第353話 勇者vs魔王
「うーん、みんなテンション低いね? せっかく僕が見事な復活を遂げたって言うのにさぁ……もっと喜んでくれてもいいんじゃないかな? ……まぁいいや……さて、一瞬で君達のお仲間さんが二人も死んじゃったわけだけど、どうかな、どうなのかな? どんな気持ちなのかな? 大切な仲間が死んじゃうってどんな気持ちなの? 教えてよ賢い人ー! そう、例えば賢者とか! ……あぁそうだった、行方不明なんだったね。ごめんね勇者ちゃん。賢者にフラれちゃった酸っぱい思い出を思い出させちゃったね」
ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながら安い挑発をするアルタ。普段のアデルならば無視して冷静に睨み付けていただろうが、今回はわけが違った。……アデルの胸中に深く根付いてしまっているクルトの存在を刺激されたのだ。耐えられるわけがなかった。
「……っ!! ……お前……絶対に赦さない!」
アルタの挑発に怒りを露にして駆け出すアデルはその勢いのままに剣を振り下ろす。精度も技術も何もなく、ただ勢いしか乗っていない出鱈目な一閃は当然容易く躱されてしまい、隙だらけとなったその横腹へと蹴りが放たれる。
「そう言えば、教皇様がいるみたいだね。噂によれば【運命視】なんて大層なスキルを持ってるらしいけど、自分の運命は見たのかな? それとも、見た上でここにいるのかな? ……ねぇねぇ教えてよ。君が見た運命の中で僕はどうなってたの?」
気付けば教皇の目の前にいたアルタは腕を後ろに組んで、教皇の顔を覗き込むようにして尋ねる。先ほどアデルを蹴り飛ばしたはずの男が一瞬でここまで移動し、別の姿勢を取っている。その事実は受け入れ辛いものだった。
そして、アルタの問いへの答えは『不明』だ。教皇が見たのは、自分と他の信者が蹂躙され、そして勇者達と戦闘になるところだけだ。運命を揺るがす『称号持ち』が一ヶ所に集まってしまっているのだから、その先の運命は大きく揺らいでおり、見届ける事ができなかったのだ。
「いつの間にっ……!」
アルタの接近を目で追う事ができずに呆気に取られていたインサニエルは、取り敢えずアルタと教皇との距離を空けさせるためにアルタの腹部へ向かって蹴りを放つも、それは容易く受け止められ、そのまま途轍もない握力で握り締められる。
苦痛に顔を歪ませるインサニエルは懐からナイフを取り出してアルタの頭部を狙って投げつける。先ほどオリアルに殺され続けたせいで配下の命を多く犠牲にしてステータス減少してしまっているために適当に攻撃を受ける事ができないので、やむを得ずインサニエルの足を放してナイフを躱す。
後ろに跳んでインサニエルを未だに見据えるアルタに飛来するのは浮遊する無数の剣だ。四方八方から滝のように降り注ぎ、飛沫のように舞い上がる剣は予測できそうでできない奇妙な軌道でアルタを裂こうと飛び回る。
回避して、受け流して、叩き落として、へし折って、そうして剣を去なし続けるアルタの足元に忍び寄っていた吸命草の蔦は最後まで気付かれる事なく這い寄り、そして足を絡め取って、そのまま宙吊りにする。踏ん張りも聞かず、手足も思うように動かせない。完全なる無防備だ、とっくに腹を蹴られた痛みから立ち直って攻撃の機会を窺っていたアデルは【縮地】のスキルでアルタの肉薄し、納刀していた剣を鞘から抜き放ってそのまま一閃した。
「【一の太刀 刹那】」
呟き、アルタの右腕を斬り落とす。狙った場所は胴体そのものだったが、怒りに視界が歪んで正確に狙いを定められなかった。続けて放つもう一太刀よりも早く怒りによる手元の狂いを直すために気持ちを切り替える。
「【二の太刀 六徳】」
最初の斬撃よりも速い一筋の攻撃は今度こそアルタの胴体を斬り付けた。しかし今度は精密さに意識を集中させすぎたようで威力が足りておらず、上半身と過半数を斬り離すまではできなかった。気持ちを切り替えたと思っていたが、まだ完全には切り替わっていないのだと自覚したアデルは、一度距離を取ってから自分を落ち着かせようと深呼吸をした。
