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第334話 街道を進む

「やぁ、ナルルースとエルサリオン。……いやぁ、ごめんね、勝手にどこかへ行っちゃって。僕の事を探してくれてたんだろうけど、残念ながら僕はここから正反対の場所にある山まで転移させられちゃったんだよね」


 屈託のないように見えるアルタが浮かべる笑み。嫌にでも怖じ気を抱かせるそれに恐れを抱きながらも、ナルルースとエルサリオンはどこか安堵していた。

 村が盗賊の襲撃を受ける直前まで考えていた金銭的な問題が解決するからか……アルタの支配下にいれば先ほどのように盗賊に襲われて怪我をしてしまう事もないからか。


「あぁ、お疲れ様レジーナ。……いやぁしかし凄いね。山を雪山に変えるほどにたくさんの雪を降らせたり、小さいとは言え村を一瞬で氷漬けにできるんだからさ。流石は氷の女王だね」

「…………」


 いつの間にかアルタの側にやってきていたレジーナをアルタが労う。しかし当のレジーナは微動だにせず、ナルルースとエルサリオンを哀れむように見つめている。


「アルタ、この人は?」


 レジーナの存在と視線に気付いたエルサリオンが、レジーナを指してアルタに尋ねる。

 主従と言う関係にある割には随分と馴れ馴れしく軽い口調だが、エルサリオンは自分を無理やり支配したアルタに敬意を払うつもりなどないし、アルタも配下がどのように自分に接してきたとしても、必要以上に敬ったり蔑ろにされない限り無関心なので、このような口調が認められている。


「こいつはレジーナ。『氷の女王』っていう称号を持つだけあって、氷魔法とかにとても優れてるんだ。こいつとはいきなり現れた金髪の女に転移させられた先の雪山で出会ったんだけど、実はその前から僕の配下ではあったんだよね。……でもまぁ、僕の命令が適当すぎて色んなところに好きに移動できたみたいだからそんなに関わる機会はなかったし、あんまり面白い存在じゃなかったから今までは関わろうとも思わなかったんだけど……何て言うか、雪山でこいつの魅力に気付いてね、今では僕のお気に入りなんだ。……ね?」

「……はい」

「そうか……それで、そのレジーナも俺達の旅に同行すると言う事か?」

「うん、そのつもりだよ」


 哀れみの視線を向けてきているレジーナに哀れみの視線を返すエルサリオンとナルルース。恐らくレジーナはアルタに見つかってしまったエルサリオンとナルルースを哀れんであの目をしているのだろうが、エルサリオンとナルルースからすればレジーナの方がよっぽど酷い境遇にあると取れた。


 見つめ合う三人を交互に見やるアルタは思い出したかのように口を開いた開いた。


「旅って言っても僕には目的なんかないんだよねぇ……強いて言えば、いつの間にかどこかへ行っちゃってた赤龍の捜索と、僕を雪山に転移させたあの女を見つけ出して殺すことぐらいなんだけど……まぁ正直に言えば、どっちもどうでもいいんだよね」

「女の方はともかく、赤龍はお前の側近のようなものじゃなかったのか? 探すべきだろう」


 どうしようかな、と頭を捻るアルタにナルルースが言う。


「いいや別に? 確かに有象無象の配下に比べれば割と気に入ってた方だけど、あいつは僕が名前を与えない程度のちっぽけな存在なんだよね。呼ぶ価値もない……居ても居なくても構わない、そんな居ないも同然の存在。そんなもののために限られている僕の時間を費やしたくないよ。……それで、僕達の目的についてなんだけど、片手間に配下を集めつつ、二人がしようとしてた事をしようと思うんだけど……どうかな?」

「構わない……と言うかそれって同時に進められそうじゃないか? 俺達はエルフを外向的な種族に変える意識改革を行うための仲間を集めようと国を出たんだ。……だから協力を申し出てくれた相手をアルタが支配してしまえばいい」

「エルサリオン、協力を漕ぎ着けた友好的な相手にそんな事をするのはやめた方が……」

「アルタに支配されても何の感覚もないのは俺達が身をもって知っている。だから相手に黙っていれば大丈夫だ。それに、アルタは何かを支配したとしても何かを強制することは全くないから相手には何の害もないはずだ。……つまりアルタは【生物支配】でステータスを一方的に共有できて満足、俺達は仲間を集められて満足……誰も損をしない、完璧だろう?」


