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第339話 人の強さ

「……んんー! さて、そろそろ帰りましょうか! 季弥さん夏蓮さん!」


 そう言って立ち上がったミアを季弥と夏蓮は目を丸くして見つめていた。思考の切り替えの早さに驚いているのだ。……それは感心に近い驚きだった。

 先ほど二人の関係に亀裂が入って気分が沈んでいるようだったのに、どうしてこうも清々しそうに振る舞えるのかと疑問に思ってしまう。

 だが、その疑問はすぐに晴れた。

 ミアはあのオリヴィアの娘である。ならばこうして過去を振り切って今を生きる強かさを湛えているのは不思議な事ではないのだから。


 ……同じ子持ちだが、心持ちが違う。

 見たところ、十代後半から二十代前半にしか見えないミアより、自分達は多くの月日を生きて多くの子供を育てていると言うのに、若くて経験も浅いミアの方が強かに生きている。


 この間聞いたミアの昔話を思い出せば、自分達とは生きた履歴の濃度が違う事が分かり、ミアは強かに生きざるを得ない状況に追い込まれたのだと理解でき、そもそも比べるのが間違っているのだとも理解する。

 オリヴィアと同じく尊敬するべき相手。しかし、オリヴィアと違って、ミア相手には『負けていられない』と言う対抗心がそこに生まれた。尊敬と対抗心が共存しているのだ。


 季弥も夏蓮も腐敗しているわけじゃない。そんな共存が有り得てしまうほどには競争心を抱いている。

 若い者には負けていられない……生きた年月も、経験の濃度はともかく経験の深さもこっちの方が勝っている。だからこの敗北感を味わったままでいるのは面白くない。無駄に歳を食っているわけではない事を自分に知らしめたい。

 ミアへの対抗心……競争心が向上心となり、前を向かせてくれる、上を目指そうと顔を上げさせてくれた。


 立ち上がったミアに続いて季弥と夏蓮も立ち上がり、熱意の籠った瞳でミアを見つめて「帰りましょうか」と返事をした。





 喫茶店を出て屋敷へと帰って来た季弥と夏蓮、ミアの三人は、玄関にいた使用人のリブに「おかえりなさいませ」と出迎えられて屋敷の中へと入った。すると、焦って慌てたように周囲を見回して涙目になっていた使用人の一人が、その不安げな顔に花を咲かせて駆け寄ってきた。何事だ、と思うがそれは使用人の言葉を聞けば使用人の言動に頷けた。


 ここ、ミレナリア王国の国王がこの屋敷を訪ねてきている。


 使用人から告げられたのはそんなとんでもない事だった。しかもその国王はオリヴィアだけに会いに来たのではなく、ミアとステラにも会いに来たのだとか。だから国王様を待たせないために、探しても探しても見つかるはずのないミアを早く見つけなくちゃと使用人は涙目になっていたのだろう。


「……ごめんなさい、出掛けるって伝えるの忘れてたわ」

「……うぅ……」


 謝罪するミアを涙が滲んだ上目遣いで見上げる使用人。ごめんなさいね、ともう一度謝ってから使用人の頭を撫でてミアは国王とオリヴィアがいる部屋へと歩を進めた。……急ぎ足などではなく、のんびりとした歩みである。国王が自分達に頭が上がらない人物だと知っているが故の舐め腐った行動である。


「あ、そうだ。季弥さんと夏蓮さんも行きましょうよ。お母様から聞いたわよ、二人って国王と仲良いんでしょう? ならきっと国王も喜ぶわよ」

「……えっと、そうしたいのは山々なんですけど、呼ばれてもないのにって言うのはさすがにちょっと……」

「確かにそうね。……じゃあ私が聞いてくるわよ。ちょっと待っててちょうだいね」


 歩きだしたところで何かを思い付いたように歩みを止めたミアは振り返って、一緒に行きましょう、と言い出すが、遠慮した様子で季弥は断る。

 ……これでも季弥は断っているのである。元々断る事が苦手なので、こんな曖昧な返答になってしまっているだけで、季弥は断っているのである。廊下へと消えていくミアの背中を見送って、参ったな、と頭を掻く季弥に夏蓮は、やれやれ、とでも言いたげな溜め息を吐いていた。





