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第336話 殲滅姫

 ダイロン達とサート達は、馬車と魔物の大群の間に距離があるからと、落ち着くついでにお互いの状況を話し合った。


 サートとディーナはゲヴァルティア帝国に仕える使用人だった事……アマリアはノースタルジアからやってきた姫であり、そして帝国に滞在している最中襲撃者に襲われてしまい、サートとディーナと共にゲヴァルティア帝国から逃げ出した事……サリオンとディニエルはその道中にたまたま出会っただけの関係である事などを話す。


 ダイロン達はある目的のためにエルフの国──ドライヤダリスを出て、ドライヤダリスのエルフから追われている事……その道中にエルフの王を名乗る少女と出会って、それが本当かを確認するために最果ての大陸が一望できるミスラの森へ向かおうとしている事などを話した。


 そうしてお互いの目的やこれまでの旅路などを把握したダイロンとサート達は、馬車から顔を出して後方の砂埃を視界に入れる。

 結構な時間話し合っていたはずだが、それでもまだ魔物の大群は馬車を追いかけてきていた。


 どうやったら逃げ切れるのかと各々がぼやく中で、この馬車の御者であるギルミアから声がかけられた。


「あれから休みなくずっと走らせてるそ、そろそろ馬の体力が尽きそう。それに、ここは砂利とかのせいで足場が悪いから、馬の疲労も重なってそのうちこの馬車は転倒しちゃうと思う。……だから早い内にあれどうにかしてよ」


 ギルミアが後ろからやってくる魔物の大群を指してそう言うが、そんな事言われてもどうしようもないから逃げているわけで、それをどうにかしろと言われても困ってしまう。


 ……と、そこで何か妙案を思い付いたのか、今まで一言も発さなかったソルロッドが口を開いた。


「なぁ、そこにいるお姫様に殲滅させればいいんじゃないか? さっき見ただろ、このお姫様が放った魔法の威力が普通の魔法よりぶっ飛んでるのをよ」

「確かにそうだけど、アマリア様の魔力量じゃあの魔物の大群は殲滅しきれないわよ? ……先頭の魔物を一掃できれば後続の魔物が怯えて逃げていくかも知れないけど、ここまで執念深く追いかけてきてるぐらいだからその望みは薄いわ。やっぱりアマリア様の魔力が尽きるのが先でしょうね」


 ソルロッドが提案した案を一蹴するディーナ。初対面であり、それほど仲がいいわけではないが、バッサリと物を言うのはディーナの長所であり短所でもあった。


「魔力が枯渇するのに関しては心配要らねぇよ。ダイロンさんとガラドミアが【魔力譲渡】のスキルを使えるからな。……もしダイロンさんとガラドミアの魔力が尽きても俺らの魔力を二人を介して渡せばいい。……ギルミアが馬車の御者だから無理だとして……ここには十人の魔力袋がいるんだから十分だろ?」


 そう言われてしまえば、ディーナはもう言い返す事はできなかった。確かにそれならばあの魔物の大群を安全に殲滅するのには十分だろうから、後はアマリアからの了承を得るだけだ。


「アマリア様、それでよろしいでしょうか?」

「えぇ、はい、問題ありません」


 父であるクリーガーはもういない。魔法を使うなと言う約束を守る必要はない。亡き者と交わした過去の約束よりも、今を生きるアマリアにはそんな束縛は意味を成さなかった。だからアマリアは躊躇う事なく頷いてその提案を受け入れた。





 馬車の荷台に仁王立ちし、馬車の後方から土埃とドドドドと言う足音を立てて大地を僅かに揺らして迫り来る魔物達を見回す。精霊を介した魔法を行使するディニエルから手渡された杖を手にしたアマリアは周囲の魔力をかき集めながら口を開く。

 十代前半の幼さを孕んでいて、成長途中の若干凛々しくもある声で紡がれる呪文の詠唱は、アマリアの後ろでアマリアを見つめるダイロンやサート達の耳朶を打ち、魅了する。


「我が身を焼きて罪を滅する業火の剣、恋焦がれる乙女と化して怨敵を焼き尽くせ──ローギ」


 アマリアが言い切ると、集束された魔力が形を成し、巨大の炎の剣へと変貌を遂げた。空中に浮かぶその大剣は煌々たる輝きを放ち、轟々と音を立てて燃え盛り、離れた場所を走る馬車の幌を炭化させていく。