 とある噂を耳にしてもたもたしていられなくなっていたエルサリオンは、頭の片隅にあった、意識改革を最も効率的で確実に行えるが真っ当とは言えないやり方を提案する。


 ……最果ての大陸から魔物がやってきているとなれば、ますますエルフは外向的になって人間、亜人、魔人などの人類に協力しなければならない。『世界の穀潰し』などと揶揄されないようにする以外にも、エルフと言う種族を変えるための動機が増えたのである。……まぁもっとも、最近では最果ての大陸から魔物がやってきていると言う話は嘘だったとされているのだが、しかしエルサリオンの耳にそんな情報は入っていなかった。


 これでエルフ以外の種族が友好的なのだと異種族同士の話し合いで理解させるのに失敗したとしても、最果ての大陸から魔物がやってきている事を伝えればほぼ確実に……間違いないと言ってもいいほどに、エルフと言う種族は変えられる。


「支配される側に害がないとしても、アルタに支配されていると言う事実は残るのだぞ?」

「そうだが、裏を返せば、アルタに支配されればそのお陰で、邪心を抱いてそいつを支配しようとした奴の魔法やスキルを妨げる事ができる。支配系統の魔法やスキルは、既にそいつが誰かの支配下にあれば効かない。……元々の支配者より強い者の支配なら効いてしまうが、アルタほどの支配者であればそうそう上書きされてしまう事もない」

「協力者の安全のための支配にもなる……お前はそう言うつもりか?」

「そうだ」


 ナルルースに答えるエルサリオンは大きく頷いてナルルースを見つめる。少しの間見つめ合う二人だったが、やがてナルルースが折れ、「分かった」と呟く。


「話し合いは終わったかな? じゃあエルサリオンの言う通り、意識改革への協力漕ぎ着けた相手を僕が支配する……っていう事で」


 話を纏めたアルタは、アイテムボックスから地図を取り出して全員に見えるように広げた。


「……それでえーっと、ここから一番近くて大きい街は……アブレンクング王国の王都シックサールだね。途中にフィドルマイアって言う街があるみたいだけど、ちょっと前に魔物の大群に襲撃されて廃墟化しているみたい。……正面突破する? 迂回する?」

「「迂回する」」

「…………」

「迂回で決まりだね」


 アルタの問いに声を揃えて答えるエルサリオンとナルルース。フィドルマイアからやってきた魔物の死骸が大量に転がっていた怪事件の話を知っているが、それがフィドルマイアを滅ぼした魔物の全てだとは考えられなかったので迂回を選んでいた。……言葉を発する事はないが、レジーナも僅かに嫌そうな顔をして小さく首を振っている。


 そんな三人を見たアルタは、フィドルマイアを正面突破したくなるが、冒険者の街と呼ばれるほどに、冒険者が集まっている街を滅ぼした魔物がいるとなればかなりの手間になるのは間違いなかったので、正面突破をあきらめて迂回を受け入れた。……怪事件の話を知らないが故の決断である。知っていたらきっと悪戯心で正面突破を選んでいた事だろう。


 目的とおおまかな進路を決めた四人は、レジーナによって氷漬にされ、陽光を反射しているせいで眩しくなっている村が一望できるその場所を離れて、フィドルマイアがある方向へと歩きだした。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







 エルフの王だった少女と、薄汚い全身鎧の人物、ダイロン、マグロール、ガラドミア、ギルミア、ソルロッドの七人は街道を南下していた。目的地はミスラの森だ。

 道中に立ち寄った町で、馬車の持ち主である盗賊を衛兵に突き出してから再び進みだす。


 馬車の御者はギルミアだ。ギルミアは天才と呼ばれるほどに物覚えが良いが、しかし何をやらせても人並みにしかできない器用貧乏である。

 永い時を生きていても、常人を越える事はなく、ただ常人のようにこなすだけ。

 いくら天才であっても、努力をしなければスタート地点が常人より前であると言うだけだ。だから天才と呼ばれても慢心せずに努力をする必要があるのだが、ギルミアの場合はどれだけ努力しても報われない。寝る間も惜しんでそれに時間を費やしても、穴の開いた風船に空気を送り続けているかのように上達できない。絶対にだ。

 他者より一つでも優れている事を見つけられず、平凡なまま、エルフと言う長命な種族で生きるしかないギルミアはもはや諦めの境地にいる。姉からは『無感情アピール』などと言って冷ややかな目で見られるが、何にも希望を見出だせないギルミアからすれば、余計な希望を抱かないように無感情で……何にも関心抱かず、川の流れに身を任せるゴミのようにしていた方が楽なのである。