 その後無事に同席する事となった季弥と夏蓮は、オリヴィアとミア、国王であるアレクシスが放つ気品に圧倒されて存在が霞んでしまい、この部屋にある装飾品よりも存在感が薄く感じられる。


 数十秒前までは、思いもよらない場所で季弥と夏蓮に出会えて喜び回っていたアレクシスだったが、その時とは打って変わって真剣な表情をしている。

 額に汗を浮かべて、顔を青くして……それは怯えているような、焦っているような、動揺しているような、迷っているような……そんな色々な感情を滲ませた様子だった。


 異様な雰囲気を放つアレクシスが口を開くのを待つ季弥と夏蓮はそれに釣られて固唾を飲む。ミアも額に汗を浮かべて眉を顰めている。……そんな緊張感に包まれている中、オリヴィアはいつもの微笑みを湛えてジッとアレクシスを待っている。オリヴィアはもうこの程度の緊張感では動揺しない。あの時、秋から聞かされた話と比べてしまえば何もかもが些末な事なのだから。


「……どうやら最果ての大陸から多くの魔物がやってきているそうだ」


 漸く言葉を発したかと思えばそんな理解に苦しむような事を宣うアレクシス。ミアは驚き、季弥と夏蓮はそもそも最果ての大陸の存在自体を知らなかったので頭の上に疑問符を浮かべている。この緊張感の中で質問する事は叶わないので黙っておく。


「それはどこからの情報なのですか?」

「アブレンクング王国だ。……あまり公にはされていない……と言うか一部の貴族や王族にしか知らされていない事だが、以前から度々最果ての大陸から魔物はやってきていたのだ。だから最果ての大陸の状態を監視するための調査隊を派遣したところ、この事が分かったのだと」


 冷静なオリヴィアに多少狼狽しながらもアレクシスはそう言う。……一部の貴族や王族にしか知らされていない事を聞かされてしまっているが、大丈夫なのかと季弥と夏蓮が戸惑っているのを見たアレクシスは「そのうち公にされるのだから問題はない」と言って安心させる。


「ちょっと待ってよ、最果ての大陸の魔物ってただの人間に太刀打ちできる相手じゃないって聞いてるけど、いったい誰が対処したのよ? ……まさか野放しにされてるとかじゃないわよね?」

「それは勇者と賢者……それと神徒と呼ばれる者達が対処したようだ」

「ならいいんだけど、神徒って?」


 勇者と賢者が最果ての魔物の問題を解決したと知って胸を撫で下ろすミアだったが、聞きなれない単語に反応する。


「勇者や賢者と同様に、神が与えた役割だと聞いている」

「……勇者と賢者だけじゃ解決できない問題があるって知った神が新しい役割を与えるほどに、今の世の中は乱れていると……そう言う事ね」

「うむ、そうなるな。……勇者と賢者が誕生している時点で魔王の誕生は確実……そして勇者、賢者、神徒は全員が同年齢だそうなので、神徒は最果ての大陸に関しての問題が浮上すつ前……つまり魔王の誕生が確定した時点で神によって生み出された事になる」

「最果ての大陸だけでも人類の危機だって言うのに、新しく役割が生み出されるほどに強大な魔王が誕生するなんて……もしこれらの問題を乗り越えたとしても、私達人類には甚大な被害が齎されるのは確実……種族の一つや二つが絶やされる事は間違いなさそうね」


 伝説として記録されるほどの太古から、魔王を倒すための戦力として勇者と賢者は存在していた……勇者と賢者だけが存在していた。それが今、長い時を経て神徒と言う新しい役割を持つ者が現れた。……その理由は言わずとも、勇者と賢者だけでは対処できない脅威の誕生を理解させる。だからミアは顔色を死人のようにしている。

 しかもそんな苦境に立たされている今、お伽噺として扱われていた最果ての大陸から多くの魔物がやってきているなどと言う絶望的な知らせが入った。ミアが死んだ目で言うのは仕方ない事であった。