 幌が燃えると言う過程を飛ばして炭化したと言う結果だけを生み出す烈火の剣は、アマリアが手を振り下ろすと同時に魔物の大群へと叩き付けられる。


 炎の剣が魔物を裂いて潰して焼いて、爆発するような衝撃を与えて消滅させている。

 轟音が響き、肌をジリジリと焼く熱波が爆風に乗ってやってきている。

 大地を激しく揺らす振動が……地震とも呼べるほどの振動が伝わってくる。


 悪路を行き、長時間疾走して疲労している馬がそんな振動に耐えられるわけがなかった。……馬は簡単に転倒し、それに伴って馬車も横転する。「きゃあああ!」「うわあああ!」と言う悲鳴が、破損する馬車の音に紛れて聞こえてくる。

 ある者は幌を突き破って馬車から放り出されて地面を転がり、ある者は天井と化した床に叩き付けられて肺の空気を吐き出して……と、敵を滅ぼすための炎の大剣は味方にも被害を与えていた。


 アマリアは無詠唱で魔法を放てない代わりに、詠唱をすれば通常の魔法よりも強力な魔法を放てる。つまりこの火魔法『ローギ』は常人が放つものの何倍もの威力を誇っている。

 ……精霊介して魔法を放ち、通常の魔法よりも強力な魔法を放てるディニエルがアマリアに杖を渡している事から、アマリアの魔法は精霊使いのそれよりも圧倒的に強力だと言う事が窺える。

 ちなみに通常のローギはもっと小規模の剣として現れ、その炎も轟々なんて言う恐ろしい音を立てていない。それでも上級魔法ではあるので相当な威力を誇り、数十人程度であれば容易く葬れるものだ。


「あの、魔力が尽きてしまいました!」


 比較的軽度の負傷で済んだアマリアが痛む肩や足を擦りながら、後ろに転がるダイロンとガラドミアに声をかける。破損した馬車の瓦礫に倒れるダイロンが頭から、腕から腹部からも血を流しながらアマリアに歩み寄り、アマリアの手に触れて【魔力譲渡】を使用する。【魔力譲渡】は相手の肌に触れていないと使用できないので仕方なかった。


 魔力を全て渡して意識を保っていられなくなり、倒れ込んだダイロンに礼を言ってからアマリアは再び呪文を唱える。今度はアマリアの詠唱に耳を奪われる者はいなかった。各々が自分の事で手一杯なのだから。


「母なる大地よ、父なる大空よ、苦しみ悶える小さき我らに御慈悲を御垂れ下さいませ──バルナ」


 目先を駆ける魔物の大群は大きく数を減らしたが未だに健在である。なので、これからの事を考えればダイロンやサート達を治療しておいた方がいいと考え、アマリアは広範囲に及ぶ聖魔法で周囲に転がる怪我人の治療を優先した。

 大地に白い光の輪が現れてアマリア達を抱擁するように優しく包み込み、天高くから降り注ぐ眩く偉大な白いオーロラが抱擁されるアマリア達の傷を全快させる。


「すみません、もう一度魔力を……」

「分かりました!」


 マグロールの魔力を吸い取りに向かったダイロンと入れ替わるように傷が全快したガラドミアがやってきて、アマリアの手に触れて魔力を自分の譲渡する。魔力が尽きた事による頭痛や眩暈などに顔を青くしながらもガラドミアはそのままディーナの元へと向かい、魔力を吸い取る。


「不動を揺るがし決意をも吹き飛ばす厄災の調べ、脆弱惰弱も強靭剛健も等しく淘汰せよ──カーリ」


 アマリアが言い切ると、それに従って刃の嵐が魔物の大群の中心部に出現して周囲の魔物を吹き上げ巻き上げ、そして八つ裂きにし肉片も残さずただの赤い液体へと変えていく。空を飛ぶ魔物などは飛行する事が困難になる、この時点でこの周囲からその存在を消していた。……風の刃でできた嵐は瞬く間に赤く染まっていった。