「すげぇ……目で追うのがやっとだ……」
「これが御伽噺の戦いですか……半端じゃないですね……しかもお互いまだ本気じゃないように見えます。これは様子見の小競り合い程度のものなのでしょうね」
「何か手伝いたいけど、私らがこの戦いに混ざっても足手まといにしかならなさそう。見てるしかないのかな……いや、なんなら邪魔にならないように逃げるべきなのかも」
シュレヒト、フレデリカ、モニカが言う。
「すぅ……ふぅ……すぅ……ふぅ…………うん、よし、だいぶ落ち着けた」
「人を斬り裂いておきながら平静を保っておけるなんて酷いなぁ……人間としてなってないよ。君は勇者失格なんじゃないの?」
「悪人を一人斬り裂いただけで一々平静を乱してたら正義なんか振るえないよ。……それに、お前みたいな奴を斬って良心が痛むわけない。お前は今までボクが見てきた悪人の中でも最低最悪のクソ野郎なんだからね。容赦しないよ」
「ふふ、最低最悪のクソ野郎かぁ……うんうん、美人系に罵られるのも良いけど、可愛い系に罵られるのも良いねェ。やっぱあれだよ、ギャップは最高だね」
宙吊り状態で腕を組んでうんうんと頷くアルタに、苦虫を噛み潰したような歪んだ顔をするアデル。心底嫌悪している相手にギャップだなんだと言われてしまえばそんな顔にもなるだろう
「……あ、あなたはどうしてこんな事をするんですか!?」
……と、そこでナタリアがアンドリューから目を離し、アルタに向かって叫ぶように尋ねる。その目尻には涙が浮かんでいる。
それほどアンドリューと関わる機会がなかったとは言え、同じ教師として働いていた人物であり、同じ旅路を歩んできた仲間でもある。それが悪魔のような悪人に体を乗っ取られて他者の意思でアークを殺して、殺されて、死に顔すらも本来のアンドリューのものじゃない。同僚であり仲間のアンドリューが、生徒であり仲間のアークが最悪すぎる末路を辿っているのだから、ナタリアがそうなってしまうのも無理はない。
「どうしてって……そんなの決まってるじゃないか。強くなりたいからだよ。多くの命を葬り去ってレベルを上げるんだ。だから殺せるなら誰でもいいわけなんだよね。……だから、何の恨みがあるんですか! ……なんて言うのはやめてね、僕は僕のために殺してるだけなんだからさ」
「そんな……そんな理由で……人を殺すんですか!?」
「あのさ、君は人殺しに対して過剰反応しているみたいだけど、もしかして人間を特別な存在だと思ってるのかなァ? ……魔物だって同じ命だよ? それなのにどうして魔物が殺されるのは無視して人間が殺されることだけに反応するの? 命は命だ。命に優劣なんかないんだよ」
命に優劣はない。それはアルタが今まで生きてきてよく見て実際に体験してきた事だ。この世界に来る前からの経験だ。
「確かにそうですけど、でもだからって同じ人間同士で争うなんてよくないですよ! 生きるためにお互い手を取り合うべきなのに、強くなるため、なんて理由で人殺しなんかしちゃダメです!」
「生きるため? 生きてどうするのさ。僕達人間が団結して取り組まなきゃいけない事でもあるの?」
「え……い、生きて……どうする……か……?」
生きる意味を問われて言葉に詰まる。生きる意味など考えた言葉などなかった。生きる上で最も必要な事であるはずなのに、考えた事がなかった。生まれた時から意味を持っているわけでもないのに、今まで分からないまま生きてきていた。
「分からない? そうだろうね。生きる意味を持っている人間なんてほんのちょっとしかいないんだから。……で、生きる意味を持ってない君達に生きる資格ってあるのかなァ?」
「……っ! じゃ、じゃああなたはどうなんですか……? 生きる意味を持っているんですか?」
ナタリアは生きる意味に答えられなかったことによる現状を打破しようとアルタに反撃する。
