第34話 俺はどっちなのだろうか?
「取り敢えず俺がフレイアを助けたところまで行くぞ」
「はぁ!? 何で呼び捨てなのよ!」
「今更取り繕って"さん"付けしても意味ないし。それにそんな怒る事じゃないだろ」
「う、うるさいわね! ちょっと気になっただけでしょ!」
うるさいのはどっちだか……
まぁ楽しいから良いんだけど。
「あ、ゴブリンどうしようか」
「それなら私がしまっておくわよ」
「は? どこに?」
「【アイテムボックス】でしまっておくわよ。私のステータスを見たなら知ってるでしょ?」
そんなスキルは知らないな。
「Lv1の時空間魔法よ」
「へぇー便利だな」
フレイアはゴブリン死体を掴み、フレイアが出現させた円形をした白い空間に放り込む。
あれだな。白の世界を思い出す。そう言えばまだ白の世界に転移できるのか? もしかしたら神様以外自由に転移できないのかも知れない。後で試してみよう。
「じゃあ行こうか」
「えぇ」
何時もの返事だが間がなくなっている。
取り敢えずほんのちょっとだけ良好な関係を築けたようだ。
「無いな」
「無いわね」
俺達は盗賊の死体が転がる場所に帰って来ていた。
「袋の中にも無いわね……はぁ…どうやって街まで帰ろうかしら……」
「まだお前が拐われた場所を探してないだろ」
「そ、そうね」
「あのさフレイア」
「なによ?」
「盗賊の死体もアイテムボックスとか言うのにしまっておいてくれないか?」
「はぁ!? 嫌よ! 死体なんて仕舞いたくないわよ!」
「どうしてもダメなのか?」
「ダメ」
「そうか」
まぁ俺がアイテムボックス使えたとしても、できるだけ仕舞いたくないもんな。できるだけな。
仕方ない。フレイアに先に行かせて俺は死体を喰ってしまおう。
俺はどうせ人間辞めてんだ魔物肉も人肉も大して変わらないだろ。
「ここには無さそうだな。俺はもうちょっと探しておくからフレイアは先にお前が拐われた場所に行っておいてくれ」
「えぇ分かったわ」
……
…………
行ったな。一応【探知】で確認したけど真っ直ぐ向かっているようだ。
じゃぁ俺はこいつらを喰おうか。
魔法を使える奴だと良いけど。
いざ喰おうと肉を口に運ぼうとするが、口の手前で肉を持つ手が止まる。
動かそうとするが腕はそれ以上進まない。
俺はもう人間じゃないと言い聞かせるが、それでもやはり奥深くにある人間性が人肉を拒絶している。
新しく仕留めたゴブリンの肉と混ぜる。そして目を瞑り口に放り込む。
なんとか口に入れる事には成功したが、咀嚼できない。顎が動かない。俺にできるのは甘噛みすることだった。
どれだけ誤魔化しても、俺はそれを人間の肉と認識してしまっている以上、どうしようもなかった。
それでも俺は諦めない。強くなるために。魔法が使えるようになれば間違いなく俺は強くなれる。何故これほどに力に執着するのかは分からないが、こんな葛藤してまで求めているんだ。何かしら意味があるのだろう。
俺は再び自己暗示をかける。俺は"人間じゃない"と。
俺は人間じゃない。
俺は人間じゃ無くなったんだ。
俺は人間を辞めたんだ。
俺は───
俺は魔物になってしまったんだ。
俺は人を殺して喰う魔物になったんだ。
俺は魔物だ。
俺は魔物だ。人を喰うのはおかしいことじゃない。
俺は自分の暗示の内容がおかしくなっていくのに気付かなかった。
そして俺は自分の体が無意識に異形へ変形する事にも気付かなかった。
───俺は気が付けば人間を喰ってしまっていた。
その現実を脳で理解した瞬間血の気が引いていくのを感じた。大量出血しているかのように、自分の体の温もりを、体温を感じられなくなっていた。
俺の皮膚は死人のように冷たくなっていたかもしれない。
或いは本当に死んでしまっていたのかもしれない。
!! ……そんな訳ない……! 俺は人間だ! ステータス上の種族は変わったかもしれないけど、元々は人間だ! だから大丈夫だ! 大丈夫だ……大丈夫……大丈夫……大丈夫…………
それから暫く俺は自分を落ち着かせるよう、先程とは真逆の矛盾した自己暗示で自分は人間だと言い聞かせ続けた。
やがて落ち着いた俺は状況を確認する。
すると、俺の体は元からそうであったかのように中途半端に魔物の面影を感じさせていた。
一瞬俺の原形を忘れていたが、俺は黙って自分の体を人間に戻した。
気分は最悪だった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
名前:久遠秋
種族:異質同体人間
Lv2418
MP :16,362,468
物攻 :16,362,583
物防 :16,362,535
魔攻 :16,362,476
魔防 :16,362,463
敏捷 :16,362,576
固有能力
【強奪Lv4】 【悪食】 【化け者×1004】 【傲慢】 【強欲】 【暴食】 【憤怒】 【怠惰】 【嫉妬】 【色欲】
能力
無し
魔法
火魔法Lv1
風魔法Lv1
闇魔法Lv1
無魔法Lv1
称号
異質同体人間 神殺し 神喰らい
__________________________
あの盗賊は魔法持ちだったようだ。ちゃんと魔法を強奪できていた。
しかし、このテンションのままフレイアと合流したら間違いなく不審に思われるだろう。
折角割りと良好な関係を築けたのに全部パーなんて勘弁してくれ。
ここは無理にもテンションを上げるしかない。
「あああああああああああ!!」
俺は叫んだ。咆哮した。陰鬱とした気分を全て声に乗せて吹き飛ばした。
※ここまでの話を修正しました。あまり変わってないと思いますが……