第50話 ラノベ主人公回避?
「ただいま」
「おかえりなさいませ。クドウ様」
答えてくれたのはこの屋敷で働いている使用人の人だ。
仕事がありますので私はこれで、と言って去っていく。
俺は部屋に戻って買ってきた物をバッグの中にしまう。
アイテムボックスに入れておきたいけど、流石に手ぶらで登校は出来ないだろう。
さて、いい感じに時間も経ったし風呂に行くか。
俺は着替えを持って風呂場に向かう。場所は文房具を買いに行く前にオリヴィア聞いておいたので問題ない。
久しぶりに風呂に入るからか俺は自然と頬や気が緩むのを感じていた。
脱衣所には籠が幾つかあった。数人が一気に入る事を想定しているのだろうか。だとしたら結構広いんだろうな。
後、籠が並んだ場所の他に、洗濯する予定の服やタオルを纏めてある籠があった。 一番上には女性物の服と、女性物の下着がある。なんか見覚えがある服な気がするが、そんな事より広い風呂だ。広いと決まった訳ではないが、それでも久しぶりの風呂にワクワクが止まらない。
俺は早々に服を脱ぎ、籠の中に放り込む。
いざ! 異世界の風呂へ!
まず俺の目に入り込んで来たのは湯気だった。
湯気の先には湯船がある。俺は飛び込みたい衝動を押さえてシャワーを探す。
湯気のせいで視界が凄く悪い。
ジャー
俺はシャワーの音を頼りにゆっくりと歩く。
足元が濡れているから滑って転ばないように。
………………あれ、シャワーの音?
俺は目を凝らして前を見る。
……
…………
そこには、シャワーで泡がついた体を流しているフレイアがいた。
……あぁー……どうしようか……
幸いフレイアは俺に気付いていない。
これ叫ばれたらこの屋敷での俺の立場が……
いや、追い出されるか。最悪処刑もありえる。
落ち着け。落ち着けよ。
安全にやり過ごすには無駄に動かず、気付かれないように隠れろ。
【認識阻害】を使い、姿を隠す。
しかし、俺はこれだけで安心はしないぞ。
もし、何らかの事故で叫ばれてもいいように風呂場と、一応脱衣所を【遮音空間】のスキルで覆っておく。
これで完璧だ。後はバレないよう、じっとしてフレイアがここを出ていくまで上手くやり過ごすだけだ。
しかし、この湯気の中だ。一瞬でも見失ったらぶつかるなどの不意打ちを食らってバレてしまうかも知れない。決してフレイアから目を離せない。決して目に焼き付けようとか、この状況を楽しんでいたりはしていない。
フレイアがシャワーを止めて髪をかきあげた。
そのとき飛んだ滴が俺の目の中に入り込む。俺は声を出さないよう堪えて、目を擦る。
見えてても不意打ちを食らってしまった。
フレイアはそんな俺に気付かず呑気に湯船に浸かる。
ふぅー。 とため息をつき、ぐぅーっと伸びをする。
フレイアのすらりと伸びた肢体がとても強調されている。 うーん……いいな。
俺は気を抜かずに姿勢を低くして構えていた。
風呂場と言うまったりする場所でこんなに神経を研ぎ澄ましているのは酷く場違いだろう。
が、それからは特に何も無かった。
フレイアは湯船からあがり、扉へ向かって歩きだす。
ゆっくり扉の前から移動する。 この風呂場は広いのでぶつかったりせず、無事に道を譲れた。
よかった。無事に隠密ミッションクリアだ。波のように襲い掛かる安堵感に浸りながら、俺は少し時間を空けてからシャワーを手に取った。