第90話 アデル 1
ボクは普通の平民だ。
でも、ある日突然頭の中に声が響いてボクに告げた。
『貴女は今日から勇者です。貴女の役目はこの世界に現れる魔王を倒す事です』
声は簡潔にそう告げてからはもう一切聞こえなくなった。
呆然としていたボクが再び呼び掛けても、再び聞こえる事は無かった。
その後ボクがステータスを見ると、今まで何も無かった称号の欄に『勇者』とだけ書かれていた。
その日を境にボクは普通の平民では無くなった。
勇者の役目を押し付けられたボクはこの事を誰にも言わずに一人で鍛練をした。
みるみるうちに上がっていくスキルに、簡単に覚えられるようになった魔法。
それはボクが勇者になってから得た固有能力『成長速度倍加』のお陰だろう。
因みにこの固有能力でボクの体は成長しなかった……
魔法を学ぶ為に幼馴染と魔法学校に通うことになった。
この幼馴染は勇者と共に生まれると言われている『賢者』だ。でも、呪われているみたい。
入学早々ボクは白いローブの人達に呆気なく人質にされた。
勇者なのに情けないな。
どうやら白いローブの人達はアキ・クドウと言う人を探しいているようだった。
ボクはその名前に聞き覚えがあった。
数日前、見も知らない不良にカツアゲされていたボクを赤髪の女性と助けてくれた人の名前だ。
やがて校舎からあの時のクドウさんがやってきてあっという間に白いローブの人達を拘束してしまった。
ボクなんかよりこの人が勇者をやるべきだろうと思う。
ボクは落ち着いたところを見計らってクドウさんに話しかけに言った。
クドウさんは驚いたような顔をしていた。
クドウさんは先輩だった。なのに敬語を使わなくて良いって言ってくれた。優しい。
でも、クドウさんはボクの事を男の子だと思っていたらしい。
なぜかたまに間違われるから慣れてたつもりなんだけど、クドウさんに言われると泣いてしまうほど悲しかった。
お陰でクドウさんを困らせてしまった。ボクは助けて貰った立場なのに更に迷惑をかけてしまった。でも、クドウさんは許してくれた。やっぱり優しい。
その後は赤髪の女性がフレイアさんと言うらしい事や幼馴染のクルトがボクの為にクドウさんに言ってくれた事や、ラモンとガレットとラウラとエリーゼと友達になったりした。
その後はクドウさん達と一緒に冒険者登録してクエストを受けた。
始めて魔物と戦ったけど、思ったより難しくなかった。それどころか、どんどん倒せた。
ボクは勇者なんだからもっと強くならないと、と思っていたからかも知れない。
クルトもボクと同じようで、頑張って魔物を倒していた。
それからは何事も無く、平和な日々が続いた。
学校で授業を受けて、放課後はレベルアップして……
それからパーティーも結成した。クドウさんがリーダーだ。
クドウさんとフレイアさんが学校をサボって二人で何処かへ行っていた時は胸が凄く苦しかった。 切なくて、心配で。
…………まぁ、とにかくボクはみんなと頼もしい日々を過ごしていた。
魔王を倒すと言う使命を忘れずに。
ボクはいつか皆と離れてクルトと魔王を倒しに行くんだ。
その道中は厳しいものになるだろう。
悪天候を行き、悪路を行き、魔王の配下と戦い、そして魔王と戦う。生きて帰れるかは分からない。
だから今の内に皆との楽しい思い出を作っておくんだ。