 魔王と言う今まで語り継がれてきた脅威と、子供の躾に使われるお伽噺でしかなかった今まで起こり得なかった災厄の到来。


 勇者と賢者、神徒だけで戦力が足りるのかと心配するミアとアレクシスだったが、もちろん足りるわけがない……実質的には人類の脅威に立ち向かえるのは勇者と神徒しかいないのだから。魔王となった賢者も一応は人類のために戦おうと言う心持ちではいるが、権力者から離れてしまっているために情報の伝達が遅く、噂話でしか知る事ができない。だから実質的には勇者と神徒しか戦力はないわけである。

 ……まぁそもそも、賢者が加わったところで……魔王となった賢者が加わったところでどうにかなるものでもないのだが。


「なるほど、だいたいの事情は分かりました。ですが、国王様はそれを私達に伝えてどうするおつもりなのですか?」

「……私の心情的に言えば逃げて欲しいところだが、こんな人類の危機だ。どこへ逃げても勝利を収めなければ逃げたところで無意味。……だから非常に心苦しいのだが、どうかオリヴィア殿の騎士を貸してはくれないか。さらに言えば、戦力になりそうな知り合いなどにも声をかけてもらえると助かる……」


 オリヴィア達に負い目を感じているアレクシスは目を逸らしたい気持ちでいっぱいだったが、決して目を逸らさずにオリヴィアに頼み込む。視界が歪んでいる事から、情けない目をしている事がわかるが、それでも目を逸らさない。普段からよく頭を下げる傾向にあるアレクシスだったが、今は一国の王として威厳を保つにも頭は下げない。目を逸らさずに、強かな瞳で真っ直ぐにオリヴィアを見つめるだけだ。

 情けない目付きだが、鬼気迫るようなアレクシスの言い知れない迫力に圧されて季弥と夏蓮、先ほどまではまでは死んだような目をしていたミアも息を呑まずにはいられなかった。


「良いでしょう。私の騎士は好きなようにお使いください。ただ、万全な状態で返していただければ嬉しいです。……知り合いに声をかけるのも分かりました。元王族の価値のなくなった頭です。いくらでも頭を下げましょう」

「すまない……オリヴィア殿。あなた達を保護するなどと言っておきながらこの様だ。だが、こうしてオリヴィア殿を頼ったからには最善の結果だけを摘まみとってみせる。騎士もなるべく万全な状態で返す。人類も守り抜いてみせよう」


 どこか責めるような口調でアレクシスの要求を受け入れたオリヴィアは、アレクシスの言葉を聞いて満足そうな顔で頷いた。それを見た季弥と夏蓮は数十分前の自分達とアレクシスを重ねてしまう。


 縋るような目でオリヴィアを見つめていたアレクシスは気付いていなかったが、アレクシスは試されていたのだ。王としての在り方を理解しているのかを試されていた。守るべき人々のために、恥も外聞も擲って、その守るべき人々にも頼るという決意ができるのかを。

 人類を守護する者──アレクシスの名を語るに相応しい人物かどうかを。


 もちろん、【看破】を使えば試さずとも確かめられたのだろうが、オリヴィアはアレクシスの言動からそれを知りたかったのである。だからオリヴィアは試す。単純に見破るだけではなく、試して見破るのだ。


 ……それに、オリヴィアはこの最果ての大陸の件についても、魔王の件についても何一つ心配していなかった。なぜならミアから聞いた秋の目標は『最果ての大陸の魔物を鏖殺する』と言うようなものだったからだ。神をも殺す魔王となった秋がそれを実行できないわけがないのだ。

 だが、オリヴィアはその事を……心配する事はないのだとは伝えない。いくら秋がいようともこれは紛れもなく人類の危機である。危機を忘れた人間は安心しきって堕落してしまうのだから、安心させずに脅威を味わってもらわなければならない。人々の決意や覚悟を与えて劇的な成長をさせなければならない。……その点で言えばオリヴィアは無条件の信頼を抱ける秋を知ってしまっているから劇的な成長は見込めない。今まで通り緩やかに成長するしかないのである。


 問題であった最果ての大陸の魔物は間違いなく殲滅され、もう一方の問題である魔王に関してはあの秋である。人類を脅かす脅威にはならないだろう、と謎の信頼がオリヴィアを包み込んでいた。思考を停止させるような無条件の信頼が。





