第89話 一人
「ラモン。俺はお前がそんなつまらない人間だとは思わなかった」
「…お前程賢いなら平民である俺の暮らしも理解してくれると思ってたんだけどなぁ…」
嫌みの言い合い。
「ふん。話が逸れたな。俺は強力な魔物に出会さないようにするべきだと思っている。何なら、今日の魔物討伐は中止でも良い」
「…それこそ論外だぜ。金も稼がず一日を無駄に過ごすだぁ? ふざけんじゃねぇぞ……! ……はっ、もういい。お前らが俺の事を理解しねぇってのなら俺は一人で行く」
ラモンは一際不快そうな顔をすると、鼻で笑って一人で行くと言う。
「…アデルはどうすんだ? 来んのか? あの強い奴をなんとかしてぇんだろ?」
「……ボ……ボク……は……」
「…」
「……行きたい……だけど……ボクとラモンじゃ……絶対に……敵わないよ……」
「…そうかよ」
色んな気持ちと、自分とラモンだけじゃどうにもできないと言う確信が混濁して、曖昧な事を言うアデルを放ってラモンは森へ……気配のする方へ歩いていく。
この場にいる全員の気持ちを表すかのように、空は今にも雨が降りだしそうなほど曇っていた。
誰も喋らず、誰も動かず、ただただ時間が過ぎていく。
数粒の雨粒が皮膚を濡らし始める。
小雨が降り始めてからラモンが歩いていった方へ、焦ったような、思い詰めたような顔をしてガレットが走っていった。
「あ、あ、ま、待って下さい!」
ガレットを追いかけて、我に帰ったラウラが走り出す。
「ちょ、ちょっとラウラさん!? 危ないですわ!」
そんなガレットとラウラに触発されてエリーゼも後を追う。
「行かなくていいの? アデル。」
「……だって……でも……ボク達じゃ敵いそうにないよ……」
「大丈夫だよアデル。クドウさんがいる」
そう言って、クルトとアデルが視線を向けた先にいる男はフレイアに顔を覗き込まれ、肩を揺すられながら俯いていた。
「クドウさん! ガレット達行っちゃったし早く追いかけるわよ?」
「…………」
男は俯いたまま返事をしない。
「……どうしたんだろう。クドウさん」
「もしかして怒ってたりとか……?」
首を傾げるアデルに不安に思うクルト。
「クドウさん。行くわよ!」
フレイアは必死に呼び掛け続ける。
「……俺達も様子を見に行こう」
「……うん」
未だ決心がつかず時間稼ぎをするアデル。
そんなアデルを見て悲しそうな顔をするクルト。
フレイアと男の側まで来た二人はフレイアと同様に呼び掛け始める。
「クドウさん?」
「クドウさん?」
「クドウさん?」