第56話 即退場
邪神の使徒か。もしそれが本当なら愉快な事になりそうだ。いや、そうでもないか。邪神がこの間の一柱だけとは限らないし。
そんな事を考えてる内に司祭の体の中から、一匹の魔物が現れる。
司祭の体を噛み千切りながら、大きく発達した毛むくじゃらの腕で引き裂きながら。
出てきたのは三メートル位の大きさのゴリラのような魔物だった。
鋭く上向きに尖った下唇から覗く牙。背中から生える四本腕。計六本の腕の肘には鮫のヒレのようなものが。足は短足。しかしその足は筋肉があるのだろう。不自然に盛り上がっていた。
司祭の体から抜けきったゴリラは俺やフレイア、生け贄にされかかっていた人達を見て口を歪めた。
拍子抜けだ。遺跡にいた魔物で言うと二十階前後にいそうなレベルだろう。
まぁ……フレイアの経験値になって貰おう。
「じゃあ適当に弱らせるから止めはまかせたぞフレイア」
「……はぇ!?」
俺はゴリラが死なない程度の強さで殴る。
「ウヴォォォオオオ!?」
突然の激痛にゴリラは絶叫する。
痛みでのたうち回るゴリラをいつものように土の縄で縛り付ける。
「ほらフレイア。早くやれ」
「……えぇ……でも……」
「いいから。このままじゃこいつが可哀想だろ。だから早く遠慮なくやってくれ」
フレイアはほんの少し逡巡して決心したように手に持っていた剣でゴリラの首を斬り落とす。
剣の質が悪いのか何度も斬りつけていた。
「なんかモヤモヤするわ……」
「あっそう」
「むぅ」
強くなったんだからそれで良いだろ?
さて片付いたしそろそろ縛られてる人達を助けにいこうか。
そう思い縛られた人達に近付く。
「援軍を連れてきたぞ!」
……あ……そう言えばそうだったな。こんな奴らがいたな。
「そう言えばいたわね……」
「あぁ……」
フレイアも忘れてたらしい。
白ローブ達は縄梯子を滑るように降りてくる。
地面に足をつけると、壁際で武器を構え油断なく見渡している。
「遅かったな。ここにいたお前の仲間は全員片付けておいたぞ」
「なにっ!?」
先程の司祭と同じように周りを見渡す。
「な……なんてこった……遅かったって言うのか……!?」
「そう言う事だ。……じゃあな」
「……は?」
俺は持っていた氷の剣を投擲する。
氷の剣は弾丸のような速さで飛んでいき、白ローブは腹部を貫かれ、壁に磔にされた。
それを見た他の白ローブ達は激昂し、一斉に俺に攻撃をしようとする。
「よくも仲間を!」
「お前だけは殺す!」
「死ねぇぇぇ!!」
周囲に垂れ下がっている縄梯子のそばから魔法を放とうと手を翳す白ローブ達は、魔法を放つ間もなく俺が投擲した氷の剣に貫かれた。
……今度こそ助けよう。