 話が纏まって沈黙が流れたところで思い出したようにミアが口を開いた。


「あ、そうだお母様。さっき夏蓮さん達と外を彷徨いてたらお兄様と出会ったのよ!」

「ステイルが……?」

「うん、そう。……そうなんだけど、お兄様は名前を捨てたとか言ってたのよね」

「……はい?」


 最果ての大陸の件には一切戸惑わなかったオリヴィアはここで初めて戸惑った。アレクシスは呆然としている。人類の危機に戸惑わなかったオリヴィアが、自分の息子が名前を捨てたなどと言う程度の事で戸惑っている事に。

 確かに名前を捨てたと言うのは大問題であるが、人類の危機に比べたら些末な事だろうに……とアレクシスは呆然とする。


「えっとね──」


 ミアは兄が名前を捨てるに至った経緯を話す。これはちょっとした意趣返しのようなものだ。謎理論で自分を惑わして、兄妹の関係に亀裂を入れて自分を悩ませて、また会おうなどと言って確実に悩ませるように誘導した兄への仕返しだった。

 名前を捨てたなどと、ゲヴァルティア帝国への復讐などと……頭を悩ませて名付けた親の想いを、子を心配する親の気持ちを蔑ろにする行為を全て語ってオリヴィアから兄への説教を確実にするのだ。


 そんな計画を抱くミアがオリヴィアへと話す表情はとても幸せそうだった。今までは家族に関しての事を話すのは躊躇うべきものだったが、生存が確定しているとなれば躊躇うものはなかった。

 ……ここのところ、今までの問題が胃袋で消化される物質のように解決していっている。いつから頃からだろうか、この変化の連続が始まったのは。

 ……確か、最初の変化が妹であるフレイアとの再会だった。そこに何かを変えるきっかけがあったのかと考え始めるが、そんな事より兄への意趣返しだ、と言う事で考える事をやめた。





 ミアから息子の話を聞き終えたオリヴィアは城へ帰るアレクシスを見送ってから護衛の騎士と共に王都へ繰り出した。向かうのはマーガレット、エリーゼ、ラモンの自宅だ。戦力になりそうな知り合いを訪ねるわけである。貴族並の権力を持っているオリヴィアからすれば人の住所を調べるぐらいは簡単だった。


 アレクシスから聞いた話をそのまま伝えて協力を仰ぐ。秋が喜びそうな話だ、だからどこかでそれを耳にした秋もいるはず、なので協力します……簡単に纏めるとそうなる結論をそれぞれ出した三人に微笑を浮かべるオリヴィアだったが、動機はなんであれ、協力は協力である。


 思考を切り替えてオリヴィアはマーガレット、エリーゼ、ラモンの三人を連れて次の知り合い……ライリー、ティアネー、ジャンク、グリンの四人の元を訪ねる。これもまた貴族並の権力を行使して住所を調べて知った。ライリーは自分の屋敷に、ティアネーはその屋敷に居候を、ジャンクとグリンは自分達の道場にいた。

 ……ついでに言えば白髪のヴァルキリー──ブランと、黒髪のヴァルキリー──ノワール、赤髪のヴァルキリー──ルージュ、青髪のヴァルキリー──アジュールの四人もライリーの屋敷にいた。戦力になるのは間違いなかったのでその四人にも協力を仰ぐ。「そんなことが起こってしまえば秩序が……調和が乱れる」とブランが焦ったように言い、それに従ってノワールとルージュ、アジュールが追従するような形で協力は受け入れられた。


 ライリーは騎士団の団長であるために誘わずとも最果ての魔物との戦いに駆り出されたはずだが、ティアネーに協力を仰ぐついでに、そしてジャンクとグリンに協力を仰ぐための戦力として誘っておいた。……ちなみにティアネーは「最果ての大陸の魔物の素材……いったいどれだけ価値のある研究素材になるのでしょうか」と言うような事を言えば、それまでの渋りはどこにいったのか、目の色を変えて協力を申し出てきた。


