第70話 知らないなら仕方ない
「……どうしてだい?」
「その生徒が居ると、また襲撃されるかも知れないからです」
たしかにその通りだ。テイネブリス教の奴らは報復に来たんだ。それを成し遂げられなかったのなら、また来るだろう。しかも俺の顔を知らない様子だったので誰かが巻き込まれるかも知れない。 それに人質にされたりも……
まぁだからと言っておとなしく退学になってやるつもりはない。
「うーん。取り敢えずこんな話は大勢の前でする事ではありません。放課後、校長室に来て下さい。いいですか?」
「そうですね。分かりました」
男子生徒は席に座る。
それで集会は終わり教室に戻った。
「えー校長先生も言っていた通り、テイネブリス教の方が貴方達に危害を加える可能性があるので、夜間外出は控えてなるべく人通りが多いところを通るようにしてください」
『はい』
クラスメイトはナタリアの注意に声を揃えて返事する。
そこからは何事も無く授業を終えていく。
ただ、校内を歩いていると一斉に視線を向けられる事は問題だった。
「クドウくん。ちょっと」
放課後、俺が帰る準備をしていると、ナタリアは誰にも聞かれないように俺の近くに来て手招きをする。
案内されたのは校長室。なんだろう。
コンコンコン
「失礼します」
ナタリアはノックをして入る。
中に居たのは一人の男子生徒とリサンドラだった。
「座ってください」
リサンドラは手でソファーを指す。
「えっとクドウくん。朝の集会時に、貴方を退学にしろって言う生徒が居たのを覚えていますか?」
「覚えてる」
「その事についてその生徒と話し合いをね」
「はぁ……」
面倒臭いな。俺は冒険者活動をする予定があると言うのに。
厄介事は愉快だから起こって欲しいけど、俺の予定の妨げになる厄介事は不愉快だ。
机の向こう側にはさっきの男子生徒が椅子に座っている。
「貴方がテイネブリス教徒に狙われている生徒ですか?」
「あぁそうだ。俺は予定があるんだ。早くしてくれ」
「そうですか。では、単刀直入に言うと……貴方は学校を辞めて下さい」
「断る」
「……その理由は?」
「これから俺の学校生活が面白くなるかも知れないからだ」
テイネブリス教団とか言う面白いのが絡んで来てくれたんだ。
こんな面白いのを見逃す訳がない。
「……? 貴方が辞めてくれないと、他の生徒にも被害が及ぶかも知れないんです」
「……お前はなぜ俺がテイネブリス教団に狙われているか理解しているか?」
「えぇ。貴方がテイネブリス教団が行っていた儀式を邪魔したからですよね?」
「それがなんの儀式か知ってるか?」
「……いえ、知らないです」
「邪神復活の儀式だ」
「な…!? じゃ、邪神!?」
知らないのも無理ない。
リサンドラは集会では儀式、としか言ってないからだ。
「そうだ。それが妨害されていなかったら、今頃王都はどうなっていただろうな? この学校の生徒より被害が出てただろうな。つまり俺は感謝されこそすれ、責められる謂れはない」
「そ、そ、それは……! い、いや、で、でも……!」
「まともに思考出来なくなったみたいだから俺はもう行くぞ」
「「え? ちょっと待……」」
リサンドラとナタリアが言いきる前に俺は校長室を出た。
さぁ早く行かないと。
俺は【探知】を使ってフレイアの気配を探す。
いた。校門に寄り掛かって待っている。
早く行かないと。今日からラモン達も一緒だ。
そう言えばガレットとエリーゼとラウラは来れるのだろうか?