第85話 心配する教師
「クドウ君!」
ナタリアはそう言って突然抱き付いてきた。
…………は?
俺はナタリアの腕から脱出して状況を確認する。
俺を玄関まで案内してくれたメイドさんが振り向きながら石像と化している。そりゃそうだろう。教師が生徒に抱き付いているんだから。
メイドさんは俺の視線に気付くとペコリと御辞儀して足早に去っていった。
一方ナタリアは涙ぐみながら安心したように微笑んでいた。本当になんなんだ?
「何しに来たんですか?」
「え……クドウ君が敬語を……!?」
今はそう言う気分なんだよ。
「そんな事より何しに来たんですか?」
「え、あー……えっと先生はクドウ君の安否を確認しに来たんです。今朝の話し合いで、『テイネブリス教団を壊滅させる』って出ていって、授業にも出ないし……本当に行っちゃったんじゃ無いかって、心配で来ちゃいました……それで……その……クドウ君が無事なのが分かって思わず抱き付いちゃいました。ごめんなさい」
そう言う事か。叱られるかもとは思っていたが、まさか俺の心配をしてくれてたなんて……いい教師だな。
「あぁ。なるほど。安心して下さい。ちゃんと無傷で壊滅させて来ましたから」
「そう……よかったぁ………………って……え?……壊滅させた……?……冗談よね……?」
「丁度良かった。先生が衛兵にコレを渡しておいて下さい」
俺はそう言ってアイテムボックスからテイネブリス教徒の亡骸を取り出す。
俺みたいな子供が人間の死体を持っていってもややこしい事になるだけだ。それなら大人であるナタリアが持って行った方が良いだろう。
「くくく、クドウ君!? こ、こ、この人達は一体!?」
「テイネブリス教徒ですよ」
「ま、まま、ま、まさか本当に!?」
俺は頷く。
「クドウ君……今から一緒に衛兵の詰所まで行きますよ」
「嫌ですよ。もう夜ですし」
「なに悠長な事を言ってるんですか! これは早く衛兵に報告しないといけませんよ!」
「……はぁ……分かりましたよ」
俺は近くのメイドさんに外出する事を告げてからナタリアと共に衛兵の詰所へ向かった。
俺は今詰所のなかにいた。
「それで? そこの子が一人でこの人数を殺害したと?」
「はい。彼が話すには自分でやったと……」
衛兵の訝しげな視線を受け、ナタリアは答えた。
「ふーむ……本当に君がやったんだね?」
「あぁ」
その後も問答は続いていき、結局後日また呼び出すと言う事になった。
あの男子生徒を黙らすためだから仕方ないが、とても面倒臭い。
ナタリアと別れた俺は屋敷に戻る。
「ただいま」
「おかえりなさいませ。もうすぐ夕食ができますよ」
「分かりました」
それからはいつもと変わらない夜を過ごした。