「持ってないからこうして命のやり取りに取り組んでるんじゃないか。生きる資格がないから自分と他人の命を粗末に扱ってるんじゃないか。生きる資格がないって言うのはつまり価値のないものって言うこと……無価値のゴミを丁寧に扱ってやる必要はないからね、粗末に扱っても問題ないわけだよ」
「……おかしい……おかしいですよあなた……! 無価値だって言っても、命じゃないですか! 何よりも尊重されるべきな命じゃないですか! なのにどうしてそれを簡単に奪えるんですか!」
「うーん……命って尊重するほど重要なものだとは思えないんだよね。だってどれだけの命が死んでも、空いた穴を補うように次々と生まれてくるんだよ? それなのに一々命の喪失に嘆いてなんかいられないし、別に貴重でもなんでもなくない? しかも命はこの世界の資源を食い潰して緩やかに破滅に向かっている。何の目的も持たず、ただ生きたいと言うくだらないことのためだけに。……価値なんか完全にないね。それどころか今すぐ絶滅しても良いほどだよ」
やれやれと肩を竦めて言うアルタ。アルタのそんな考えを認めたくないが、何も言い返せないのが事実。誰かが死んでも新しい命が生まれてきて、その喪失がなかったかのように世界は進んで、命が増えて命の価値は落ちていく。生きる意味を持たない自分達が資源を消費して世界を壊していっている。
確かに、無意味な存在が世界に不利益を齎していると考えれば、そんな無意味な存在は生きていていいのかと考えてしまう。寧ろ死ぬべきじゃないのかと。……だけど、そんな残酷で無慈悲で見捨てるような考えには絶対に屈したくなかった。この旅路で誰かと口論をして勝った覚えがないけど、ここで負けを認めてしまえば命の否定に繋がってしまう。だからナタリアは考えもせずに言った。
「あぁもう、うるさい! 生きる価値とか生きる意味とか、そんなのはどうでもいいです! 全ての命は生きるためにあるんです! 生きる意味や資格や目的がなかろうと、何もなくてもひたすら生きるために命はあるんです! 価値なんか関係ないです! 自分が選んだ人生を送って幸せになる、それだけでいいんですよ!」
「……意味も価値もない事をして何になるんだって思うけど、何もなくてもひたすら生きる、かぁ……いいね。生き意地汚くてどうしようもないほどに愚かだけど、無様に足掻く可哀想な姿がとっても可愛いよ、愛してる。……でもまぁ、ここは勇者と魔王が戦う戦場なわけだけだから、巻き添えを食らって死なないように頑張って生き抜いてね?」
そう言うと姿が掻き消えたアルタは、次の瞬間にはナタリアの背後に移動していた。
「おっと、手が滑ったァ」
二人の話し合いを見守っていたアデルとラウラとオリアルは、遅れてアルタへと駆け出したが、間に合わなかった。
嬉しそうで楽しそうで愉しそうなニヤニヤとした笑みを張り付けたアルタは、振り返ろうとするナタリアの背中から腹までを貫く。ナタリアから生えたアルタの手は赤いペンキバケツに浸したかのように真っ赤に染まっている。大聖堂に差し込む光がその手を輝かせている。生々しい赤色と容赦のない残酷さと噎せ返ってしまうほどに濃密な血の香り。
「……ぁ……」
「「ナタリア先生っ!!」」
ナタリアが口から血を吹き出し、駆けるアデルとラウラがそれに叫ぶ。突然の出来事に静まり返っていた大聖堂にはそれがよく響いていた。
「ごめんね、勇者達と戦ってただけなんだけど、手元と頭が狂っちゃって……あぁ、でもさ、ひたすらに生き続けるためにある強かな命がこんな簡単に奪われちゃうなんておかしいよ。やっぱり命には意味とか価値とかがあったみたいだねェ?」
「ぅ……ぁぁ……ぁ……」
「先生から離れろ!」
ナタリアに当ててしまわないように剣を振るうアデルの斬撃を躱すために、アルタはナタリアの腹部から手を引き抜いて飛び退く。足に力が入れられずにそのまま倒れかかったナタリアをラウラが支えて、アイテムボックスから取り出した清潔な布を地面に敷いてゆっくりと……しかし素早く地面に横たえる。