 何でもそつなくこなせる才能を持ったギルミアは、それに気付けずそうして生きる。


 ゲヴァルティア帝国へと差し掛かったところで、そんなギルミアが御する馬車の前に、左手に見える森から飛び出してくる者がいた。


 男が二人、女が三人だ。男の一人と女の一人はその長い耳から察するにエルフだと考えられ、さらに言えば男の方のエルフは、その引き締まった体つきからハイ・エルフだと思われる。

 そしてもう一人の男は、泥塗れのドレスを来た貴族か王族らしい女を背負っていた。ボロボロではあるが、男の服装からその女に仕えているであろう執事である事が窺える。


 そんな五人の男女がやってきた方向から姿を現したのは、スライムやゴブリン、オークにオーガ、ゴーレムやワイバーンなど、多種多様な魔物の群れだった。こんなのは明らかな異常だ。

 洞窟や遺跡やダンジョンの守護者として現れるゴーレム。

 大陸の中心付近……龍の里や竜の里と呼ばれる地域の周囲に生息するワイバーンと言う魔物がなどがいたりと、本来ならばこんなところいるはずのない魔物や、そこらで見かけるような魔物達が途轍もない数集まっている。


 ……ちなみにワイバーンは龍か竜で言えば、竜の部類に入る。龍が蛇のようなもので、竜が蜥蜴のようなものである。


 そんな大群に追われている五人に出会した……出会してしまった。つまりは巻き込まれた。

 馬車を急停止させて方向転換している暇はないので、いギルミアは馬車を魔物がやってきている方向とは反対へと走らせる。

 街道を逸れて舗装されていないガタガタの悪路を進み、馬が怪我をしてしまったり尻を強く打ってしまったりなどするかも知れないが、あの大群を前にしてそんな暢気な事は言っていられなかった。


「助けますよ! あの人達には聞き出さないといけない事がありますから手伝ってくださいマグロール、ソルロッド……と、鎧の方!」


 自分達の安全を優先するならば助けようとするべきではなかったのかも知れないが、あんな異常な魔物の大群が発生した理由や、なぜ追われていたのかなどを問い質すために助ける必要があった。


 ダイロンは、マグロール、ソルロッド、全身鎧の人物に指示を出して、馬車の後ろで魔物の大群から逃げている五人……一人は背負われているために実質的には四人であるが、それらに手を伸ばす。


「ギルミア、少し速度を落としてあげて!」

「仕方あるまい、余も手伝ってやろう」


 徐々に馬車から引き離される五人を見たガラドミアがギルミアへそう言い、元エルフの王と共に魔法で迫ってくる魔物を攻撃して足止めする。

 前を走っている魔物がそれにより転倒すれば後続の魔物もそれに引っ掛かって転倒するために足止めは成功だと言えた。

 ……だが、ワイバーンのように飛行している魔物には何の影響もなく、馬車が速度を落とすのと平行して距離を詰めてきている。

 しかも魔法を放ってもヒラリと躱されてしまうので足止めのしようはなかったのだが、近付けば近付くほどに被弾する確率があがってしまうのを理解しているのか、ワイバーン達の接近を妨げる牽制にはなっているようだった。


「今のうちに!」


 ワイバーン達が近付けないでいる今の内に馬車へ引き上げようと走る四人に手を伸ばすが、如何せん道が悪い。ガタガタガタガタと馬車が揺れ、走る四人の視界も揺れ、届く距離にあるのに何度も空振ってしまい、中々手を掴めない。


「ガアアアアアアアアアアッ!!」


 獲物を逃がすまいとワイバーン達が咆哮を上げて威嚇し、魔法の直撃を厭わずに走る四人へと接近する。


 どうやらワイバーンの狙いは、背負われている貴族の女らしい。……まぁそうなるのも仕方ない事だと言えた。何せ、背負われているせいで地面を走っている四人よりもワイバーン達に一番近い位置にいるのだから。

 ワイバーンは翼を羽搏かせ、鉤爪のついた足で貴族の女を捕らえようと接近する。


「──アマリア様ぁ! そのワイバーンに魔法を放ってくださいっ!」


 貴族の女──アマリアを背負う使用人の男は息も絶え絶えな状態でそう叫ぶ。一瞬戸惑うような素振りを見せたアマリアだったが、すぐに覚悟を決めたのか、ワイバーンへと魔法を放つ。


