第58話 貴族がこんなところに?
縄をほどかれた者達は様々な行動をとっていた。抱き合っていたり、安堵して地面に座り込んでいたり、泣いていたり、お礼を言いに来たり。
「あ、あの! クドウさん! ありがとうございました!」
「こちらこそ。良い暇潰しになった。ありがとう」
「へ? ひ、暇潰し……?」
「あぁ。暇潰しだ」
「は、はぁ……あ、そうだ。さっきから気になってたんですけど……この間と話し方違いませんか?」
あ、忘れてた。まぁでも……別にラモンにもバレてるんだし、もういいだろう。
「あぁ。こっちが素だ。優しい言葉遣いができなくてすまないな」
「い、いえ。クドウさんはクドウさんです。言葉遣いなんて別に何でもいいですよ」
「そうか」
さて。こいつらどうしようかな。
極度の恐怖から解き放たれたからか、さっきまで縛られていた人達は騒がしく喜びあっている。
俺に人を纏められる程のカリスマ性はない。つまりこいつらを黙らせてさっさと地上に帰る事ができない。
仕方ない。こいつが落ち着くまで待つしかないか。
俺はそう思い胡座をかいて座り込む。
そこに、声が響いた。
「皆さん! 落ち着いて状況を思い出して下さい! ……白いローブの人達の脅威は去りましたが、魔物の脅威はまだ去っていないんですよ!」
その人物の言葉を聞きざわめきは収まった。そして、顔色を青くして怯え出す。
「皆さん。怯える事はありません。幸いここには白いローブ達を倒してくれた方がいます。なので落ち着いて王都へ帰る事ができるでしょう。……ではまず順番に縄梯子を登りましょう」
縄梯子に一番近い者から順番に移動を始める。流石にこの状況で争う余裕はないのか、互いに譲り合って縄梯子を登っていた。
「先程は助けて頂きありがとうございました」
声を上げた人物が声をかけてくる。
「別にいい」
「あの、何かお礼をさせて頂きたいのですが……あっ……申し遅れました。私はリベルト・リュハノフと言います。ミレナリア王国では伯爵と言う地位に就く貴族です」
「へぇ。貴族の事は何一つ知らないから何も分からないな」
「そうでしたか。えっと簡単には言うと、貴族は上から『大公』『公爵』『侯爵』『辺境伯』『伯爵』『子爵』『男爵』『準男爵』『騎士爵』となっていますね。つまり私は丁度真ん中ですね」
「なるほど。で、その貴族様がなんでこんなところに? この世界の騎士は役立たずばかりなのか?」
「ははは……それがですね。噴水広場で夜風に当たっていたらいきなり襲撃されましてね……」
「護衛も付けずに?」
「はは……はい」
どうやらリベルトと名乗る男は間抜けなようだ。………それにしても……リュハノフか。たしかエリーゼもリュハノフと言う名字だった筈だ。
「あんたには娘がいたりするか?」
「……? えぇいますよ。丁度貴方と同じぐらいのエリーゼと言う娘がいます」
どうやら親子のようだ。
エリーゼはしっかりしてそうだったけど、リベルトは違うようだ。じゃあエリーゼは母親に似ているのだろうか。
「そうか。 ……それでお礼だったか?」
「はい。希望などはありますか?」
「ある。俺は今……金欠なんだ。つまり金が欲しい」
「分かりました。屋敷に戻り次第、直ぐに用意します」
「あぁ。じゃあそろそろ地上に上がろうか」
俺達が話している間に、殆どの人が登りきっていた。
「まだ登ってなかったのか? フレイア」
「護衛をおいてノコノコ彷徨かないわよ。普通」
やめてやれ。その言葉はリヴェルトに刺さってしまっている。
リヴェルトは困ったように笑い頭を掻いている。
「フレイアはともかく。なんでラウラまで待ってたんだ?」
「え? ……うーん……よく分からないです!」
「……そうか。 ……まぁとにかく早く行こう」
三人を促し、俺は後から縄梯子を登って地上に出た。
白ローブの亡骸はしっかり回収しておいた。