「ラウラ、先生の治療をお願い!」
「はい! 分かってます!」
ラウラが聖魔法の使用を始めたのを見てからアデルはアルタへの攻撃に専念する。
「そんなに怒らないでよ。間違えちゃっただけじゃんか」
「うるさい! もう喋るな!」
「あはは、怖い怖い。せっかく可愛い顔してるんだから笑おうよ、ね?」
怒りを露にしてアルタに次々と斬りかかるアデル。しかし先ほどのように剣筋は鈍っておらず、それどころかとても綺麗な一閃が繰り返し放たれていた。そんなアデルを援護するように周囲には無数の剣が舞っており、的確にアルタを裂こうと踊るように襲い掛かる。
「ラウラさん、私も手伝いますよ!」
「ありがとうございます、お願いします!」
フレデリカがラウラに駆け寄るが、それを阻むように地面から氷の槍が幾つか飛び出した。アルタによるものではない。
「…………」
「おい、レジーナ! なぜ干渉した!? アルタに命令されたわけでもないだろうに、なぜわざわざアルタに加担するんだ!?」
「……もう、殺されたくないんです……」
「そう怒るなナルルース。ほら、レジーナにも色々と都合があるんだろう。……と言っても、どうしたものか。俺達の存在はバレてしまったからもう不干渉ではいられなくなった……かと言って、善人と戦っているアルタに加担したくもないし、なぜ加勢しなかったと後で酷い目に遭わされるのも御免だ……」
大聖堂の入り口に立っているのは氷の女王──レジーナ・グラシアスと、エルフという種族全体の意識を変えようと動くエルサリオンと、秋に謝罪しようと旅をするナルルースだ。
雪山で何度も何度もアルタに殺され続けたレジーナはその恐れからアルタに服従し、アルタのために行動する。それによってレジーナと共に存在が露見したエルサリオンとナルルース。
アルタはそんな三人に気付くと暗い笑みを浮かべて言った。
「あ、丁度いいところに来たね。やっぱり魔王として勇者と戦うのなら配下にも戦わせないとダメだよね。勇者ちゃん達のお仲間さん達も手持ち無沙汰だろうから……うん、本当に丁度いいよ。……レジーナ、エルサリオン、ナルルース、『命令』だ。お前達はそこに突っ立っている勇者の仲間の相手をしておいてくれ」
普段あまり使うことのない【生物支配】の支配下にある生物への命令。支配系統のスキルによって支配されている生物は支配者の命令には決して逆らえない。もし逆らおうものなら全身が焼けて引き裂かれるような苦痛を味わう事になってしまうので、従うしかないのだ。……この苦痛は幻覚のようなものであるために死にはしない。そして、命令されたからと言って勝手に体が動いたりはしない。
「……了解しました、アルタ様」
「これはもうゴチャゴチャ言っている場合じゃないな。死なないとは言え、絶対慣れる事のできない幻覚の痛み……耐えられるはずがない。……すまない、人間の方々。俺達も苦しみたくないんだ、本当にすまない」
「なっ、おい! 待て二人とも! 本当にアルタなんかの命令に従って人間を殺すのか!?」
駆け出すレジーナとエルサリオンに信じられない、と言った様子で叫ぶナルルース。人の気持ちを推し測ることこそ苦手なナルルースだが、最低限の善の心は持ち合わせているために、命令されたとは言え簡単に攻撃するのを躊躇う。だからだろう。ナルルースの全身に痛みが走る。
「あっ!? ぐ……ぁぁぁああああああっ!」
全身が炎に焼かれているかのように熱く、裂かれたかのように痛い。その裂かれたような痛みに焼かれるような痛みが浸透して、痛みが重なって苦痛を加速させる。
耐えきれず膝から崩れ落ちて蹲るナルルースだが、どうしても痛みはおさまらない。
「バカかナルルース! 命令されたんだから従うしかないんだぞ! アルタの命令は「勇者の仲間の相手をしておけ」だ、さっさと相手をしろ! 賢いお前ならこの言葉の意味が分かるだろう!?」
