第33話 フレイア・アイドラーク 3
結局なんの案も出ずに朝を迎えた。
クドウさんと挨拶交わしギルドに入りクエストを受け、ギルドをでる。
クドウさんが選んだのは魔物の討伐クエスト。
私の疑念は更に濃くなり、私の仮説が真実味を帯びてきた。
魔物の討伐なら冒険者が帰って来なくても、死んだ事にされあっさり片付けられる。
クドウさんは私を誘拐した後で自分も姿を眩ませるつもりなのだろう。
私達はミスラの森に入り規定数のゴブリンを討伐した。
私を誘拐するためにクエストを達成する事に意味があるのだろうか。
あれ? クドウさんが森の外へ向かって歩きだした……?
…………じゃあ盗賊の幹部とかじゃなかったの?
私が戸惑っていると不意にクドウさんが話しかけてくる。
「あのさ、フレイアさん」
「……なにかしら」
「えっと……なんでそんなに素っ気ないのかな……って。いや、その……これからフレイアさんの護衛をするんだからある程度仲良くなりたいなぁって思って……」
わざとらしいオドオドした態度でそう問い掛けてくる。
やっぱり怪しい。こんな事を聞くのにオドオドする必要性が感じられない。
しかも私の警戒に気付いている。あんなにも自然に振る舞っていたというのに!!
やっぱり盗賊だからそう言う人の警戒心とかに敏感なのね!
「……!? そ、そんな事ないわよ」
しまった! 動揺が言葉に出てしまった!
「え……いや、でも森で最初に会ったときはもっと喋ってくれてたけど……」
「……ぐっ……ぅぅ……き、気のせいよ!」
私の心情の変化をつついて私を揺さぶっているのね!
「フレイアさん。本当の事を教えてくれないかな……?」
何よ……今さら弱々しく聞いても遅いわよ!
私も何か反撃しないと……
このままじゃ相手のペースに乗せられちゃうわ!
「………………じゃあ……あんたが先にホントの事を言いなさいよ……」
「……え? どういう事?」
惚けたって無駄よ。私を揺さぶった癖に今更知らんぷりなんか通用しないわ!
「……どういう事じゃないわよ。馬車でお母様と話している時のあの胡散臭い笑顔……一体何を企んでいるのよ!」
「お母様も言ってたわよ。『何かを隠しているような変な雰囲気の人だった』って」
私は自分の流れを作る為に畳み掛ける。
「……バレてたのか……」
意外に素直ね……
まさか暴力を振るうつもり!?
「……それが本性ね……っ!」
「そう警戒しないくれ。俺はお前達に危害を加えたりしない」
「……そんな言葉が信じられるとでも? 目的を言いなさい!!」
「俺の目的はお前ら亡国の王族に降りかかる厄介事に首を突っ込んで楽しみたい……それだけだ」
楽しむ?何を言っているのよクドウさんは?っていうか何でその事を!?
「………は? ……何よそれ…………っていうかなぜ私達が王族だと……っ!?」
「何でって……鑑定したんだよ」
「嘘よ! 私はちゃんと鑑定妨害の指輪を……あれっ!? 無い! ……指輪が無い! ……あっ! ……そうよ……きっとそうよ……盗賊に拐われたときに落としてしまったのよ……ああ! なんて事! これじゃ人前にでれないじゃない!」
なんて事……これじゃあこの場を凌げたとしても迂闊に街に帰れないわ。
「ぷっ……くくく」
クドウさんが笑っているけれど今の私はそんな事につっかっかっている余裕はない。
「探すの手伝ってやろうか?」
「あぁぁあぁ…………は?」
え?
「だから探すの手伝ってやろうか?」
怪しい。そんな事をして盗賊のあんたに何のメリットが……
「何が狙いなのよ? 隠しても無駄よ。あんたが碌でもないことを考えてるのはお見通しよ!」
「酷いなぁ俺はお前達の側で楽しく過ごそうとしているだけなのに……」
って言うかさっきから"楽しく"ってなんなのよ。
「………さっきからその"楽しく"ってなんなのよ……?」
「さっきも言っただろ? お前ら王族に降りかかる厄介事に首を突っ込んで、俺が楽しく過ごしたいだけだ」
「それの何が楽しいのよ……」
「何の変化もない日々を淡々と無駄に過ごすより、色んな刺激があるほうが凄く楽しいだろ」
「……全く分からないわね」
「わかんないか……残念だ」
そんな事が楽しい訳ないじゃない。
やっぱりこの人は変人だわ。
って言うかクドウさんならこんなやり取りをしなくても私を拐えるわよね……?
……もしかして言動や思考がおかしいだけで普通の良い人なのかしら……?
「…………それじゃあ……もしも私達王族に厄介事が起こったら、あんたはどっちの味方をするの……?」
「面識のない赤の他人の味方をするわけないだろう」
「…………ふ、ふーん……じゃあ貴方は盗賊じゃ無いのね?」
「は? そんなわけないだろ」
私はクドウさんが嘘をついていないか目を見て確かめる。
私は人の嘘を見抜くのが得意だ。でも、目を覗き込まないと分からない。
……クドウさんの目はあの時の盗賊のような穢れた雰囲気の目じゃなかった。
その時のクドウさんの目は、口では悪く言うけど本当は優しい、そんな感じの素直じゃない人の目をしていた。私はその目に見覚えがあった。
他にも何かあるようだったけど、私はその目に見覚えがなかった。
「………なるほどね……じゃあもう良いわ。あんたが敵じゃないって言うなら信じてあげるわ」
思わず、そう口に出していた。
『疑ってごめんなさい』とは恥ずかしくて口に出来なかった。その上、腕を組んでそっぽを向いてしまった。