 危険だからと父に魔法の使用を禁じられていたが、恐らくその父はもういない。……避難所で対峙した時と、腕を落とされたサリオンに放り出されて地面を転がっている一瞬だけ見えた、仄かに父との繋がりを感じさせる化け物も、目が覚めれば痕跡も残さずに消えていた。

 ……あいつはどこへ行ったのかとディーナに尋ねても……目覚めるとそこにいたサートに尋ねても……二人は気まずそうな顔をするだけで、何も答えはなかった。

 薄々は気付いていた。だけど認めたくなかった。だってそれはアマリアが路頭に迷う事を意味しているのだから。だからアマリアは父がやってくるのを待つために、自分達を襲った悍ましい化け物が消え去った後、避難通路まで戻ってみたがどれだけ待っても父は現れなかった。


 つまりもう父は死んでしまった可能性が高い……と言うか十中八九死んでしまっている。

 通路へ投げ返した鍵の位置も変わっていなかったから逃げられたわけでもない……そして廃墟も同然の帝都で数日も生き延びれるわけがないのだから、死んでしまったと考えるのが妥当だ。


 ……死者との約束なのだから守る必要はないと捉えるべきか、死者との約束だからこそ守る必要があると捉えるべきか。


 アマリアは逡巡するが、迷っている暇はないと頭を振い、死者と言う過去よりも、生者のためと言う現在を選んだ。


「地を統べる無情の蒼穹より来たる威光の雷霆よ、善悪厭わず万象を撃て──トーア」


 両手でサートにしがみついていたアマリアは、片手を空へ掲げ、魔法の詠唱をする。アマリアが放つのは雷魔法でもかなり難しいとされる『トーア』だ。トーアは黒雲を呼び、狙いを定めた相手へ落雷を落として一瞬の閃光の間に標的を塵へと変えてしまうほどの恐ろしい威力を誇る魔法である。


 ……わざわざ詠唱した理由は、トーアへの理解が足りないなどではなく、アマリアの体質にあった。

 アマリアはどれだけ魔法に関する理解を深めようとも、決して無詠唱で魔法を放つ事ができなかったのだが、しかしその代わりに放つ魔法の威力が通常のものよりも数倍強力になると言う特殊な体質だった。


 数倍にも威力が引き上げられたトーアによって呼び出された黒雲は、黒そのものが空を覆っているのかと思うほどに黒く、空を駆ける眩い稲光が陽光の代わりに地上を照らす。稲光による明かりで僅かに視界があるおかげで転倒する事はなかった。

 黒雲を駆ける稲光は徐々に光度を増していき、数度瞬くように地上を照らし、そして黒雲から消失した。

 瞬間襲い来る、擘く轟音と熱気を帯びた閃光と地を揺らす衝撃波。


 閃光が収まり、閉じてしまっていた瞼を上げれば、先ほどまでの暗闇が嘘だったかのように明るかった。黒雲は霧散し、迫っていたワイバーンはもちろん、その近くにいた別のワイバーンまでもが塵も残さず消滅していた。


 ……目先の脅威がいなくなった馬車は大幅に速度を落として走る四人を馬車の中へと引き上げた。人の密度がとても高くなってしまったが、ぎゅうぎゅう詰めと言うわけではなく、人と人の間にはそれなりに間はある。……ついでに言えばこの馬車と魔物の大群の間にも間がある。


「助けていただき、ありがとうございました。……そして巻き込んでしまってごめんなさい」

「いえ、構いませんよ。それより、あの魔物達について教えて下さい」


 アマリアを背負っていた男が、ダイロン達に感謝して謝罪するが、ダイロンは受け流すように赦して魔物の大群についてを聞き出そうとする。

 何から話すべきかと考える男は、腕を組んで少し考えてから話し出した。


 あの魔物の群れがとある人物の支配下にある魔物だという事、そのとある人物というのがゲヴァルティア帝国の皇帝だという事、襲撃者に襲われて帝国が滅んでしまったことによって居場所を失った魔物達がああして森に逃げ込んだであろう事、そこでたまたま仲間を見つけた魔物達がこれからどうすれば良いのかと自分達に縋るように追いかけてきた事を話す。


「……また……またですか……こんな短期間にこれほど突拍子もない話を二度も聞く事になるとは思いませんでした……もう一々疑うのもバカらしいですし、信じる事にしますよ。……なぜだか知りませんが、サリオンもいますし信用には値するんじゃないでしょうか……」


