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第80話 死者の祈り

 テイネブリス教団の本拠地は、王都から少し離れた森の中にある洞窟だった。

 ティアネーの森ではない。


「ここか」

「……そうみたいね」

「どうした?」


 フレイアの顔色が悪い。もしかして酔っているのだろうか?揺れないように飛んだつもりだったんだけどな。


「いえ、ちょっと、緊張しちゃって……」

「え? 路地裏の不良相手に物怖じしなかったのにか?」

「……そうだけど、今は敵の規模が全く違うじゃない」

「それもそうだな。 ……じゃあお前が落ち着くまで待っててやるよ」

「……ごめんなさい。クドウさん」

「……言っとくけどお前の為を思ってじゃないからな。 ただ戦闘中に足を引っ張られたくないだけだ」


 教団との戦闘中にフラフラされたらそれをカバーするのは俺だ。そんなの迷惑極まりない。しっかり休んで貰おう。




 それから数分後、フレイアの緊張はいくらかマシになったようだ。


「待たせてごめんなさい。そろそろ大丈夫よ」

「よし。じゃあ行くぞ。 ……あ、そうだフレイア。お前、血とか見るのは大丈夫なのか?」

「……えぇ大丈夫よ……そんなの散々見てきたわ」

「……あぁ……そうか」


 亡国の王女相手に、今のは失言だったか。


「じゃあ。行くぞ」


 俺は気を取り直してフレイアと突撃した。

 人殺しなんて目立った事をするのなら認識阻害は意味を成さない。だから正面突破だ。

 この洞窟の入口はここしかないので逃げられる心配もない。


「な、なんだ!? うわぁっ!」

「敵だぁぁぁ!! ……ぐふっ……!」


 見張りの絶叫を聞き付けて他の教徒が暗闇の奥から武装してやって来た。


「貴様ら! 自分が何をしているか理解しているのか!?」


 何か喚いているが、時間は限られているので無視する。会話をしている暇は無いのだ。





 洞窟の入口付近の教徒は片付いた。

 俺は土魔法で洞窟の入口を塞ぎ、光魔法で周りを照らす。壁に松明が刺さっているが、それでも光魔法で照らす。

 敵地にあるものなど信用出来ない。もしかしたら松明を設置したやつの合図で炎が消えたりするかも知れない。


 俺達はその後も教徒を始末していった。邪神の使徒とやらを倒したフレイアも難なく戦えていた。


 洞窟は蟻の巣のように多数の部屋があり、分岐がそこそこ多かった。しかし【探知】の前には無意味だった。




しっかり死体も回収しつつ進み続けていると、リーダーがいると思われる一番広い部屋の前にたどり着いた。【探知】でこの部屋に人が集まってるのも、部屋が広いのも全て把握済みだ。


 俺は大きな扉を開ける。

 その部屋は洞窟内だと言うのに、普通の教会のような内装だったが、明らかに異常だった。






 ()()()()()が座っている長椅子は埃を被りながらも、とても規則正しく並んでいた。


 なぜか俺は生きた死体達に、オリヴィアと似たような……貴族の気品を感じていた。 気品が感じられないのもいるが。


 部屋の奥にある巨大で色とりどりなステンドグラスは太陽光ではなく、巨大なシャンデリアの明かりで色を映している。


 その神聖さが微塵も感じられないステンドグラスの下で、ボロボロのローブを着ている、生きた()()()()が祈るように掌を組んで血の涙を流している。



 俺はその異様な光景に絶句していた。



 どれくらい立ち止まっていただろうか。気を取り戻した俺はフレイアの様子を確認する。


 フレイアは膝を震わせ、口を手で押さえて涙を堪えていた。


 そんなあからさまに怯えるフレイアが哀れだと思ったので【威圧】スキルを使ってフレイアを気絶させた。


 普通なら威圧スキルなんかで気絶したりしないのだが、今のフレイアは精神状態があまりにも酷かったので気絶するまでに至ってしまった。


 俺は気絶したフレイアの記憶を封印する。

 使用したスキルは【記憶封印】だ。このスキルはその該当する記憶を思い出せなくするスキルだ。

 ……よくある、思い出せそうで思い出せないと言う状態になる。


 なにかの拍子に封印が解ける可能性があるが、【記憶消去】を使う事による記憶の欠如に気付かれ、執拗に問い詰められるよりは良いだろう。



 ……フレイアが目覚めるまでにここから去ろう。



 俺は微動だにしない不死者(アンデッド)達の核を貫いていく。

 本当に気味が悪いな。仲間が殺されていると言うのに誰一人動かず祈るのを止めない。


 全てのアンデッドの核を破壊してから死体を回収した俺は生き残りが居ないかを確認してからフレイアを抱き抱えて洞窟を出た。

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