「次で終わらせます! お二人の魔力の全てを私にください!」


 あれだけたくさんいた魔物は一目見て分かるほどに数を減らしていた。最初の三、四割程度しか生きていないようだ。それを見て理解したアマリアは魔物との距離などを考えて、ここで終わらせないとダメだと判断した。


 ダイロンとガラドミアの魔力……正確にはマグロールとディーナの魔力であるが、それを受け取ったアマリアは、この数年間一度も使う機会のなかった魔法をこの短時間で何度使っただろうか……世の中何があるものかわかったものではないな、などと一瞬だけ考えるが、それを振り払って詠唱を始めた。


「遥かより清浄と不浄を巡り、地を削ぎ殺がれる命の傍観者、穢れなきその身を汚泥へと変えて押し寄せろ──セーア」


 アマリアが言い切ると、宙に水の球体が出現した。

 どこかの湖の水を全て凝縮したとしか思えない量の球体である。それは唐突に弾けて魔物の大群へと押し寄せ、アマリア達を目掛けて駆けてきていた魔物達に一切の抵抗を許さず、無慈悲に流し去っていく。その大量のmujihiな水はこちらへは一滴たりとも流れてこない。

 地面を削って茶色く、砂利などの汚れを受けて灰色に……水圧や流される岩で潰れた魔物の血液も混ざり、やがては黒色に変色していた。


 そんな惨状にアマリアは追い討ちをかけるように口を開いた。


「極寒に住まい栄光に輝く白銀の民よ、万物を呑む氷塊の戦士となりて不溶の地を創れ──ニヴル」


 言い切ってからアマリアは目の前の惨状に手を翳した。すると黒い水は瞬く間に凍り付き、押し寄せる波に呑まれていた魔物達も凍り付いた黒い水の装飾と化した。……濁流が流れる轟音は消え失せて、代わりに訪れたのは氷のように冷ややかな静謐な空間だった。

 黒く高い波を立てて魔物を呑み込んでいた濁流は、白銀世界を彩る樹氷のように個性的な形で無数に……そして幻想的に屹立し、輝く黒と言う奇妙な光景を生み出していた。


「はわぁ……」


 津波の轟音が消え、幻想的な光景によって生み出された静寂に響くのは間抜けな声。可愛らしいが、それよりも間抜けと言う印象が強い声を出したのは膝から崩れ落ちるアマリアだった。


 一国の姫として、貴族同士の策謀こそあったが、とても平和な環境で暮らしてきたアマリアからすれば、恐ろしい魔物が無数に迫って来ているなんて状況は恐怖でしかなかっただろう。しかもその魔物達の進路上に立って魔法を放ち続けていたのだから、その緊張感は計り知れない。


 言葉を震わせないように必死だった、足が震えないように踏ん張るので必死だった……魔力切れに陥って視界が眩んでも、膝を突いてしまったらもう立ち上がれないだろうからと決して倒れず、後ろで転がっている人達のために戦わなくちゃと自分を奮起させて……サートやディーナ、サリオンとディニエルに、自分と言うお荷物を背負わせて今までとことん足を引っ張ってきたのだから、自分しか活躍できないこの場でそれらを返上しなくては……と、強い心を抱いて。一国の姫として生まれて来たからには、これ以上の恥を晒さず、逞しく生きて、人々を守る義務がある。たとえそれが自国の民でなくてもだ。


 だからアマリアは頑張れた。間抜けな声をあげてしまうのも仕方なかった。恥を晒さないために頑張った結果としてこうして恥を晒してしまっているが、敵の前でみっともなく震えている腰抜けになるよりはマシだった。


 頑張ったアマリアはペタンと座り込んだそのままの体勢で振り返り、ある人物を探すが、しかし探すまでもなく一瞬で見付けられた。

 馬車の残骸に潰されているディーナを助けているサートがそこにはいた。


 いつからこんな気持ちを抱いてしまっていたのかは分からない。

 今までに味わった事のない感情だったが、恋焦がれるように夢想していたそれなのだと理解できた。

 使用人の癖に騎士のように勇敢で、ロクに戦えもしない癖に一丁前に脅威に立ち向かって、運良く生き延びているだけの癖に自分が強いと勘違いしてるのか困難に立ち向かうその人……格好良くも格好悪くも映るそんな姿が、アマリアとっては魅力的に映っていた。