 頭を抱えて投げやりにそう言うダイロンに顔を見合わせる五人。エルフの王の一件を知らないためにダイロンの悩みが理解できない様子だ。反対に、ソルロッドなどにはその悩みが理解できるようで遠い目をしている。

 そんな空気を悟ったのかガラドミアがパンと手を叩いて話を切り替える。


「……あ、そう言えばお互いに名前を知らないままでしたよね! 私はガラドミアです。あそこで手綱を握っているのが弟のギルミアです。……こっちのがソルロッドさんで、死んだ目をしているのがマグロールさん、この眼鏡の方がダイロンさんです。鎧の人は喋れないみたいだから分からなくて、そっちの人は自称エルフの王なので名前がありません」


 ガラドミアの言う通り、エルフの王……王族には名前がない。なぜだと聞かれても、ハイ・エルフならともかく、ただのエルフであるガラドミアには知り得ない事である。ただ、王族とはそう言うものだと聞かされているだけなのだ。


 ……だが、理由は考えられる。


 エルフと言う種族は長命のために王が死んでしまう事が全くない。つまり現在の王が圧政を強いる王であればエルフは壊滅的なまでに落ちぶれていってしまうので、エルフからすれば短い期間……五十年程度で強制的に王が変わるのである。

 そんな短い期間で王が変わるとなれば、その度に名前を覚えなければいけなくなるのだが、王と同じ精霊樹で暮らすハイ・エルフならともかく、精霊樹の外で暮らすエルフ達からすれば関わりなど皆無であり、名前を覚えられないのである。

 当然名前を覚えていない、間違えたとなれば不敬罪で裁かれてしまうのだが、こんなのはあまりにも理不尽だと言う事で、いっそのこと王の名前を剥奪してしまおう……と、言う事なのだろうとガラドミアは考えている。


「俺……私はこちらのアマリア様に仕えている使用人のサートです」

「同じくアマリア様に仕えているディーナです」

「え? お二人はいつから私の使用人に……?」

「細かい事はいいんですよアマリア様」


 困惑するアマリアに言うディーナ。


「俺はサリオンだ」

「えと、わわ、私はディニエルっていいます……っ」

「……それでだ。さっきガラドミアがあの少女の事を王だと言っていたがどう言う事だダイロン」

「その前に、サリオン。あなた達はこれからどうするつもりなんですか? それによって私があなた達に伝えるべきこととそうでない事があるでしょう?」


 名乗ってから先ほどから気になって仕方なかった事を尋ねるサリオンを制して、ダイロンはこれからどうするつもりなのかを尋ねる。


「これからか……そうは言っても今の俺達には目的がない。そうだよなサート?」

「えぇ。避難所も崩壊していましたし、滅んでしまった帝国を訪れる意味もありません。……強いて言うならばアマリア様の国であるノースタルジアへ向かう事ですが、アマリア様の帰還は王が亡くなった知られる原因になります。帰還の際に王がいないのですからね。……そうなれば民は混乱し、反乱などが置きかねません。なのでノースタルジアへ向かうのはもう少し私達の状況が落ち着いてから……そしてゲヴァルティア帝国滅亡の報せが届く直前あたりに向かうべきです」

「そうか。なら、俺達は暫くの間お前達に同行しよう。今回の一件の借りを返すために護衛などをやらせてもらう。……もし断っても借りを返すために強引についていかせてもらうぞ」

「サリオン、あなたはいつも強引ですよね。……まぁいいですよ、分かりました。私達の護衛でもなんでも好きにやってください」


 サリオンとダイロンがお互いを知っている風なのは同じハイ・エルフとして関わりがあるからだ。

 ハイ・エルフとは人間で言うところの貴族のようなものなので、貴族同士の集会のようなものも当然あり、必然的にハイ・エルフ同士はお互いを知り合う事になってそれなりに交流ができるわけである。


「さて、無事お前達の旅に同行する仲間だと認められたところで、そこの少女についてだが……」

「同行する以上争いのもとになる隠し事はなくした方がいい……なんだかサリオンの思い通りに進んでいるようで気に入りませんが、仕方ありませんね」


 そうしてダイロンはエルフの王について話し出す。

 話を聞き終えたサリオンの反応はダイロン達のものと全く同じだったが、とっくにダイロン達の目的は定まっているために嘘だと言って退ける事はできなかった。……まぁ、最果ての大陸が見えるミスラの森に行けば分かる事だろうと考え、サリオンは特に何も言わずについていく事にした。

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