第9話 確実に
「ヤバイ! クソッ!」
僕は悪態を吐きながらコボルトに向かって走り出す。
僕はこいつが何をしようとしているのかを察し必死に走る。
──体力回復
今のこの状況で回復なんかされたら、ただでさえ希薄な勝ち筋がもっと薄れてしまう。
それだけは避けたい。
僕は勢いに身を任してコボルトに跳び蹴りをかます。
が、遅かったみたいだ。
コボルトは蹴り跳ばされたというのに余裕の笑みを浮かべた。
僕はこの笑みを知っている。
この笑みは抵抗できない者を見て喜ぶクズ──テントラが浮かべていた笑みだ。
尤も、テントラの笑みはこんなに軽いモノでなく、もっともっとどす黒い笑みだったけど。
「なにニヤニヤしてんだよ……!」
コボルトを睨み付けながらそう言う。
人との会話じゃなければスラスラ言葉がでてくるな。
そんな事を考える余裕があるほど僕の思考には余裕があった。
こいつがテントラと同じクズで良かった。
躊躇い無く殺れる。
僕はコボルトに向かって使い物にならない腕をぶら下げ、走り出す。
コボルトに向かって飛び掛かる。
コボルトは跳び蹴りだと思っただろう。実際に棍棒を翳して防御する姿勢を取っている。
しかし、僕は蹴らない、殴らない。
体を──全身を液状に変形させてコボルトの口から、鼻から、耳から入り込み窒息死させるんだ。
確実に……手っ取り早くこいつの命を摘み取るために。
何故今までこうしなかったかと言うと、いくら相手から襲ってきたからと言えど、僕の……僕が生きるためなんて自己中心的な理由で殺す事になる生き物を、窒息死なんて言う苦痛を与える殺し方をするのはどうなんだ。 ……と言う僕なりの良心からだ。
でもこいつは別だテントラと同じクズの笑みを浮かべていた。
こんな奴に慈悲はいらない。
どんな方法でもいいから確実に殺す。
"レベルアップしました"
僕はコボルトの体から抜け出してステータスを確認した。