 物語に出てくる勇者や英雄には遠く及ばないが、あの時あの場所から救いだされたアマリアからすれば、その瞬間から、その人を主人公とした物語のヒロインになったような気分だった。


 だからアマリアはサートに抱くこれが恋心ではないのも理解している。ただ酔っているだけだ……お姫様が危ないところを強い男に救われて恋に落ちた、そんな物語のような状況に酔っているだけだ。


 身の程を弁えているアマリアはここでサートの名前を呼んで、振り返ったサートに誉めて貰ったり、良く頑張ったな、などと言って抱き締めてもらおうとは思わなかった。ただ見つめているだけでよかった。

 馬車の残骸に押し潰されているディーナを……今まさに、お姫様を救っている勇者を見つめているだけでよかった。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







 夜、人通りの少ない路地裏でフレデリカ達は肌を隠した者達に襲われていた。奇襲のような形ではなく、追ってきているのに気付いてたからあえて路地裏に入り、姿を現しやすいようにとこうしたのである。


「最近こう言うの多くねぇか?」

「仕方ないですよ。僕達はこの国にとって不利益になる話を聞いてしまったんですから、殺すなり監禁するなりして口封じをしないといけないんですよ」

「はぁ~……さっさと国民に報せて避難させりゃあ良いものを……隠蔽してどうすんだっての」

「避難させてしまえばその間は経済が停滞しますからね、ギリギリまで国に残らせていたいのでしょう。いずれこの国が大きな被害を受けるのは理解しているのでしょうからね」

「だとしても死んじまったら意味ねぇっての。……舐めてるとしか思えねぇよ」


 シュレヒトは呆れたように言い、アークも何でもない事かのように言う。


「ですがこれでハッキリしましたね。アデルさんとラウラさんから聞かされたあの話は事実だと。……今までどれだけこの国にとって不利益になる噂が流れても動かなかった国が、この噂に対してはきちんと行動を起こしている……一度撃退されただけでは諦めずに何度も何度も……ね、ナタリア先生?」

「……そうですね」


 刺客に狙われるようになってから、あの話が事実なのだと思い始めるようになっていたフレデリカ達をナタリアは止めていた。「まだそうと決まったわけではありません!」やら「もしそうだったとしても私達に何ができるんですか?」やら「国と敵対するなんて危険過ぎます!」やらと、喚いていたのだ。生徒の安全を思っての事だが、如何せんやんちゃな生徒達であるからナタリアの訴えは、一応聞いておいてやるか、と言った程度にしか取られておらずそしてその内心は、早く反撃してアデルとラウラを助けないと、と言うようなものだった。


 今回で刺客に狙われるのは十回目である。それまで回数を重ねるごとにナタリアの反抗は小さくなっていき、たった今認めたのである。

 ……こうなる直前にフレデリカが、逃げ続けていても無意味、襲われているのだから反撃しないといつか誰かが怪我をする、アデルとラウラを助け出せば私達にも何かができる、と圧力をかけてナタリアに囁き続けていたのが大きいだろう。


「さて、漸く先生が折れてくれましたし、逃げ回るのは終わりです。逃がさずに捕らえて、情報を聞き出すのです!」


 フレデリカがそう言って刺客達へと駆け出し、鞘から抜いた短剣を振るう。【魅了】のスキルですぐに片を付けてしまいたかったが、【魅了】の支配下にないシュレヒト達の前でそれをしてしまうと、余計な誤解を生みかねないので今までと同様に【魅了】に頼らず行動するしかなかった。

 ……刺客達は相手が子供だと侮っているのか、武器を抜くことすらしない。先人達がそれで返り討ちにされたのを知らされていないのだろうかと過るが、どっちにしろ相手が無防備な内に畳み掛けてしまおうとフレデリカは足を止めなかった。


 ……と、そこで罠が……なんて事もなく、本当に子供だと侮っていただけのようで、フレデリカと、フレデリカに続いて攻撃を加えるシュレヒト達に簡単に拘束されてしまった。今回で刺客に狙われるのは十回目である。今日もまたやってくるのだろうと考えて縄などを用意していたお陰で拘束に手間取る事はなかった。