 マーガレットとエリーゼとラモン、ライリーとティアネー、ブラン、ノワール、ルージュ、アジュールを連れて道場を訪れたオリヴィアは、ジャンクとグリンに協力を仰ぐ。……正直オリヴィアはこの二人がどんな人間か分からなかったので、騎士団長と言う役職に就いていて人の管理が上手く、一緒に旅をして二人をよく知っているライリーに頼って説得をする。……やがてライリーの説得に折れた二人は協力を受け入れた。決め手は「最果ての大陸の魔物を倒せばいったいどれだけ強くなれるんだろうなぁ?」と言うライリーの一言だった。


 そうして揃ったのはマーガレットとエリーゼとラモン、ライリーとティアネーとジャンクとグリン、ブランとノワールとルージュとアジュールの十一人。戦力になれる知り合いには全て声をかけた。まだマテウスとドロシーが残っているが、ライリーと同様に騎士団長のマテウスと、聖者と呼ばれるドロシーならばきっと戦いに参加するはずなのでわざわざ声をかける理由はなっかった。マーガレットの父親であるレイモンドも同様の理由である。


 そんな十一人を連れてオリヴィアがやってきたのはある店の前だった。


「…ここってアルロ武器商店じゃねぇか。まさかオリヴィアさんが俺達をここに連れてきた理由って……」


 店を見上げて言ったラモンがハッとしたようにオリヴィアに視線を向けて言う。


「そうです。最果ての大陸の魔物との戦闘に備えて優良な武器を揃えていただきたいのです。そうですね……三つぐらい選んでください。予備が二本と言う事ですね」


 それを聞いた各々は財布の中身を確認し始めるが、オリヴィアがそれをとめる。


「お金の事でしたら全て私が支払いますので気にしなくて良いですよ。今こうして協力を受け入れていただいていますが、私の勝手なお願いのせいで皆さんの命を危険に晒してしまっているわけですし、せめてこれぐらいはさせていただきます。この後にも防具を売っているお店にも行くつもりですが、他にも必要なものがあれば遠慮なく言ってください」

「あんたの護衛の騎士からチャリンチャリン聞こえてくるのはそういうわけか……だがまぁ、防具はともかく俺に武器は必要ないな。魔力さえ消費すれば武器を創れるし、何よりも俺は素手で戦いたい」


 武器や防具の支払いは全てすると言うオリヴィアの言葉を聞いて先ほどからしていた謎の音の正体を理解したジャンクが言った。


「それが良いと言うのであれば止めませんが……本当に大丈夫なのですか?」

「当たり前だ。俺もグリンもそんな柔な鍛え方はしてない。最果ての大陸の魔物だろうがなんだろうが、この拳一つ……いや、二つか? で片付けてやる」

「先生なら余裕ですね!」


 意気込むジャンクと拍手するグリン。ライリーはそんな二人に溜め息を吐いてからオリヴィアに言った。


「オリヴィア様のお願いによって私達の命が危険に晒されるから助力は惜しまない……と言うのは理解できますが、国王様ですら頭が上がらないような片にそんな事をさせるのは気が引けると言いますか……」

「気にしないで良いんですよ。これは皆さんのためでもありますし、人類が滅びてしまえば持っていても意味がないですし、それに、あの時出し惜しみせずに散財しておけばよかった……とあの世で後悔する事になりそうですからね。だから遠慮せずにドンドン選んじゃってください」


 人のためでもあるが、自分のためでもあると言うオリヴィア。それに少し頭を悩ませるライリーだったが、やがてそれを受け入れて「分かりました、では遠慮なく選ばせていただきます」と頭を下げた。国王であるアレクシスが懇意にする人物だとからの申し出なのだから遠慮して断り続けるのも失礼だろうと言う事で納得したのである。


 ライリーはティアネーと共に……ついでにジャンクとグリンも連れて店へと入り、マーガレットとエリーゼもライリーと同じ結論に至ったのか、未だに遠慮しているラモンの背を押してライリー達に続く。ブランとノワール、ルージュとアジュールも同様に入店していき、そして大勢で押し掛ける事を申し訳なく思うが、店の利益にもなるし、世界のためでもあるので仕方ないと割りきってオリヴィアと護衛の騎士もアルロ武器商店へ足を踏み入れた。

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