第81話 それぞれの食事
洞窟の前にフレイアを横たえて目覚めるのを待つ。
フレイアが目覚める前に喰っておくか。
そう思った俺は場所を移して、洞窟内で殺したアンデッドを取り出す。
そして俺は徐に噛み付いた。
【悪食】のお陰で難なく飲み込める。まぁそれ以前にこいつらよりも気色悪い物を沢山喰って来た。今更アンデッドごときで躊躇う訳がない。
アンデッドを喰らい尽くした俺は次にテイネブリス教徒を半数だけ取り出す。取り出さなかった半数はテイネブリス教団を殲滅した証拠にする。
言い忘れてたけど、フレイアが殺した分はフレイアが持っている。俺が持ってても、俺が殺した奴じゃないと【強奪】スキルの役には立たないしな。
俺は自分の全身を変形させる。形状はとにかく滅茶苦茶に。出来るだけ自分で自分が人間だと理解出来ない程にする。
そして俺は忌避感に苛まれながら、死体の数だけある口で一気に死体を咀嚼した。
人間の姿に戻った俺は最悪な気分でフレイアを横たえた場所へ戻ってきた。
気分が悪いのでこの記憶を消してしまいたいが、そう言う訳にはいかない。
この苦しみを乗り越えたら、俺はまた一歩前に進めると思うからだ。
どこへ向かっているのかは分からないが、それでも俺は多数の意思に従って進み続けるのだ。
やがて沈んだ気分もだんだん晴れてきた頃、フレイアが目を覚ました。
「ん……あ……れ……? ここは……?」
「テイネブリス教団が住み着いてた洞窟の前だ」
「……そう……あっそうだ! テイネブリス教団! 早く倒しに行かないと!」
「安心しろ。お前が寝てる間に俺が片付けておいた」
「……え?」
「お前がいきなり寝るから俺が一人でやったんだ」
「そ、そうだったのね……ごめんなさい……迷惑かけちゃったみたいで……」
「……いや、別にいい。さて、帰ろうか」
「……そうね。帰りましょう」
フレイアを騙して帰宅するよう促す。記憶を封印しているとは言え、なるべく余計な思考の隙を与えないようにだ。
俺はフレイアを抱えて王都の噴水広場を目指す。時間的に後一時間ぐらいで集合時間だろう。
あぁ、フレイアは昼飯を食べて無いのでどこかで食べないとな。俺はもう要らない。
王都にあるとあるレストランへやって来た。フレイアはミートソースらしい物がかかったスパゲッティを注文していた。俺はお腹が空いてないと言って何も注文していない。
「あんなに動き回ってたのにお腹空いてないの?」
「あぁ。何でだろうな?」
フレイアの疑問に誤魔化しながら答える。
俺は退屈なので窓の外を見る。そこでは大勢の人間が歩いていた。
暇なので俺はその人混みを見ていた。
すると、見覚えのある懐かしい雰囲気の顔が四つ歩いていた。
二人の男と、二人の女。その四人は家族なのだろう。仲良く話しながら歩いていた。
ここは異世界だ。それに俺はまだこの世界に来て間もないのだから、懐かしさを感じる人物などいるはずがない。
なのに何故か俺はその家族に懐かしさを覚えていた。
俺はその家族をどこかでチラリと見ただけの赤の他人だと思う事にして視線を移した。
あまり深く考えない方がいいような気がしたのだ。
暫くしてフォークを置いた音がした。
俺はその方向を見る。
「ふぅ。お腹いっぱい」
フレイアが水を飲み干してから間抜けな状態でそう溢す。
「……口のまわりにソース付いてるぞ」
「え!」
フレイアは急いで口を拭く。
「取れた?」
「あぁ」
俺は席を立つ。
「さて、そろそろ集合時間だし行こうか」
「あーそうだったわね。今日は色々あったから忘れてたわ」
フレイアが会計をするのを俺は側で待つ。店員がマジかよこいつ……見たいな目で俺を一瞬見ていたが、俺は食っていないのだから別にいいだろう。
フレイアの会計を見届けた俺はフレイアを連れて噴水広場へ向かった。