何か含みがあるような言い方で何かを伝えてくるエルサリオンに、痛みで埋め尽くされる頭の片隅でナルルースは思考し、エルサリオンが伝えたかった事を理解した。
「……っ! な、なる……ほど……っ! そう言う、事……か……!」
ナルルースは立ち上がって剣を抜き放ち、近くにいたスカーラとシュレヒトに斬りかかり、その近くではエルサリオンがフレデリカとモニカの二人と戦っており、レジーナがインサニエルとカエクスと戦っている。
「ははっ、普段から命令し慣れていないのが仇になったな、アルタ」
ナルルースは呟いてスカーラの拳撃とシュレヒトの拳撃を受け流し、そして適当に剣を振るう。殺意が籠っていると思わせるために鋭く振るいはするが、狙いは適当だ。
「なんなんですかあなた達は……っ! いきなり現れていきなり襲ってくるなんて……!」
「スカーラの姉御っ、こいつ中々のやり手だぜ……狙いこそ出鱈目だが攻撃自体は研ぎ澄まされてやがる!」
「そう敵対心を剥き出しにしないでいい。私にお前達を殺す気はない。ただ、演技のために少々傷は負わせるが、絶対に殺しはしない」
鋭い眼差しを受けたナルルースは二人にだけ聞こえるように声を小さくして言う。
「あ? どう言うことだ? 殺す気がねぇのに襲ってきたのか?」
「いきなり襲いかかってくる人を信用できわけありません……よっ!」
「……こちらにも事情があってあいつの命令には逆らえないんだ。だが、あいつの下した命令はお前達の相手をしていろ……これだけだ。殺せとは言われていない。……だから、頼む。本当に殺す気はないんだ。私と殺し合いをしているフリをしてくれないか」
そう、アルタは「勇者の仲間の相手をしておけ」とだけしか言っていない。エルサリオンが伝えたかったのはそう言う事だ。アルタが命令し慣れていない事による抜け穴である。
それに第一、もしアルタが「勇者の仲間を殺せ」と言ったとしても、ナルルース達がスカーラ達を殺せない限りは命令に逆らっていると見なされ、全身に痛みが走ってしまうために戦いにならず、殺せないと言う最悪な状況に陥ってしまうので、どうしたってアルタの粗末な命令で強制的にナルルース達にスカーラ達を殺させるのは不可能だったのだ。……だがまぁ、アルタに対して盲目的に忠誠を誓っているレジーナはそれに気付かず本当に殺すつもりで戦っているようだが。
「……こう言ってるけど、どうするよ姉御」
「そうですね……一先ずは様子見をしつつ、ってところですかね。できるのなら平和的にやり過ごしたいですから、この人が殺そうとしてこない限り私達も殺し合いをしているフリをしていましょう」
「おっけー、姉御がそう言うんなら俺もそうするぜ。姉御は俺の命だからな!」
「気持ち悪いですよ、シュレヒトさん」
「はは、二人は仲がいいな。……ありがとう、私の言う事を聞き入れてくれて。おかげで平和的に済ます事ができそうだ。本当にありがとう」
ナルルースとスカーラとシュレヒトの三人がそんなやり取りをしている横で戦っていたエルサリオンも、フレデリカとモニカと同じようなやり取りをしてお互いに殺し合いをしているフリをしていた。
そしてそのさらに向こうでは、レジーナとインサニエルとカエクスが本当に殺し合いをしている。教皇を守るように立ち回るインサニエルとカエクスは、決して滅びない氷の女王に苦戦するしかなかった。下手に攻めれば教皇に攻撃を加えられてしまうから思うように動けない。
しかも周囲の吸命草が凍り付いてしまっているために、レジーナは何度死んでも復活できる環境を整えていた。……死ぬ準備はしているが、そう簡単に死ぬつもりはない。復活するための氷や雪をここに残さず別の場所で復活すれば、後でアルタに地獄を味わわされそうだったから保険としてだ。
「あはははは! これで僕は君達だけに集中できて、君達は仲間の様子を見ながら戦わなくちゃいけなくなったわけだねェ。…………さて、役者は揃ったみたいだし、それじゃあ始めようか。御伽噺で見るような、心踊る勇者対魔王の聖戦を!」