 いや、涙などではなくただの雨だったのかも知れない。

 でも、俺的には涙だと思いたい。最期に喧嘩なんかしたけど、でも俺の死を悲しんでいて欲しい。


 必死に手を伸ばして叫ぶガレットを見ながら俺は思っていた。

暫く物語が進みません。

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