「それじゃあ、尋問は私がしますので皆さんは先に宿に戻っていてください」


 そう言うとすぐに宿へと向かい始めるシュレヒト達に笑みを浮かべ、危険だ、と渋るナタリアに青筋と笑みを浮かべながらフレデリカは威圧する。すぐに涙目になったナタリアをモニカが連れていき、そしてフレデリカは一人となった。

 刺客の一人が手にした暗器で縄を断ち切ろうとしているが、フレデリカは一人である。誰にも憚る事なく【魅了】を使って命令し、その手を止めさせる。久し振りに誰かを思いのままに操れる事に喜びを覚えたフレデリカは、残りの刺客全員にも【魅了】を使い、輪唱させるかのように情報を吐き出させる。


 そうして得た情報は刺客の雇い主の情報だけだった。ただの刺客がアデルとラウラの居場所を知っているわけではないのは理解していたが、憖理解していただけに、落胆が大きかった。どうせならこんなちまちましたやり方ではなく、一気に最終目的まで辿り着きたかった。


 そんなフレデリカの溜め息に狼狽する刺客達は、現在の主人のためになる情報を与えなければと思考する。

 ……【生物支配】のような有無を言わせず強制的に支配下に置くスキルとは違って、【魅了】のスキルは、使用者の虜にして支配下に置くスキルであり、虜になってしまった支配下の生物は 命令されずとも支配者のために行動するのである。つまりは多少の自我は残されていると言うわけである。……そのために、【魅了】のスキルから解放された者はすぐにスキルの使用んk気付けてしまい、しかも、支配者のための行動が空回りして支配者の妨げになってしまう事もある。

 細かく命令しなくて良いと言うメリットの裏側にはそんなデメリットもあるのである。


「フレデリカ様はどんな人物をお探しなので?」

「そうですね……この国にとって有害な人物とだけしか教えられませんね……思い至った事が一つでもあれば、口に出してください」


 刺客の問いにフレデリカは曖昧に答える。【魅了】が解けてしまえば自分達の目的を知られて不利になってしまうのでハッキリした答えを出す事はできないのである。つまりは必要最低限の情報だけを与えて、狙いに勘付かれないように答えを得るしかないわけだ。


「国にとって有害……で思い当たるものは……社会を乱そうと考えている反乱分子……罪人に亜人でしょうか。反乱分子はスラム街の一角を拠点としていると聞いた覚えがあります。……すみません、なんせ国に隠れて動いているような集団なのでハッキリした事が分かっていないんです」

「……」

「えぇと……次に罪人ですが、まず罪人は犯した罪の重さで送られる場所が違います。罪が軽い者は兵士が少なくて警備が甘い辺境の方に連れていかれ、罪が重ければ重いほどに都心へ……王城へと近い場所にある監獄に放り込まれます。……聖職者や貴族殺し、反逆者などの大罪人は警備が厳重な王城の地下にある牢獄へ放り込まているらしいですね。そんな大罪人は滅多に現れないのでこれは都市伝説のようなものですけどね」

「……」

「あとは、エルフや獣人などの亜人……突然現れて整っていた秩序を乱しているので、貴族達がボヤいているのを耳にした覚えがありますね。一部では亜人を処分するために、詐欺などで金銭を搾り取ってから、身売りさせて奴隷にして、表に出てこれないようにしている貴族もいるらしいです。……実際に最近は亜人の奴隷を連れている貴族が多いのでただの噂だとは考え辛いですね」

「……そうですか。ではもうあなた達は用済みですので、誰かに発見されるまでそうしていてくださいね」


 聞きたい事と、聞きたくもない黒い話を聞き出したフレデリカは、その内【魅了】の効果が解けて正気に戻るだろうからと、できるだけ長く動けないようにするために、拘束したままの刺客達を放置してシュレヒト達が向かった宿へと帰路についた。刺客達は「フレデリカ様!」と騒いでいるが、所詮は【魅了】された結果による喚きである。それにあれは自分達の命を狙っていた刺客である。待ってやる必要など皆無でしかなかった。

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